第2部 第10話:『勇者の聖域(ドッグラン)、大型犬の群れに包囲さる』
1. 逃亡の果てに
「……はぁ、はぁ。ようやく撒いたか。あの眼鏡の暗殺者め、猫砂のCMで『情熱的な砂かけ』を要求するなど、魔王の尊厳を何だと思っている」
クロは、さくらが「たまにはお外で遊ぼうね」と連れてきてくれた、緑豊かな公園の広場に降り立った。
「父上……。あちらの囲いの中から、異様な殺気……というか、圧倒的な『陽のエネルギー』を感じます……スピースピー」
そこは、近隣の犬たちが一堂に会する聖域――『ドッグラン』であった。
2. 勇者のホームグラウンド
「ワフッ! ワフワフッ!(諸君、歓迎しよう! ここが我の修行の場、ドッグランだ!)」
リードを外された勇者アレク(ゴールデン)が、いつになくハツラツとした表情で駆け出す。
その後ろから、将軍ポチ(シェパード)が重厚な足取りで続いた。
『ヴァルザー、リリスよ。ここは力と愛嬌がすべてを支配する場所。猫の貴様らが足を踏み入れるには、少々刺激が強すぎるかもしれんぞ』
「ふん、犬の遊び場など恐るるに足らず! むしろ我ら魔王軍の軍門に下らせてくれるわ!」
クロが意気揚々とフェンスの隙間から中を覗き込んだ、その瞬間。
3. 大型犬の包囲網
「ワンッ!」「バフッ!」「クゥ〜ン!」
突如、クロたちの前に「肉の壁」がそびえ立った。
それは、新顔(猫)に興味津々のシベリアンハスキー、セントバーナード、そして興奮したラブラドールの群れであった。
「……っ!? な、なんだこの巨大な獣どもは! 勇者アレクと同じサイズが、これほど大量に存在するというのか!」
「ヴァルザー、こいつら……距離感がバグっているわ! 近い! 鼻先が近すぎるわよ!」
リリスが必死にシャーッと威嚇するが、大型犬たちは「わーい! 新しいおもちゃ(猫)だ!」と勘違いし、一斉に尻尾を全力で振り回す。
ドシュッ! バシュッ!
その風圧だけで、軽量級のクロとベルゼは吹き飛ばされそうになる。
「父上……! あちらのセントバーナードが、私を『食べられる餅』だと思って舐めようとしています! 涎が! 涎の濁流が来ます! スピースピーッ!!」
4. 勇者の仲裁と、屈辱の遊び
混乱の中、アレクが群れの中心に割り込んだ。
「ワフッ!(待て! この者たちは我の知己だ。手出しは無用!)」
勇者の威厳に、大型犬たちが一瞬ひるむ。だが、彼らは次に信じられない行動に出た。
『なんだ、アレクの友達か! じゃあ一緒に「追いかけっこ」しようぜ!』
巨大なハスキーが、クロの目の前で前足を深く付いて「遊ぼうポーズ」をとる。
「……待て、貴様。その巨体で追いかけっこだと? それはもはや、一方的な『狩り』ではないのか!」
ドッグラン中を爆走する重戦車(大型犬)の群れと、フェンスの最上段を必死に渡り歩いて逃げるクロ様の姿。
それを外から見ていたさくらは、ニコニコしながら動画を撮っていた。
「すごい! クロちゃん、ワンちゃんたちとあんなに仲良く走り回ってる! 躍動感がすごいよ!」
5. 勇者の背中の上で
結局、疲れ果てたクロは、アレクの背中の長い毛の中に深く沈み込むことで難を逃れた。
「……おのれ……。まさか宿敵の背を安息の地とする日が来ようとは……。だが、ここは奴らの涎が届かぬ唯一の聖域だ……」
夕暮れ時。アレクの背中に乗ったクロ、ポチの背中に乗ったベルゼ(スピースピーと爆睡)、そしてリリスを連れた一行は、ドッグランを後にした。
(……世界を征服する前に、まずはこの『物理的なサイズ差』という絶望を何とかせねばならん……)
クロは、大型犬の毛の匂いに包まれながら、静かに復讐の炎(と、お昼寝の誘惑)を燃やすのであった。
【次回予告】
ドッグランで大型犬の群れに揉まれ、疲弊した我らの前に現れたのは、かつて魔界で最も勇猛と謳われた重装歩兵団長であった!
再会を喜ぶ我らに対し、三段腹を揺らして寝転ぶ元・忠臣。
「ヴァルザー様。魔王軍に戻るより、ここでヨダレを垂らして寝ている方が幸せです、フゴッ」
裏切りの理由は、現代の「平穏」という名の猛毒!?
物理的な重さ(数十キロ)で押しつぶされる魔王に、逆転の策はあるのか!
次回:『第十一話:裏切りの忠臣、魔王の威厳を物理的に踏み潰す』
お楽しみに!
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