第9話:『女王、バズる。魔王、パシリになる。』
1. 圧倒的な公式マーク
「見て、ヴァルザー。これが『格』の違いというものよ」
リリスが優雅に肉球でタップしたスマホ画面には、青いチェックマークが輝いていた。
開設からわずか72時間。
彼女のフォロワー数は、クロがコツコツと「中二病ポーズ」で稼いできた数字を、軽々と飛び越えていた。
「バカな……! 我のこれまでの苦労は何だったのだ! ちゅ〜るを鼻につけて『あざとポーズ』までしたというのに……!」
「貴方のそれは『芸』。私のこれは『存在』。比べること自体、月と泥だんごを比べるようなものよ。」
「……ほら、次の投稿用の写真を撮りなさい。照明が足りないわ」
「……ハッ。ただいま、ライト(懐中電灯)を持ってまいります、女王陛下」
かつての闇の王は、今や「専属照明スタッフ」へと転落していた。
2. 撮影現場は戦場
女王リリスの美学は過酷だった。
「このキャットタワーの最上段から、憂いに満ちた表情で庭を見る私を撮りなさい。角度は下から30度。毛並みの質感が伝わるように」
クロは、さくらのスマホを両前足で必死に固定し、プルプルと震えながらシャッターを切る。
「ヴァルザー、手ブレしているわよ。魔王の力(魔力)で手振れ補正くらい使いなさい」
「無理を言うな! 我の魔力は、さっきゼノンに『扇風機』のふりをさせて風を送らせるのに使い果たしたわ!」
背景では、ポメラニアンのゼノンが全力で尻尾を回し、リリスの長い毛を優雅になびかせるための「演出の風」を送っていた。
「……ゼノン、風が弱いわ」
「ハッ! 申し訳ございません! 尻尾の回転速度、さらに上げまするぅぅ!!」
3. 世界が跪く
リリスが投稿した写真は、またたく間に世界を駆け巡った。
『この猫、モデル界のトップより表現力あるだろ』
『美しすぎて画面越しにひざまずいた』
『「下民ども」って言われてる気がする。ありがとうございます』
コメント欄は狂喜乱舞。
ついに海外の高級ペットブランドから、「新作の宝石入り首輪のアンバサダーになってほしい」というダイレクトメッセージまで届いた。
「フフフ……。ヴァルザー、見て。私のアンバサダー就任記念パーティーですって。」
「貴方は私の『影(付き人)』としてなら、連れて行ってあげてもいいわよ」
「影……。つまり、荷物持ちということだな?」
「あら、光栄に思いなさい。女王の荷物を持てる猫なんて、世界に貴方だけよ」
4. 聖女のステーキ
数日後。撮影や案件の対応で、リリスもさすがに疲れの色を見せていた。
家に戻るなり、彼女はソファーで優雅に(しかし少しぐったりと)横たわった。
「……ヴァルザー。喉が渇いたわ。最高級の水(浄水器の汲みたて)を持ってきなさい……」
「はいはい、ただいま……」
そこへ、学校から帰ってきたさくらがキッチンから顔を出した。
「リリスちゃん! 今日は撮影お疲れ様! 頑張ったご褒美に、ささみをじっくり蒸して作った『特製ステーキ・かつお節ジュレ添え』だよ!」
さくらが皿を置いた瞬間。
リリスのオッドアイが、かつて戦場で獲物を狙った時以上の鋭さで光った。
「…………(ガツガツガツッ!)」
女王の気品はどこへやら。リリスは猛烈な勢いでささみを貪り始めた。
「あはは、リリスちゃん、お口にジュレがついてるよ。可愛い〜」
さくらが指でリリスの口元を拭う。
リリスは一瞬「……っ!」と身構えたが、さくらの優しい手の感触に、結局「……ゴロゴロゴロ」と最大音量で喉を鳴らしてしまった。
「ヴァルザー……。このステーキ、悪くないわ。明日もこの侍女に作らせなさい」
「……さっきまでアンバサダーだ何だと言っていた奴が、ささみ一本でこれだ。……おいゼノン、我らの分も少し残しておけよ!」
「もちろんでございます、ヴァルザー様! 皿に残ったジュレは、この私が責任を持って舐めとります!」
SNSで世界を支配した女王も、結局はさくらの手料理の前では、ただの「お腹を空かせた猫」に過ぎなかった。
【次回予告】
平和(とちゅ〜る)に毒された魔王軍に、魔界からの使者が牙を向く。
押し入れに開いた「冥府の門」。強制送還の危機に、クロが手に取ったのは……さくらのタブレット!?
「全人類よ、我に『いいね』を貸せ!!」
次回:『魔界の最終通知、押し入れの門を閉じよ!』
お楽しみに!
ふん、最後まで読み進めた貴様を、我が軍の『読者』に任命してやろう。
貴様の端末の下にある【★評価】と【ブックマーク】のボタンを押すが良い。
それは点数ではない。我が今夜、侍女から「ちゅ〜る」を献上させるための『信仰心』だ!
★を五つ捧げ、我が覇道に貢献せよ。
決して、おやつが欲しいから媚びているわけではないぞ! クカカカ!




