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短編置き場

聖マリアナ女学院中等部・当たらない予言

作者: ひなた真水
掲載日:2026/05/20

◆私立聖マリアナ女学院中等部・当たらない予言◆

 

 今日は我が2年C組に転校生がきたので、ホームルームで紹介しなければならない。


「それじゃ、眉墨さん。教室に行きますよ」

「はい、先生。よろしくお願いします」

 

 それにしても、きれいな子だわ…

 まっすぐ真っ黒なロングヘアに、色白で、長いまつ毛の黒目がちな瞳。

 いかにも我が校に相応しいお嬢様って感じで、理事長が大歓迎するのも分かるわね。

 

 まあ、理事長の大歓迎は、それだけじゃないらしいけど。

 彼女の転校にあたって、かなりの寄付金があったそうだって聞くものね。

 

「みなさん、静かに。今日は転校生を紹介します」

 

 ざわめく教室に彼女を連れて行くと、指示通り黒板に大きく名前を書いた。

 

眉墨(まゆずみ) 桃華(ももか)

 

 書き終わった彼女はくるりと教室に向き直ると、自己紹介を始める。

 

「初めまして、眉墨桃華です」

 

 教室のあちこちから、小さく囁く声が伝播していく。

 

「わ。すごく、きれいな子ね」

「かわいい〜」

 

 彼女……眉墨桃華の涼やかな声に、クラスの子たちはうっとりしてるようだし、これならクラスに馴染むのも早そうね。

 

「趣味は、当たらない予言です」

 

 桃華のそのひと言で、クラスの雰囲気が変化した。

 

「……予言って?」

「えー、当たらない予言なの?」

「それ、なんの意味あるの?」

 

 ……なんだか、変わった趣味の子ね。

 とにかく授業を始めようと、彼女に席を指示するために、口を開こうとすると、桃華は続けた。

 

「せっかくなので、今日の予言を言います。『校舎に悪魔の悲鳴が響き渡るでしょう』」

 

 途端、大人しかった教室が、一気にざわざわしだすから、わたしは慌てて注意しようと口を開く。

 

「みなさん、お静かに。眉墨さんは、2列目のそこが自分の席――」

 

 ジリリリリリリリリー―――…

 

 わたしの指示を遮るように、校舎中にけたたましく非常ベルの音が鳴り響いた。

 

 え? これが悪魔の悲鳴…? まさか……

 

 焦りながら、眉墨桃華の顔を覗き込むと、彼女はニッコリ笑って言った。

 

「残念。やっぱり、当たらなかったねー」

 

 ◆

 

「今日はなんか、すごかったね」

「予言、当たらなかったけど、なんか学校が、楽しかった!」

「1日1回なのが残念〜っ」

「明日もしてもらおうよ! 当たらない予言!」

 

 放課後まで教師が総動員されて、非常ベルのボタンを調べたけど、結局ただの故障だってことで落ち着いてしまった。

 誰かが共謀して、ボタンを押した形跡は見つからなくて、わたしは少しモヤモヤしてしまう。

 

 本当にただの偶然だったのかしら?

 

 眉墨桃華。容姿端麗で由緒正しい家柄の子だけど、要注意の生徒だわ。

 

 ◆

 

「あ、先生。おはようございまーす」

「先生、おはようございます」

「おはようございます。カバンのキーホルダーが、ちょっと多いですよ」

 

 朝の校門前にて、いつものように服装チェックをしていたら、眉墨桃華が登校してきた。

 真新しい我が校の黒いセーラー服に、指定カバン。隙のない服装に、美しい佇まい。

 見た目はすごく、真面目そうな生徒に見えるのよね。気にしすぎかしら?

 

「眉墨さん、おはようっ」

「おはよう。課題やってきた?」

「一応ね。それより、今日も予言聞きたいな」

「えー? わたしの予言は当たらないよ?」

「当たらなくても聞きたいのっ」

「わたしも! 今日は学校に、何が起こるの?」

 

 たった1日で、クラスにもすっかり馴染んでるから、何も問題はないように見えるんだけど……

 

「じゃあ、今日の予言は『校庭に、血の雨が、降り注ぐでしょう』だよっ」

「眉墨さん、あまり不穏なことは……」

 

 わたしがそう言いかけた瞬間、老朽化していた校舎の水道管が、急に破裂して噴水のように水が吹き出した。

 

「わぁ〜っ! 血の雨じゃないけど、降り注いでる!」

「見てー! 虹が出てるよ! すごーい!」

「予言は当たってないけど、すごいね!」

 

