第7話:『炎上と営業、魔王の看板猫デビュー』
1. 閑古鳥のパンデモニウム
「……ベルゼよ。貴様の店、もはや『パンデモニウム(伏魔殿)』ではなく『無』ではないか」
猫カフェに足を踏み入れたクロは、あまりの静けさに呆れ果てた。
そこには、客のいない店内で、一人(一匹)でルンバの後をトボトボと追いかけるベルゼの姿があった。
「父上……。人間どもは残酷です。最近は『トカゲがルンバに乗っている動画』が流行りらしく、みんな爬虫類カフェへ流れてしまいました……」
「ガミジンのやつか……。あいつ、水槽の中でレタスを食べているだけで、我らより人気が出るとは」
「このままでは、今月末のプレミアム・ちゅ〜るの仕入れが滞ります。魔王軍の士気(食欲)に関わる一大事です!」
2. 魔王のコンサルティング
「よかろう。我がSNSの『戦闘力』を、貴様の店に注ぎ込んでやる。感謝せよ」
クロはさくらのタブレットを借りると、すぐさまライブ配信を開始した。
「人類よ、刮目せよ! 闇の王ヴァルザー、そして第四王子ベルゼが、貴様らに直接『癒やしの刑』を執行してやる。明日、パンデモニウムへ集え!」
配信のコメント欄は瞬く間に、
『絶対行く!』『魔王とブサかわ王子のコラボ神w』
という文字で埋め尽くされた。
「ゼノン! 貴様もだ。猫のフリをして客に愛想を振りまけ!」
「ハッ! 騎士団長ゼノン、猫耳を装着して潜入任務(接客)に当たります!」
真っ白なポメラニアンに猫耳――。
それは、別の意味で破壊力のある不審な物体であった。
3. 接客という名の地獄
翌日。店の前には、開店前からさくらを筆頭に女子高生やカメラを持ったファンが詰めかけていた。
「いらっしゃいませ、愚民ども……。さあ、我を撫でる栄誉を授けてやろう」
クロはカウンターの上で足を組み、クールな魔王を気取った。だが。
「あーっ! クロちゃん、今日は営業モードだ! はい、おて! おてして!」
「……ぐっ、この我に芸を……! ……(スッ)」
背に腹は代えられない。クロはしぶしぶ前足を出した。
一方、ベルゼは。
「うわぁ、この子の顔、やっぱりすごい! どっちから見ても正面みたい!」
「……ふ、フン。存分に揉むが良い。我が顔は魔界の土のように柔軟……あふぅ、そこは弱い……」
ベルゼは客に頬を引っ張られ、もはや猫というよりは『つきたての餅』のような形状に変形していた。
さらに、猫耳をつけたゼノンは。
「わあ、この猫(?)すごく元気! 犬みたいに吠えるし、尻尾の振りが早すぎて残像が見える!」
「(……ヴァルザー様。我、もう限界にございます……これ以上尻尾を振ると、腰を痛めます……)」
4. 同盟の絆(と、ちゅ〜る)
閉店後。レジの中には、人間界の貨幣と、感謝の気持ち(という名の追加注文の山)が溢れていた。
「やりましたな、父上。これで当面の高級パテは安泰です」
ベルゼはさくらにブラッシングされながら、満足げに目を細めた。
「……フン、当然だ。我がカリスマがあれば、世界征服など容易い。ただ……人間界の接客というのは、魔界での戦争より体力を消耗するな」
クロは、自分を「クロちゃん」と呼んで一日中抱っこしていたさくらの膝の上で、心地よい疲れに包まれていた。
「はい、お疲れ様。クロちゃんもベルゼちゃんも、今日は頑張ったね。特大ちゅ〜るだよ!」
さくらが差し出した銀色の袋。
クロ、ベルゼ、そして猫耳を外したゼノン。
かつての魔界の重鎮たちは、一つの皿に頭を寄せ合い、一心不乱にちゅ〜るを舐め取った。
「「「(……美味すぎる。やはり、世界征服は明日からで良い)」」」
その光景をSNSにアップしたさくらの投稿には、過去最高の「いいね」がついた。
タイトルは――『魔界の晩餐会:平和すぎるもぐもぐタイム』。
【次回予告】
営業活動で疲れ果てた魔王軍の前に、真の「絶望」が舞い降りる。
白き毛並み、冷徹な瞳。現れたのは、魔界の頂点に立つ女王リリス!
震え上がる魔王たち。だが、さくらが取り出した「赤いリボン」が、女王のプライドを粉砕する!?
次回:『女王陛下、降臨。あるいは真っ白な嵐』
お楽しみに!
ふん、最後まで読み進めた貴様を、我が軍の『読者』に任命してやろう。
貴様の端末の下にある【★評価】と【ブックマーク】のボタンを押すが良い。
それは点数ではない。我が今夜、侍女から「ちゅ〜る」を献上させるための『信仰心』だ!
★を五つ捧げ、我が覇道に貢献せよ。
決して、おやつが欲しいから媚びているわけではないぞ! クカカカ!




