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――寒い、寂しい、ごめんなさい……。
真っ暗な部屋の中で、愛稀は目を覚ました。
「凜くん……?」
と彼の名を呼んで気づいた。ああそうか、帰っちゃったんだ――。
頭はまだぼーっとしている。誰かと酒を飲むのは、はじめての経験だった。楽しすぎて、つい羽目を外してしまった。それは、相手が彼だったからに他ならないと思う。それほどまでに、彼女は凜という青年に安心感を覚えたのだ。理由は分からないが、他の人間なら、あそこまで心を開けなかっただろう。
しかし、彼が帰ってしまったいま、愛稀の胸にはより一層の寂しさが広がっていた。
生後間もなく、実の両親に捨てられたという事実は、彼女の心の中に、ぽっかりと空虚の穴を開けていた。
育ての両親は、自分に十分な愛情を注いでくれていると思う。だが、彼女の心の穴を埋めるまでには至らなかった。
ひとりぼっち。
血のつながりから切り離された、根無し草――。
そんな感慨が、幼き頃から彼女の心の中に棲み続けていた。いまの両親だって、もともと遠縁の親戚であり、「日下」という苗字も同じだが、それでも魂のつながりまでは感じることができないのだ。
大学進学にあたり、住み慣れた実家から離れたのには、自分とは一体何者なのか、ひとりになってじっくり見極めたいと考えたという理由もあった。
しかし、やはりここにきて、生来から抱えてきた寂しさに耐え難くなってきている。ただでさえがらんとしたこの部屋が、さらに大きな空間のように思えてきた。壁も何もない、無限に広がった闇のなか、愛稀だけがぽつりと存在している……。
いたたまれなくなって、彼女は起き上がった。流しの方に向かい、カップを手に取って、そこに蛇口から直接水を入れて、がぶがぶと飲んだ。一息つくと、彼女は壁際の角の方へと向かった。そこに膝を折り曲げて座り、手を組んで、腰をかがめ、その場にうずくまる。
「どうか、私を、この苦しみから救ってください……」
彼女のか細い声は真っ暗な空間に吸い込まれていった。彼女はなおも祈り続け、さらにその体を小さく縮こませていった。その姿は、時間を戻し、胎児へと戻ってゆくようでもあった。