 校門前から見える中庭は、あっという間に水浸しで、生徒たちはキャーキャー大騒ぎしてる。

 

「みなさん、落ち着いて! あちらの渡り廊下から、教室にすぐ行きなさい!」

 

 わたしたち教師は、大慌てで生徒たちに指示を出して、修理業者を呼ぶ羽目になった。

 当然、わたしは眉墨桃華を呼び出して、お説教しなくちゃならない。

 

「眉墨さん、不穏な予言は慎みなさい」

「でも先生。わたしの予言が当たったわけじゃないわよ?」

「そうよ、先生。眉墨さんは悪くないわ」

「学校の管理責任でしょー?」

 

「本当に、あなたのせいじゃないのよね?」

「違うってば、先生。ただの偶然よ」

「眉墨さん、いっしょに帰りましょー」

 

 すっかり人気者になってしまった彼女には、味方だらけで指導するのも大変だわ。

 彼女が何かしたわけでもないから、モヤモヤするけど、このくらいにしておかないと。

 

 全く、面倒な生徒の担任に、なってしまったものだわ。

 

 ◆

 

 眉墨桃華が転校してきてから3日目。

 クラスメイトたちは期待に目を輝かせて、全員集まって眉墨桃華を取り囲んでる。

 

「ね、眉墨さん。今日の予言は何っ?」

「今日も面白い予言聞かせて!」

 

「今日はねー、『昼休みに、黄色い鬼の、襲撃があるでしょう』だよ」

 

「わ。今度は黄色い鬼だって」

「すごいね、学校が襲撃されちゃうのかな?」

 

 眉墨桃華の当たらない予言の噂は、あっという間に校内を駆け巡って、わたしの耳にも入ってきた。

 もはや校内は、ちょっとしたお祭り騒ぎで、教師も生徒も浮足立っている。

 

 昨日までのこともあったし、水道管破裂の事件はSNSで拡散されてもいる。

 問題視していたわたしたち教師陣は、校門から何者かが襲撃してこないかと見張りまで立てて対策していた。

 

 けれど、そんな警戒をよそに、わたしの予想の斜め上をいく事件が起こる。

 学校前の道路で、トラックの衝突事故が発生するなんて、誰が想像出来るだろうか。

 

 停止したトラックの荷台が開いて、積荷だったひよこの大群が、校舎に向かって放たれてしまい、またまた聖マリアナ女学院中等部は大騒ぎ。

 

 ひよひよひよひよ

 ひよひよひよひよ

 

 ひよひよひよひよ

 ひよひよひよひよ

 

「いやーん! かわいいっ‼︎ 癒される〜っ」

「えー、もしかして、襲撃ってこれ?」

「黄色いけど、鬼じゃないよ」

「でも、すっごい、かわいい襲撃だね!」

「眉墨さんの予言は、やっぱり当たらなかったねーっ」

 

「そこの子たち! 勝手にひよこに触らないの! 教室に戻って待機してなさい!」

 

「先生、教室もひよこに占拠されてまーす」

「むしろ椅子の下とかにいるから、踏んじゃいそうで危険なんですけど?」

 

「いいから、とにかく教室に戻って! あとSNSで拡散するのもダメよ!」

 

「スマホは朝、ちゃんと先生に預けたでしょー?」

「わたしたちは、もう持ってないってば」

「持ってたら絶対拡散するけどね?」

「万バズ間違いなしなのに、勿体なーいっ」

 

 放課後まで教師たちが、総出でひよこを捕まえた後、わたしは堪りかねて、眉墨桃華を職員室に呼び出した。

 

「先生、わたしに話ってなんですか?」

「もう予言は禁止よ。いいわね、眉墨さん」

 

 これだけ毎日学校がパニックになるのは、どう考えても彼女のせいだから、なんとかしてやめさせないと。

 

「えー? わたしが何かしたわけじゃないわよ?」

「そんなことは分かってます」

「予言が当たったわけでもないのに?」

「それでも禁止! 禁止なの! いいわねっ?」

 

 わたしがキツくそう言ったおかげか、彼女はそれ以来、当たらない予言をすることはなくなった。

 学校も、表向きは平穏を取り戻して、少女たちは退屈な生活を送っているように見える。

 

 しかし、校内の片隅でこっそりひよこが育って、鶏になったり、学校に騒ぎがなくなったわけではない。

 これからも、彼女たちの賑やかな日常は続いていくのだった。

 

 おしまい

思いついたら、書かずにいられなかったんです。

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