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「もしもし。」
「環境省特定外来生物対策室の藤原です。岩崎孝一様でございますか?」
「藤原さんですか。また出ましたか。」
いつもの担当者だ。質問には答えず話を進める。
「はい、走行中の電車が脱線し、横転しました。そのときの状況と、駅員の連絡からラダムが出現したと考えられます。」
ラダムは金属で出来た生物だ。ノス能力者と同時期、突然現れた謎の多い生き物だ。
主食は金属。今回のように人里に現れては金属製品や機械、施設を食い荒らして物的被害を与える。
積極的に人間を襲うことはないが、決して安全で無害な存在とは言えない。
「そこでラダムの掃討を依頼します。」
「分かりました。詳しい情報をお願いします。」
「本間樹里様は?」
「ああ、仕事だけどどうする?」樹里に尋ねる。
「行く!に決まっておろう。」即答。
「2人で行くことになりました。で、詳しい情報を。」
「はい、場所は北上尾と桶川の間。種類はG、数は4~5匹と報告されています。それから……」
その他必要そうな情報をざっと聞いて俺たちは事件現場に向かうことにした。
バイクにまたがって街を駆ける。後ろには樹里が乗っている。
「なー孝ちゃん!何故車を買わないんだ!?」背中で樹里が叫ぶ。
「必要ないだろ!俺と、せいぜいお前しか乗らないんだから。」
「だってこれ落ちそうで怖いんだもん!」
以前そう言われたからタンデム用のベルトとバックレストを購入したのだが、それでもまだ不満らしい。
俺の腰にまわされている樹里の腕はぷるぷると震えているようだ。
しかしこれだけ密着していても背中が全く楽しくないのは残念だ。
「残念なヤツだな。」
「怖いものは怖いんだから仕方ないだろう!馬鹿!」
そんな話をしながら走っていると線路が見えてきた。線路沿いに進む。
現場は線路上にあるのだから、このまま走っていけばそのうち着くだろう。
「孝ちゃん、アレじゃないか!?」肩の後ろで樹里が叫ぶ。
「おお、着いたか。」
線路上に横転した電車が見える。また、周囲では警察が人払いをしている。
当然、警官の一人に止められることとなった。
「すいません、今ここ通行止めなんスよ。」
「いや、俺たちは……俺たちはラダムの掃討依頼を受けて来たんだ。」
俺が言いよどんだのは、その警官が俺のかつての同僚だったことに気づいたからだ。名前を淵沢という。
向こうもこちらに気づいたようで、渋面を浮かべながら顔を逸らす。
「……どうぞ。」
俺は1年前までは警察官として働いていた。ノス能力に目覚めてから一ヶ月ほどで自己退職を求められ、今の立場にいる。
淵沢は、かつては俺のいい後輩だった。それなりに仲もよく、一緒に飲みに行ったりもしたものだ。
だが、俺がノス能力に目覚めてからはこのザマだ。目をあわせてもくれない。
すでに1年経っているがやはり慣れない。立ち居振る舞いの全てがいちいち俺を拒絶し、その全てが俺に悲しみと絶望を与える。
とにかく、バイクを停車し、タンデムベルトとヘルメットを外して準備を整える。
と、そのとき、奥から破砕音が響いた。警官たちが騒然とし始める。
「樹里、行くぞ。」
「ふふん、いいだろう。」
俺たちは騒ぎの中心へ駆け出した。