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新世紀の人類  作者: 宅配業者
【前編】
8/24

2-4

「ええで、岩の。ほな、中入ろか。」

「あ?外でやればいいだろ。」


 むしろこういうときは「表に出な」ってパターンだろうに。


「なんでや。もしかしてワイとガチで殴りあう気ぃだったんか?」

「直接の殴りあい以外に何があるというんだ。」


 殴り合いというよりも、死んでも構わないというつもりでぶちのめすつもりだったんだが。


「アホぬかせ。ガチでやりあったらお前さん死んでまうで。Bランクや言うたやろ。

中でラダムを倒した数を競うんや。制限時間は10分ってとこやな。お嬢さんは審判頼んます。」

「はあ……なんか私はもうどうでもよくなってきたんだけど。」

「そうか、分かった。ルール無用で殴り合おう。いやむしろ死んでくれ。」


 その後かなりグダグダになったが、結局三沢の提案を受け入れる形になった。

 俺は武器を作るため駐車場のコンクリートに手をつく。コンクリートが俺の意思に従い、一本の石柱となる。石柱は俺の腕と一体化し、巨大な棍棒としての役目を与えられた。


「ほ、ほう。なかなかでかいやないけ。」

「これでお前を叩き潰したかった。」


 三沢の顔に脂汗が浮く。暑いのか。




 工場内には無数のラダムが溢れていた。情報にあったとおり、種類は「サボテン」と呼ばれるものだ。

 サボテンはその名の通り地面から生える植物のようなラダムだ。電柱ほどの太さの本体に長さ1メートルほどの針が生えている。高さは2m~4mほどで色は紫。サボテンでいう根の部分に口があり、長い舌を出して金属を舐めるように食べているらしい。食事を終えると横倒しになり、針を足のように使って新たな食卓へ向かう。

 サボテンは機敏に動けない上に、武器である針も専ら自衛と移動のために使うのでかなり危険の少ないラダムだ。

 とはいえ放っておけばどんどん増えていく以上駆除しないわけにはいかない。


「ほな、いくで。樹里はん審判頼んます。」

「んー。」


 樹里は中二階のようなところから見下ろしている。いや、こちらを見ずに自分のつめをいじっているが、とにかくそこから審判するという体でいる。


「じゃあスタートね。」

「オラァ!!」


 ドグシャアアア!!

 俺が殴り飛ばしたラダムは三沢の頭上をかすめ、壁に激突した。


「……ちっ、外したか。」

「おんどれ何さらすんじゃドアホ!!」

「あ?事故だよ事故。それよりさっさと倒すぞ。」


 不意打ちを外してしまった以上、もう狙っても当たってくれないだろう。不本意ながら真面目に仕事をするモードに切り替える。


「ッラァ!!」


 石柱を振り回し、針に貫通されながらもそのまま軸を叩き潰す。

 石柱に開いた穴は随時能力で埋めていく。

 問題ない。このままガンガン潰していこう。

 と、そのとき、工場内に光が満ちた。


「ビームだ!」


 振り返ると三沢が口から光の帯を吐き出していた。淡黄色のその煌きは紛れも無くビーム!

 ああ……くそう、欲しかったなあ、ビーム。

 そんな俺の視線に気がついたのか、三沢がこちらを見てにやりと笑う。


「どや?」

「ぐぬぬ……。」


 いかん、冷静になれ、俺。手のひらや目からならともかく口からってちょっと微妙だろ。

 そう言い聞かせ、ただ黙々とラダムを押しつぶすことに集中する。

 三沢もそんな俺を見て煽るのを諦めたのか、びーびービームを出してラダムを焼き切っていく。



 ときどき事故が起こりそうになりながらも半分ほど倒したところで異変に気づいた。


「……なんか臭くないか?」


 いや、臭い。間違いなく臭い。キムチと納豆を混ぜて田舎の公衆便所にぶちまけたあと牛乳と一緒に拭いた雑巾を3日放置した後の芳醇にしてスパイシーな香りがあたりに漂っている。

 やばい。泣きそうだ。思わず崩れ落ちる。


「どうした孝ちゃん!?」

「……臭いが!やばいんだ!臭い!もしかしたら工場に残ってた薬品か何かから有毒なガスが発生した可能性がある!」


 なんの工場かは分からないがそうとしか思えない。

 だとしたらこれはかなり危険な状況といえる。身体はなんとか動くが思考が混濁してきた。頭がガンガンと痛む。


「おいどうしたんや、岩の。もうへばったんか?」

「お前も早く逃げたほうがいい。有毒なガスが……」


 三沢は平然とした様子でクンクンと臭いを嗅ぐ。そして何か得心がいったようだ。


「お……おい、大丈夫なのか?」

「いやー、悪いの。これワイの能力のせいや。」


 何だと。三沢の能力はビームじゃなかったというのか。

 確かに一人で複数の能力を持つ人間もいる。俺だって身体を変化させる能力と石を操作する能力は別物といえる。

 だがビームと毒ガスだと!?


「ワイの能力は『口臭をエネルギーにビームを撃つ』っちゅーもんでな。どうしてもビームも臭くなってまうんや。堪忍な。」

「…………。」


 絶句。

 この状況を生み出した元凶に対する怒り。ビームが予想外にださいデメリットを持っていたことに対する悲しみ。そんな半端なビーム能力に対する哀れみ。そんないろんな感情がごちゃ混ぜになって口からスプラッシュしそうだ。


「まあ気にせんと、続きやるで!」


 三沢はがーがービームを打ち始める。

 俺は動けない。動けない。

 能力も解除される。とても維持できない。集中できない。

 倒れる。

 サボテンにやられることはないだろうが、思わぬ形で命の危機に陥ってしまった。苦しい。

 その間にも三沢はぼんぼんビームを打ち続ける。

 このままでは勝負に負ける以前に死んでしまう。


 そうだ、樹里は大丈夫だろうか。

 さっきの様子だと上階はまだ臭いが届いていないようだ。

 せめて樹里だけでもブじに逃げてくレるといイんだが……。

 そんナことをオもいながラ……おれは……イシキが…………


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