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ブクマ7のまま死んだ流行ガン無視作家の俺、20歳からやり直して『俺が世界で一番好きだった物語』を完結させてやります

作者: タイラ
掲載日:2026/08/22


 突然、目の前がクラッと歪んだ。



 深夜二時。


 無駄に眩い画面の明かりだけが、狭いワンルームの澱んだ空気を照らしている。

 サビ残で擦り切れた体を引きずり、俺は今日もキーボードを叩いていた。


 誰にも読まれていない。

 流行りのチートもざまぁもない、ただ俺が好きなだけの自己満ファンタジー小説。

 だけど、この画面の中にいる奴らだけが、俺の灰色の日々の生きがいだった。



 キーボードに突っ伏した衝撃で、画面にはワケのわからない文字列が並んだ。


 作家の端くれが、作品になんてものを打ち込んでいるんだ。

 早く、消さないと……


 指先がまともに動かなかった。

 バックスペースキーへの距離が、やけに遠く感じる。


「ぁ゙っ……」


 なんだろう。凄く胸焼けがする。

 話を書いていて胸が痛くなる事はあるが、そういうのじゃない。


 頭も痛い。


 まだ、今日の話も書き終わってないんだ。

 260話も、毎日欠かさずに書いてきたんだぞ。


 ブックマークが7人もいるんだ。

 こんな俺の作品にだって、更新を待ってる人がいる。


 一日だって書くのを止めちゃいけない。

 止めたくない……!!



(…………一時間だけ、寝るか……)



 その浅い眠りが、35歳の俺の、最期の眠りになった。


─────


 ハッと目が覚めた。


 視界に飛び込んできたのは、無駄に眩い液晶画面じゃない。

 優しい日の光に照らされた、部屋だった。


(……やばい……寝過ごした……!? 会社から連絡…………あれ)



 机の上に置かれたパソコンには、見覚えがあった。

 一人暮らしが始まった時に、初めて自分の金で買ったパソコンだ。


 バイト代を貯めて買った、あの……


「…………」


 部屋を見渡してみる。

 まだ物が少なく、綺麗に整えられた部屋。


(夢……?)


 そう思い、腕を爪で挟んで、思い切り力を入れてみる。


「痛……」


 爪を離した後も、腕にはしっかりと小さく、跡が残っている。


 今考えれば、頭痛がきれいさっぱりなくなっている。

 ほぼ慢性化していて、今日は薬も飲めてないのに……


 それに、目が重たくない。シパシパした感覚が無い。


「…………」


 作動していないパソコンの、黒い液晶画面に自分の顔が映る。


「えっ」



 クマが小さい、シワが寄ってない、コンプレックスだった、死んだ魚みたいな目をしていない。

 あるのは、治りかけのニキビだけ。


 これ……20の時の俺じゃね……?



 恐る恐るパソコンの電源ボタンを押す。

 ファンの低い回転音と共に、懐かしいOSの起動音が鳴り響いた。


 画面の右下に表示された日付は、今から15年前の、8月8日。

 大学2年生の、夏休み。


「はぁ……!?」


 わけがわからない。何が起こってるんだ?


「そうだ、スマホ……会社から連絡……」


 机に置かれていた、2代前のスマホを手に取り、開く。

 しかし、そこには会社の通知ではなく、友人からの『今日飲み行こうぜ』のメールだけが入っていた。


「なんで……」


 友人の『ユウヤ』とは、会社で離れてからきっかりと疎遠になってしまっていた。

 それなのに、「飲みに行こう」だなんて、大学生みたいな事を、急に……



 そこまでで、ようやく寝ぼけから目が覚めた。


 これ、本当に大学生時代に戻ってないか……?


 それに気付いたとき、さっと血の気が引いた。

 会社の仕事がどうだとか、そんなんじゃない。


 慌ててパソコンに向き合い、「なろう」に入ろうとする。

 しかし、飛び出してきたのは「アカウントをお持ちですか」のページ。


「っ……!!」


 パスワードなんて、いちいち覚えてない。


「そうだ、メモ取ったノート……」


 見当たらない。

 そりゃそうだ。なろうは30過ぎてからの、気を紛らわせるための趣味として始めたんだ。

 推定大学生頃と考えられる今に、メモなんて取ってない。


 アカウントすら、作ってない。


 作品も、残ってないんじゃないか……?



 画面を見つめる目を、カッぴらいて硬直してしまう。

 あれだけ書き続けた作品を、もしかしたら俺は『エタった』んじゃないのか……!?


 浅くなった息を、落ち着かせられない。

 そんなの、生きがいを失ったのと同じじゃないか。


 嫌だ。消えてほしくない。まだ『あいつら』の人生を、最高の形で終わらせてやれてないんだよ……!!



 その時、スマホにメールが届いた。


『まだ寝てる? 起きてんなら早く返事しろ』


 ユウヤからの、返事催促メールだった。

 それを見て、固まった身体が少し緩んだ。



 ……そうだ。俺は今大学生まで戻ってるんだ。

 今から書き始めれば、完結させられる。

 置いてきたあいつらを、ちゃんと終わらせてやれる。


 それに、もしかしたら、35歳で過労死なんて、そんな結末を回避できるんじゃないか……?



 とりあえず、メールを開き、少し震える指先で返信する。


『もちろん、行く』

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― 新着の感想 ―
うわ〜!! いい終わり方ですね(*^^*)♪ 5年で未完だった物語も15年あればきっとイケる〜!!\(^o^)/♪ クマ、シワ、死んだ魚みたいな目……読んでて自分のようで苦しい〜(ToT) 流行…
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