3-1
そもそもこいつらは初対面から気に入らなかったんだ。
全身ピンクのデブ野郎にピンク髪のデカ女。第一ピンクってのが良くない。中学のときにやたらとうるさかったクラス委員長がいたが、そいつに偶然町中で出会ったときも全身ピンクだった。とにかくピンクはよくない。
ノスがチームを組むことはほとんど無い。少なくとも俺はこんなピンク共と組むつもりはない。おそらくあいつらも同じようなことを思っているだろう。
だから政府のやつらはそんなことお構いなしに、俺たちをひとつの現場にまとめて送りやがる。中にはいやでも顔見知りになるやつらもいる。
今回のピンクどもは初対面だ。初対面のやつらと一緒に命を賭けて戦えというんだから、無茶というより他ない。
いや、むしろ政府としてはそれでいいんだろう。奴らは俺たちを殺したいんだから。
「おい!猫ちゃん!来るぞ!!」
「猫ちゃんって呼ぶんじゃねえ!デブ!!」
デブの声で意識が戻る。
振り返ると坑道の奥からガシガシと進行してくる奴らが見えた。
蟹
巨大な鋏と6本の脚を持つまさに「蟹」のようなラダムが蟹だ。全身は薄紅色で金属光沢を放っている。分厚い装甲と強力な鋏が長所で、まさに重戦車のようなラダムだ。しかも本来鈍重なはずなのに、こいつらは何故か機敏な動きまで身につけているというおまけつき。
それが十も二十も迫ってきている。真正面から戦えばとてもじゃあないがただではすまない。
しかし……それにしても、デブの呼び方も気に入らない。猫ちゃんだなんて呼ぶな。
「だがやるしかねえか……うおおぉおぉぉ!!」
俺はナイフを取り出し右手を切り落とす。骨と骨の間に刃を突き立て、ごりごりと押し込んでいく。硬い腱に当たった。血管が引っ張られる。それでも尚歯を食いしばり、とうとう最後の皮一枚を切り落とした。
大量の血液とともに切り落とされた右手は、何かを捜し求めるようにぐねぐねとうごめく。次第にそれは黒く染まり、形を変え、一匹の猫になった。
「いけ!!」
猫は鋭い爪で蟹の身体を斬りつける。表面に傷はつくものの、ダメージになっているようには見えない。
「はっちゃらげ!!」
デブがハニワとクラウチングスタートを足してもんじゃ焼きにしたようなポーズをとる。
デブの身体からピンクの触手が伸びると、そのまま蟹を殴りつけた。殴られた蟹はクッキーのように砕ける。これは例えではなく、本当にクッキーになっているらしい。
その隙に猫を洞窟の天井に張り付かせる。
「食らえ!!」
猫は一瞬輝いたかと思うと激しく爆発した。爆発を耐えた蟹を巻き込みながら天井が崩落する。
「おい!ちょ!うおおおおおお!!!」
激しい崩落でデブも押しつぶされたようだ。だからピンクは駄目なんだ。
「へへっ……ざまあみやがれ。」
右手の様子を確かめる。出血はすでに止まっている。30分もすればまた生えてくるだろう。
しかし十数匹つれて来た猫部隊がほぼ壊滅し、緊急で追加の一匹を出さなきゃならなくなるとは思わなかった。全く勘弁してほしい。
だがとにかくこれで退路は確保できた。これより手前の敵は全て倒してきたし、通路はここ一本だけだ。瓦礫の山が時間稼ぎをしてくれるだろう。少しだけ休んで、それからすぐ逃げよう。
カラッ……
「誰だ!?」
背後からの物音に慌てて振り返る。
「なんだお前か……生きてたんだな。」
緊張して損をした。安堵のため息をつく。
だが一人より二人の方が、同じ逃げるにしてもマシだろう。そう思って俺はすっかり安心した。油断した。慢心した。
だからピンクは駄目なんだ。




