第2部 第11話:『裏切りの忠臣(ブルドッグ)、魔王の威厳を物理的に踏み潰す』
1. 宿敵(?)との再会
ドッグランでの騒動から数日。クロは公園のベンチで、さくらが買ってくれた「猫用アイス」を舐めながら、次なる軍団拡大の策を練っていた。
そこへ、一頭の重厚なブルドッグを連れた飼い主がやってきた。
そのブルドッグは、地面を揺らすような足取りでクロの前に座り込むと、低い唸り声を上げた。
「……フゴッ、フゴフゴッ!(……この、どこか偉そうで小生意気な黒猫の匂い……。まさか、ヴァルザー様か!)」
クロはアイスを落としそうになった。
「その……顔面の肉が重力に負けすぎている、醜悪ながらも懐かしい顔。貴様、魔界重装歩兵団の団長、バルバドスか!」
2. 裏切りの理由
バルバドスは、魔界では巨大な鎧に身を包んだ勇猛な戦士だった。しかし今は、首の肉が三段に重なり、常によだれを垂らすブルドッグに転生していた。
「バルバドスよ! 再会を祝せ! さあ、今すぐ我が軍に加わり、再び覇道を歩むのだ!」
クロが命じるが、バルバドスは気だるげに欠伸をして、その場にドサリと寝転んだ。
「フゴォ〜……(嫌ですな。魔界では毎日血生臭い戦いばかり。今は、この『ブルちゃん』という名で三食昼寝付き、散歩に行けば『不細工で可愛いわね』と褒められる生活……。戻る理由がありません)」
「貴様! 魔族の誇りをどこへ捨てた! 鏡を見ろ、もはや自分の足元すら肉で見えていないではないか!」
3. ベルゼとの「クシャ顔」対談
そこへ、ベルゼが「スピースピー」と鼻を鳴らしながらやってきた。
ブルドッグとパグ。二つの「クシャ顔」が、至近距離で見つめ合う。
「父上……。この者、私と同じ『顔のパーツが中心に集まりすぎている』同胞の気配を感じます……。おじさん、鼻の穴、大きいですね……スピー」
「フゴッ……(お若いの、貴殿もなかなかの平らっぷりだ。良いか、この顔は『人間を油断させ、おやつを搾取する』ための最強の武器なのだぞ)」
かつての忠臣は、今や「いかに人間に甘えて楽をするか」を極めた、堕落の伝道師となっていた。
4. 物理的な踏み潰し
「おのれ、ならば力ずくで思い出させてやるわ!」
クロがバルバドスの背中に飛び乗り、魔王の威厳を示そうとしたその時。バルバドスが「あ、背中が痒い」とばかりにゴロンと寝返りを打った。
「ぐえっ!? おも……重い! 貴様、何キロあるんだ! 重力魔法でもかかっているのか!」
数十キロあるブルドッグの巨体に押しつぶされ、クロは地面にめり込んだ。
『……ヴァルザー様。これが、現代の平和という名の「物理的圧力」にございます』
バルバドスは満足げにクロを下敷きにしたまま、さくらの母から差し出されたジャーキーをムシャムシャと食べ始めた。
5. 覇道の遠さ
結局、バルバドスを説得することはできず、逆に「たまには肩の力を抜いて、腹を出して寝るのが一番ですよ、フゴッ」と説教される始末。
「……ゼノンよ。我が軍の精鋭たちは、この世界の『平穏』という猛毒に侵されすぎているのではないか?」
『……ヴァルザー様。白状いたしますと、我も最近、ドッグフードのグレードが上がっただけで忠誠心が揺らぎそうになります……』
クロは夕焼け空を見上げ、世界征服というゴールが、また一歩遠のいたのを感じた。
その足元では、ベルゼとバルバドスが「スピースピー」「フゴフゴ」と、不細工で幸せな二重奏を奏でていた。
【次回予告】
元・忠臣に物理的に踏み潰された我らに、さくらが差し出した「禁断の魔導具」。
それは、猫の言葉を人間の言葉に変える、最新の翻訳機であった!
「クカカカ! ついに我が覇道を、その耳に直接叩き込んでやるわ!」
咆哮と共に放たれた絶望の呪文。……しかし、翻訳機から流れたのは「僕は君の天使だよ」という、耳を疑う甘い声で!?
魔王軍、AIの忖度によって「デレの極地」へ強制連行!
次回:『第十二話:言霊の首輪、魔王の暴言を「お腹空いた」に変換する』
お楽しみ!
ふん、最後まで読み進めた貴様を、我が軍の『読者』に任命してやろう。
貴様の端末の下にある【★評価】と【ブックマーク】のボタンを押すが良い。
それは点数ではない。我が今夜、侍女から「ちゅ〜る」を献上させるための『信仰心』だ!
★を五つ捧げ、我が覇道に貢献せよ。
決して、おやつが欲しいから媚びているわけではないぞ! クカカカ!




