第2部 第8話:『魔王、スタジオに降臨す。――カンペを読め!』
1. 異世界からの招聘状
ある日の朝。さくらがスマホを片手に、リビングへ飛び込んできた。
「クロちゃん、ベルゼちゃん! 大変! 朝の情報番組『グッド・モーニング・ニャンコ』から、ゲスト出演のオファーが来ちゃった! 生放送だよ!」
「……ほう。ついに人類の電波塔すら、我の魔力に屈したか。良いだろう、画面を通じて全世界の民を洗脳してやるわ」
「父上……。我々の美貌が、ついに地上波に……スピースピー」
隣で見守っていたゼノンとリリスも、誇らしげに胸を張る。
これこそが真の『世界征服』への第一歩……彼らはそう信じて疑わなかった。
2. 魔の聖域
当日。テレビ局のスタジオに降り立った一行は、照明の眩しさと機材の山に圧倒されていた。
「なんだここは……。あの巨大な黒い目が、我を狙っているというのか」
そこへ、業界人風の男が近づいてきた。
「さくらさん、よろしくお願いしまーす! えー、クロちゃんにはこの『自動おやつマシーン』を体験してもらって、最後にカメラに向かって『お手』をお願いしますね」
「……『お手』だと? この我に、公共の電波を使って芸をしろというのか! 貴様、魔王を何だと思っている!」
だが、さくらは慣れた手つきで耳打ちした。
「クロちゃん、これ頑張ったら帰りにちゅ〜るだよ」
「…………っ。……ちゅ〜る、だと。フン、ちゅ〜るのためではない。人類に『慈悲』を見せてやるだけだ」
3. 生放送、開始
「さあ、続いてはSNSで大人気! 闇の王こと、黒猫のクロちゃんとベルゼちゃんの登場です!」
女子アナの明るい声と共に、本番の赤いランプが点灯した。
クロは、カメラのレンズの奥に数百万人の視線を感じ取る。
(……今だ! 我の威厳を、その魂に刻み込め!)
クロは椅子の上で立ち上がり、最も威圧的なポーズをとろうとした。
だがその時、スタッフが掲げた「カンペ」が目に入る。
【カンペ:ここで可愛く「にゃ〜ん」】
「ふざけるな! 我が叫ぶのは滅びの呪文のみだ!」
しかし、横でベルゼが「スピースピーッ!」と鼻を鳴らしながらカメラに突撃。
画面が「ベルゼの鼻の穴」で占拠されるという、衝撃の放送事故が発生した。
4. 暴走する魔王軍
「ベルゼ、下がれ! 画角を独占するな!」
焦ったクロがベルゼを押し除けようとした瞬間、スタジオの「最新猫じゃらし」が作動。
さらに、かつての宿敵・聖剣(全自動猫じゃらし)を彷彿とさせる銀色の機材が不気味に動き出した。
「な、なんだ!? 伏兵か! 貴様ら、我をこの光る箱の中に封じ込めるつもりか!」
「クロちゃん、ダメだよー!」
「父上、待ってください!……スピースピー!!」
クロはスタジオ中を激しく駆け回り、セットの裏側へダイブ。
その阿鼻叫喚の様子が、ライブ映像で全国のお茶の間へ垂れ流された。
5. 伝説のエンディング
スタジオは大爆笑に包まれ、SNSの実況スレッドは過去最高の速度で更新されていく。
『魔王様、スタジオで大暴れwww』
『ベルゼの鼻息でマイクの音が割れてるw』
『さくらちゃんに捕まった時のクロの「虚無顔」が最高すぎる』
結局、予定していた「お手」はできなかったが、最後にさくらに抱っこされたクロは、諦めたようにカメラを見つめて一言。
「(……おのれ人類。我を笑いものにするとは。……だが、ちゅ〜るは二倍だ。二倍で手を打ってやる)」
視聴率はこの日、同時間帯トップを記録。
帰宅後、さくらのスマホには番組プロデューサーから『レギュラー出演の相談』という名の、新たなる果たし状が届くのであった。
【次回予告】
地上波デビューを果たし、スターの仲間入りをした我ら。
歓喜に沸く握手会に現れたのは、かつて魔界で我らを「督促状」の恐怖に陥れた、あの女だった!
「クロ様、今日から貴方のスケジュールは私が管理します。逃げても無駄です、レーザーポインターがありますから」
敏腕マネージャーへと転生した元・暗殺ギルドの受付嬢。
自由を奪われた魔王軍、ついに「社畜」という名の地獄へ堕とされる!?
次回:『第九話:最凶の追っかけ(受付嬢)、握手会に現る』
お楽しみに!
ふん、最後まで読み進めた貴様を、我が軍の『読者』に任命してやろう。
貴様の端末の下にある【★評価】と【ブックマーク】のボタンを押すが良い。
それは点数ではない。我が今夜、侍女から「ちゅ〜る」を献上させるための『信仰心』だ!
★を五つ捧げ、我が覇道に貢献せよ。
決して、おやつが欲しいから媚びているわけではないぞ! クカカカ!




