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レストランを出た凜と遙は、大学に戻るべく、大通りを歩いていた。
道中で、通行人にチラシらしきものを配っている若者を見かけた。年恰好から、同じK大の学生だろうかと思う。傍を通ると、彼は凜にもチラシを渡してきた。
「勉強会やってます。よかったら参加しませんか?」
「……勉強会?」
凜はしばし立ち止まって、チラシを眺めた。
「そうです。学生たちで自主的に企画しています。さまざまな専門を勉強する人たちで集まって、一つのテーマについてさまざまな知見をもってディベートし、解き明かしていこう、という会なんです。明日の晩も開催予定なのですが、今回のテーマは『神は存在するのか』です。参加しませんか?」
(――興味ないな)
凜は内心思った。神など、彼の追究する科学の真理とは相反する概念だ。凜は、「どうも」とだけ応えて、その場を立ち去った。青年は遙にもチラシを渡そうとしたが、彼女はジェスチャーでそれを断り、凜に続く。青年とある程度距離が開いたところで、言ってきた。
「宗教勧誘ですよ、それ」
「宗教?」
「交流会に誘って、来た人を入信させるよう仕向けるんです」
凜はチラシを改めて見た。チラシの下の方に、団体の名と思しき名称が書かれているのを発見した。
「“科学真理研究会”?」
「それです。科学によって、真理を明らかにすることを目的に活動してる団体です」
「科学で真理を解き明かすなんて、当然のことじゃないか」
それは科学の本質である。宗教と絡める必要などまったくない。
「いえ、科学をもっと抽象的で神秘的な概念ととらえてるみたいで。ある教団が特定の神を信じる、みたいに科学そのものを神格化してとらえる、みたいな」
「うーん、意味が分かるような分からないような……」
「“精神世界”って聞いたことありますか?」
「精神世界?」
「英訳して“スピリチュアル・ワールド”ともいわれるんですけど。要は、心や精神的な概念によって構成された空間のこと。科学真理研究会では、そんな世界が実在していて、しかもそれが“世界の根幹”であると考えられているんです。そして、その世界の存在を信じ真理を感じることで、大いなるエネルギーを受け取れる――そんなことを教えているんです」
くだらないな――と凜は思った。
「しかし、ずいぶん詳しいんだな」
凜が言うと、遙は肩をすくめた。
「少し前に、学内で大々的に布教活動を行って、問題になりましたから。さっきの人が、学外でチラシを配っていたのも、キャンパスでやると大学の職員に怒られてしまうからなんです」
「そうなのか」
「というか、当時かなり話題になったので、割と多くの学生が知っていると思いますよ。鳥須さんが知らなさすぎるだけです」
遙の遠慮のない言い方に、凜は苦笑した。
「でもまあ、僕には関係のない話のようだ」
凜はそう言って、チラシを無造作に折りたたむと、上着のポケットに入れた。後で捨てるつもりだった。




