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千葉県の海岸沿いにある工業地帯へやってきた。
今回の依頼は今は使われていない廃工場に現れたラダムを倒せということだ。
当然樹里もついてきている。
「えーっと……あ、あれか。」
自衛隊が周囲を取り囲むように配置されている工場なんてそうそう見間違えないだろう。
しかし都市迷彩でもない野戦仕様でウロウロしているのはどうなんだ。
「ねー孝ちゃん、自衛隊ってなんか臭そうだよね。」
「なんだよその偏見は。」
何はともあれ、その自衛隊の人間に接触する。勝手に入るわけにはいかないだろうし、何より仕事であるからには報告、連絡は必須だ。
「すみません、ラダムの討伐を依頼されて来ました岩崎です。」
「ああ……はい。分かりました。どうぞ。」
事情が分かると露骨に顔色を変える自衛隊員A。道ばたに落ちたたこ焼きでも見るような冷めた視線。
そうか。何、いつものことだ。
「よし、じゃあいくか、樹里。」
「任せたまえ。」
工場の入り口へ近づいていく。
さて、今回の相手のことを考えると空手で行きたくはない。そこでコンクリートでできた駐車場に手をつく。
とそのとき、後ろから声がした。
「好きや!!」
大きな声に何事かと振り返るとそこには一人の男が立っていた。
髪は茶で肩まで伸びる長髪、目は緑と赤のオッドアイ、日本人離れしたくっきりした目鼻立ちが印象的だ。背は俺より頭ひとつ高く、脚もすらりと長い。
年のころは25~6といったところだろうか。
この暑いのにマントのようなものを羽織っている。
「そこの黒髪、ワイの女になりや。」
「私か?」
樹里が自分を指差すと関西弁はうなづく。
「えー?私ー?どうしよっかなー。どうしよう孝ちゃん?」
樹里がニヤニヤしながらクネクネしている。正直気持ち悪い。
別に好きにしろといおうとしたが、それを遮るように関西弁が言う。
「なんや?そいつ彼氏か?そんなけったいな男捨てて、ワイについて来い。」
その言葉に樹里の表情が変わった。いつもの怒りの表情だ。
「やめた。」
「?」
「お前みたいなうんこ野郎と付き合う気はないって言ったんだよ。」
「なんd……う、うんこやとぉ!?」
「やーい、うんこヘアー!」
小学生か。
関西弁は顔を真っ赤にして恥辱に耐えている。
「お前のせいや!」
「俺?」
ここで俺に矛先が向くのか。
「ワイと勝負しろ!ワイが負けたらこの件は水に流したる。ワイが勝ったらお前は土下座や!」
「そうか。断る。」
「なんやて!?なんでや!!?」
俺にメリットが全くない。
というか何故俺が土下座しなきゃならないんだ。
「ははーん……。さてはワイの能力を恐れてるんやな?」
「お前の能力など知らん。」
「私もうんこマンの能力なんか知らなーい。」
どんどん顔が赤くなる関西弁。よほど負けず嫌いなのか、うんこマンという恥ずかしい呼び名に怒っているのかは分からない。
「ええやろ、教えたる!ワイの名前は三沢秀吉!能力はビーム、Bランク能力者や!!」
「そうかそうか……いや、待て、今何と言った?」
俺は動揺した。まさか、本当にそんなことがありえるとは思っていなかったから。
俺の様子を見て気を良くしたのか、真っ赤だった顔に笑みを浮かべて三沢が答える。
「Bランクや、Bランク。どや?びびったか?」
「そこじゃない!」
ランク付けとかどうでもいい。
「お前の能力がビームだと?」
「?それがどうかしたんや?」
「そうか。そういうことなら話は変わる。さっきの勝負受けよう。」
「そんな孝ちゃん、私のために……!」
「樹里は関係ない。」
「小さい頃に夢見たことがあるだろう、もし自分が魔法を使えたら、ひとつだけ魔法を使えるならどんな魔法がいいかと。
俺はね、こう思ったよ。どうせ魔法を使うならカッコイイ物の方がいいと。
たとえば炎の魔法を使えるとして、手から出るのと尻から出るのとではかっこよさが全然違う。尻から出る炎なんて出ないのと同じだ。
俺が考えた。最もかっこよく、そして最も実用的な能力とは何か。
手から炎が出るのはカッコイイが、火事になったら困るしそもそもライターで十分な場面が多く、実用性が低い。
風を操るのは、言葉だけならカッコイイが見た目が地味だ。
俺は悩んだ、悩んで、悩んで、悩んだ末にたどり着いた結論。最も俺がカッコイイと考えた魔法は『空を飛ぶこと』か『ビーム』だった。」
一度言葉を区切る。
「それをォ!!お前はァ!!!!」
「なんでや!?ワイ関係ないやろ!!?」
「へー、孝ちゃんそういうのが好きだったんだ。」
ビシッと音が出そうなほど鋭く指差し、叫ぶ。
「三沢秀吉!!俺の名は岩崎孝一、能力は『肉体を岩石に変えること』。勝負の申し込み、受けた!!」