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自宅であるマンションに帰りついた。
駐輪場に目をやるといつもの赤い自転車が止めてある。どうやらあいつが来ているようだ。
階段を上り、自室のドアを開ける。鍵はかかっていない。
「やあ、おかえり。」
「ただいま。」
ソファに腰かけテレビを見ながら答えたのは本間 樹里だ。
黒髪ストレートで病気のように青白い顔をしている。中学生にしか見えないようなチビで貧乳だが、一応18だか19だか、それぐらいだったはずだ。
一応仕事仲間なんだが、仕事がないときも大抵俺の家に来る。そして俺がいないときはドアを壊して上がりこんで来る。そんなことが2度あったので今では合鍵を渡している。
「孝ちゃん、腹が減ったぞ。」
「冷蔵庫の中のもの好きに食えよ。」
「そうではない。」
どうせ料理を作れと言い出すのだろう。適当に受け流す。
クールダウンとして軽いストレッチをする。
樹里はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべ話しかけてくる。
「料理ができる男ってもてるらしいな。」
「へえ、そうか。」
「孝ちゃんはもてたくないか?ん?」
「ああ……そうだなぁ。もてたいな。」
やはり女の子にもてもてというのは男の夢だろう。もてたい。ちやほやされたい。
というか男とか女とか関係なくちやほやされたい。
「それじゃあさっそく料理を!!」
「しないけどな。」
「なんでよっ!!」
樹里の笑みは吹き飛び、いつもの怒り顔になる。
手元のクッションを投げつけてくる。ボフッと顔にぶつかると俺の手の中に納まった。
むすっとしながらも語気を抑えて続ける。どうやら今日は絡め手で来るようだ。
「ほら、食材は買ってきてあるんだ。使うことを許可しよう。遠慮せずに使うがいい。」
樹里の足元にはスーパーの袋が転がっている。
飲み物や菓子のような調理しなくて食べられるものはすでに食い散らかされているようだ。
「ああ、心配することはない。作った料理は私が食べてやる。感謝しろ。」
「はあ……分かったよ。シャワー浴びてからでいいか?」
「やったー!孝ちゃん大好き!」
ストレッチを終え、シャワーを浴びる。
シャワーから上がり、袋の中を確認する。牛肉、キャベツ、ウィンナー、焼きそば、りんご、ほうれん草、バター、豚足、ムール貝、とろけるチーズ、イカ、などなど……。
いつものようにとりとめのない品揃えだ。
「大したモンは作れないぞ。」
「いいから作ってくれたまえ。早く頼むぞ。」
30分後、適当に組み合わせた適当な料理を出す。
料理自体は長いことやってきたが全て我流なので適当な料理しか出来ないのだ。
「うむ。うまいうまい。」
「こぼすなよ。」
樹里の隣に腰掛け、テレビを眺める。
番組はノス能力者の特集のようだ。
「なんだ、またこの手の番組やってるのか。」辟易する。
「いいじゃないか。私は大好きだぞ。」にこにこしながら樹里が答える。
「……というわけで、ノス能力というのは超常的な、いわゆる超能力の一種ですね。」
「えー、現在日本では300人余りが確認されていまして、確率に直すとおよそ0.0003%ということになりますね。」
「その300人のほとんど全員が、違った能力を持っているんですね。それでは、ここで皆さんにノス能力の一例を見ていただきましょう。」
テレビではフリップでノス能力の一例が挙げられていく。
空気を自在に操り、鉄板すらも破壊できる能力。
体液を銃弾のように飛ばす能力。
未来予知。
触れるだけで人も機械も壊してしまう能力。
「私の能力も披露されるか?」樹里は子供のようなキラキラした瞳でテレビを見ている。
「出ないほうがいいだろ、こんなもん。」
能力一覧を見た出演者の反応は決して好意的ではない。
「空気で鉄板を。ほー。ちょっと信じられないです。」
「体液を銃弾にって……、それ銃持ち歩いてるのと同じってことですよね。」
「触るだけで死んじゃうって怖いですねぇ。」
驚きと好奇心も入り混じるが、やはり何よりも恐怖や警戒心が強く出る。
能力を持たない人間から見ればノス能力はあまりにも強大で危険すぎるからだ。
これを見たらさすがの樹里も……
「私の能力の方が強いのに!!孝ちゃん、ちょっとテレビ局に抗議の電話してよ!」
……こういうやつだったか。
というか口の中に食い物を入れて喋るな。焼きそばを使った何かがポロポロこぼれる。
「さて、日本では、ノス能力者は『ラダム』と戦っています。」
丁度そのとき、電話が鳴った。