第6話:『魔界の刺客と、円盤型の魔導兵器』
1. 粛清の火花
「見つけたぞ、ヴァルザー。……いや、今や『クロちゃん』などという軟弱な名で呼ばれている、魔界の恥晒しよ」
リビングの窓際、日向ぼっこをしていたクロの前に、一匹の小さなトカゲが立ちはだかった。
それは魔界でも恐れられる処刑人・ガミジン。だが、転生の座標がズレたせいで、現在の彼は「体長10センチのニホントカゲ」にしか見えない。
「……ガミジンか。貴様、その姿……。さくらに見つかったら、虫カゴに入れられて自由研究の材料にされるぞ」
「黙れ! 私はこの地でドラゴンとして崇められるはずだったのだ! 貴様のような、人間に腹を見せて喉を鳴らす腑抜けは、私が今ここで処刑してくれる!」
ガミジンが口から小さな、マッチの火ほどのアーク火炎を吹いた、その時だった。
2. 鋼鉄の死神、起動
「あ、そうだ! 掃除機のスイッチ入れるの忘れてた!」
キッチンからさくらの声が聞こえ、床に置かれた円盤型の物体――お掃除ロボット・ルンバが、「ピロリロリン♪」という軽快な起動音を鳴らした。
「……っ!? 何だ、この不吉な詠唱は!」
ガミジンが身構える。ルンバは低い駆動音を上げながら、ゆっくりとガミジンの方へ旋回してきた。
「な、何だこの円盤は……!? 魔力を一切感じさせない。……無機質、無感情、そして一切の迷いがない進軍! 」
「もしやこれは、古代文明が遺した『無心殺戮機』か!?」
「おいガミジン、逃げろ。そいつは止まらんぞ」
クロは慣れた手つきでキャットタワーの最上階へ避難した。ここは安全圏だ。
3. 深淵の吸引
「フン、このような平べったい盾ごとき、我が爪で――」
ガミジンが果敢にルンバのバンパーに飛び乗ろうとした瞬間。
ルンバの底から「ゴォォォォ」という強烈な吸引音が響いた。
「な、なんだぁぁぁ!? 尻尾が、我が誇り高きドラゴンの尻尾が、次元の狭間に吸い込まれるぅぅ!! 」
「ヴァルザー様、助けてください! 魂を喰われます! 魂をぉぉ!!」
ルンバに乗り上げ、そのまま壁際まで運ばれていくガミジン。
吸引口に尻尾を半分吸い込まれ、じたばたと暴れる姿は、処刑人というよりは「ルンバに運ばれるシュールな置物」である。
「やれやれ……。さくらに怒られるからな」
クロはタワーからしなやかに飛び降りると、ルンバの真ん中にある「CLEAN」ボタンを、肉球で力強く押し込んだ。
電子音と共に、ルンバが停止する。
4. 敗北、そして水槽へ
「……はぁ、はぁ。……死ぬかと、思った……。あの円盤、一瞬で私の全魔力を吸い取りおった……」
ガミジンはガクガクと震えながら、停止したルンバから這い降りた。
そこへ、さくらがやってくる。
「あれ? ルンバ止まっちゃった……あ! 何これ、トカゲ!? クロちゃんが捕まえたの? 可愛い〜、カナヘビかな?」
「カナヘビだと!? 私は第……ぐえっ」
さくらに優しく摘み上げられたガミジン。
そのまま、以前さくらが金魚を飼っていた水槽(現在は空き家)に入れられ、新鮮なレタスと水、そしてUVライトという「快適なVIP環境」が与えられた。
「……ヴァルザー様。あ、あの娘、神か何かですか。この光、太陽の恵みを凝縮したような暖かさです……。レタスもシャキシャキで美味い……」
「……言っただろう。この世界には、魔界より恐ろしい『快適さ』という罠が張り巡らされているのだ」
水槽の中から、うっとりとUVライトを見上げるガミジン。
こうして、魔界からの最強の刺客は、さくらの部屋の「マスコット(トカゲ)」として、新たな生を謳歌することになった。
【次回予告】
魔界からの刺客・ガミジン(トカゲ)に人気を奪われ、第四王子ベルゼの猫カフェが経営危機に!?
「やむを得ん。我がSNSの力で、民衆を洗脳(集客)してやろう」
立ち上がった魔王軍。だが、待っていたのは「猫耳をつけた騎士団長」による、地獄の接客業だった……。
次回:『炎上と営業、魔王の看板猫デビュー』
お楽しみに!
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