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言われるがままに道を行き、たどり着いた場所を見て、凜は驚いた。
お世辞にも開けているとはいえない路地の奥に、「築50年以上」と聞いても不思議には思わないであろう、ボロボロな二階建ての文化住宅があった。
ここが愛稀の住居なのだという。
すっかり酔ってしまった愛稀を、凜はここまで送り届けてきたのだ。むろん、彼女に行き方を確認しながら歩く形となる。だが、暗がりのなかで現れたオンボロアパートを目の当たりにして、酔っぱらって間違った道を案内されてきたのじゃなかろうかと、彼は思ってしまった。
愛稀は建物の端にある階段をよろよろとした足取りで上っていった。彼女が万が一でも倒れたりしないようにと、凜も彼女の後ろをついてゆく。二階に上がると、通路の壁際には三つ部屋の扉が並んでいた。彼女はその真ん中の扉の前に立つと、彼女は鍵を取り出して、鍵穴に差し込んだ。捻ると、ガチャリとロックが外れる音がした。部屋はここで間違いなかったようだ。
「じゃあ、僕は帰るから」
愛稀が部屋に入っていくのを見届けてから、凜は言った。
「ええっ、帰っちゃうのぉ……?」
愛稀は彼を振り返って、呆けたように言う。
「さすがにひとり暮らしの女の子の部屋には寄れないよ。ゆっくりお休み。戸締りはしっかりと」
「うん。ばいばーい」
愛稀はひらひらと手を振った。つい今しがた、別れを惜しむようなことを言っていたのに、やけに切り替えが早いものだ。凜が苦笑しながら、扉を閉めようとした時、彼女はまた言った。
「ねえ、また会ってくれる?」
「その機会があればね」
「やった――」
愛稀はへにゃ、とした笑みを浮かべた。凜も微笑んで、「お休み」と扉を閉めた。
ガシャン、と玄関の鍵がかけられるのを確認して、凜は愛稀の部屋を後にした。再び階段を降りる。鉄製のそれはすっかり錆びていて、手すりの感触はざらざらとしていた。手を何気なく鼻に近づけてみると、生々しい金属の匂いが移っていた。
地上に降りて歩き出したが、凜はふと再び立ち止まって、アパートの方を振り返った。
建物は自らの裏手側、すなわちベランダの方を凜に向けている。上三部屋、下三部屋。そのうち、一階の右側の部屋のみ、窓から明かりが漏れている。だが、その他の部屋は暗闇に包まれていた。上階の真ん中――即ち愛稀の部屋にも明かりはついていなかった。確かに別れ際、愛稀が電気をつけるところを見ていない。しかし、今もなお明かりが見えないというのは奇妙である。あれから間もなく、突っ伏すように眠ってしまったのだろうか。
少し気にはなったものの、凜はとりあえず帰途につくことにした。うかうかしていると終電が過ぎてしまう。




