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自分のデスクに戻ると、凜は実験の準備をした。
マイクロチューブラックを手元に置き、棚から試薬をいくつか取り出す。
いま遙にバッファーの調製をお願いしているため、石山から渡されたサンプルの解析はすぐには行えない。さらにはオートクレーブも行うので、バッファーが適温に下がるまでの時間も考慮に入れる必要があるだろう。
今日は、別に計画していた実験の作業からはじめることにする。マルチタスクは研究を効率よく進めるためには重要なことだ。
凜が準備をしていると、再び遙がやって来た。凜を見て、あっという顔になる。
「鳥須さん、忙しかったですか?」
「――いや、作業をはじめるところだから、まだ問題ない。バッファーの調製は?」
「終わりました。いまオートクレーブにかけてます」
「早いな」
凜は遙の作業の手早さに驚いた。研究室に出入りするようになってまだ数ヶ月だが、思った以上に飲み込みが早い。優秀な子だとは分かっていたが、器用さも兼ね備えている。
「そうそう、さっき愛稀に連絡してみたんです。そしたらすぐに返信が来て――」
そちらもずいぶんと早いものだ。
「『近いうちに会いたい』とのことです」
メッセージの部分を復唱したであろう部分は、愛稀の喋り方を真似たのだろう、遙はわざと少し舌っ足らずな喋り方をした。
「それは構わないが。しかし、なぜ僕なんかに」
「さあ――あの子の考えてることは私にもよく分かりません」
遙はさらりと言ってのける。でも――とさらにつづけた。
「もしかしたら、話し相手が欲しいのかな。あの子、友達が少ないようなんです。地元から出てきて、私以外には近くに知り合いもいないし。大学にもあまり関わりの深い人はいないみたいで。……ほら、あの子ちょっと変わってるでしょ?」
「風変りという意味では僕も同じだ。気にはしない」
「それもそうですね」
遙の物言いに、凜は思わず笑った。
「来週なら予定が空けられそうだ。彼女にそう伝えておいてくれないか」
「分かりました。もしかすると、ロマンスがあるかもしれませんね?」
遙はいたずらっぽく言った。ただ、明らかに面白がっている遙の口調とは裏腹に、凜はぽつりと言った。
「……それはあり得ないよ」




