番外編:『魔王の記憶、雪の夜の贈り物』
1. 窓の外の白い悪魔(雪)
その日の夜。空から白い欠片が、音もなく舞い落ちてきた。
「……フン、天界からの刺客か。空を埋め尽くすとは、なかなか粋な演出ではないか」
窓辺でクロが独りごつ。さくらが横から「あ、初雪だね!」と嬉しそうに外を指差した。
「寒いから、今日はみんなで『こたつ』に入ろうか」
さくらが魔法の呪文を唱えると、リビングの中央に鎮座する四角い聖域が、じわじわと神聖な熱を帯び始めた。
2. こたつの中の平和協定
こたつの中は、まさに異世界の「超党派会議」の場と化していた。
クロを中心に、右には忠臣ゼノン、左には息子のベルゼが「スピースピー」と幸せそうな寝息を立てている。さらに、普段は庭で警護に当たるポチ(将軍)とアレク(勇者)までもが、さくらの母の粋な計らいで、頭だけを出してこたつに潜り込んでいた。
そして、最も暖かいヒーターの真下――「上座」を占拠しているのは、女王リリスである。
「……ちょっとヴァルザー、こっちに来ないで。貴方の毛並み、少し静電気が起きているわよ。女王の私に障るわ」
「ふん、リリスこそ。その長い尻尾が我が顔に当たっているぞ。……と言いたいが、この暖かさの前では些細な不敬だな」
3. 魔王の見た夢
微睡みの中で、クロはふと遠い記憶を呼び起こした。
それは、荒廃した魔界の玉座で、たった一人、凍てつく風に吹かれていた夜のことだ。
何万という魔族を従えていても、その心は常に冷え切っていた。
(……温かいな。さくらの家から漂う夕飯の匂いと、隣で眠る部下たちの体温。これは、かつての我がどれほど魔力を尽くしても得られなかった『秘宝』かもしれん)
その時、寝ぼけたさくらが、こたつの中に足を突っ込んできた。
「……みんな、大好きだよ……むにゃむにゃ」
さくらの足がリリスの背中に当たった。普段なら「不敬よ!」と鋭い爪を立てるはずのリリスだったが、彼女はただ、そっとさくらの体温に寄り添った。
4. 女王の秘密
「……リリス。お前、今とても幸せそうな顔をしているぞ。魔界の冷徹な女王が台無しだな」
「……うるさいわね、ヴァルザー。これは、ただの熱気による生理現象よ。……でも、悪くないわ。この『さくら』という人間が放つ熱は、魔界のどの業火よりも心地よいの」
リリスの喉から、本人の意志に反して「ゴロゴロ……」という重低音が漏れ出す。
「父上……。母上の喉の音が、地鳴りのように響いて心地よいです……スピースピー」
ベルゼが寝ぼけながらリリスに擦り寄り、ゼノンもしっぽを彼女に巻き付けて防寒を助ける。かつての魔王軍は、今、ひとつの塊となって微睡んでいた。
5. 降り積もる幸せ
翌朝。庭は一面の銀世界だった。
さくらは庭に、少しずつ形の違う雪だるまを五つ並べた。
「これ、クロちゃんとベルゼちゃんと、リリスちゃん! あとポチとアレクだよ!」
窓越しにそれを見つめ、クロは満足げに目を細めた。
リリスは窓に映る自分の美貌をチェックしながら、誇らしげに独り言をこぼす。
「……雪だるまになっても、私の美しさは隠せていないわね。さくら、後で一番高いちゅ〜るを献上させてあげるわ」
(……さくらよ。この雪が溶けても、我がこの家を征服――いや、お守りし続けてやる。この温もりを、二度と手放さぬようにな)
魔王軍の野望は、雪の下で静かに、そして世界で一番温かく眠り続けるのであった。
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