第2部 第7話:『白い死神(獣医)、魔王の急所(お尻)を狙う』
1. 招かれざる外出
「……ふん、今日のさくらは妙に機嫌が良いな。我をどこへ連れて行くつもりだ?」
雷火龍との死闘を終え、極上のふわふわ毛並みを取り戻したクロ。
彼は今、さくらによってプラスチック製の移動用魔導具に収容されていた。
「さあ、クロちゃん。今日は一年に一度の『健康診断』の日だよ。ベルゼちゃんも行こうね」
「父上……。嫌な予感がします。あのカゴに入れられる時、ろくなことが起きた試しがありません……スピースピー」
ベルゼの不吉な予感は、この後、最悪の形で的中することになる。
2. 白き迷宮(待合室)
辿り着いたのは、清潔感あふれる白一色の空間。
そこには、同じようにカゴに入れられ、絶望の表情を浮かべる同胞(犬猫)たちがひしめいていた。
「なんだここは……。叫び声すら上がらぬ、この重苦しい沈黙。これほどまでの精神圧を放つ施設、魔界の拷問塔ですら見たことがないぞ!」
そこへ、一人の男が歩み寄ってきた。
白衣を纏い、首に聴診器という名の魔導具を下げた男――獣医の佐藤である。
「こんにちは〜、今日は検診だね。まずはクロちゃんからかな?」
「……っ!? 貴様、何者だ! 初対面の我に対し、一切の気負いもなく不敵に微笑むとは。その首から下げた蛇のような魔導具で、我の心音を抜き取る気か!」
3. 将軍と勇者の敗北
待合室の隅には、さくらの母に連れられたポチ(将軍)とアレク(勇者)の姿もあった。
「ポチ! 貴様も捕まったのか! 街の治安を守る将軍が、この白い拷問官に屈するのか!」
ポチは、震える脚を必死に踏ん張り、虚空を見つめていた。
『……ヴァルザー。奴だけは……奴だけは、法で裁けん。奴は我らの「聖域」を熟知している。針だ……。あの男は、毒針(注射)を隠し持っている……』
勇者アレクに至っては、診察室のドアが開くたびに、さくらの母の足元へ音もなく潜り込もうとしていた。
(……聖剣があっても勝てぬ。あの男の笑顔には、一切の殺気がない。ゆえに、回避不能なのだ……!)
4. 屈辱の診察台
ついにクロの番が来た。
診察台(ひんやりした金属の祭壇)に乗せられたクロは、佐藤医師の流れるような手さばきに翻弄される。
「はい、お腹ポンポンするよー。うん、立派な体格だね。……じゃあ、ちょっと失礼するよ」
「な、何を……!? 貴様、どこを触って――あ、熱っ!? 貴様、我が聖域(お尻)に何を挿入した!!」
(……検温完了。平熱。これより、一瞬の静寂(予防接種)を執行する)
クロの脳内では、佐藤医師が鎌を携えた冷酷な死神に見えていた。
「やめろ! 闇の魔王の尊厳が! 尻から体温を測られるなどという汚辱……ぐわぁぁぁーーッ!!」
リビング中に響き渡る(ような気がした)断末魔。
魔王のプライドは、細い針一本によって、あっけなく貫かれた。
5. 勝利のちゅ〜る
数分後。
すべてが終わったクロの口元に、佐藤医師が「よく頑張ったね」と、一本のちゅ〜るを差し出した。
「……っ! 死神の癖に、我が好物を把握しているだと!? おのれ、毒(ちゅ〜る)を以て口を封じる気か……。……ぺろ……。美味い。悔しいが、格別に美味い……」
帰りの車中。クロは、かつてない虚脱感の中で悟った。
(……世界を征服したと自惚れていたが、この街には……我ら魔族を笑顔で蹂躙し、最後には手なずけてしまう『白衣の暗殺組織』が存在する……。奴らとの決戦は、また来年か……)
隣で同じように注射を耐えたベルゼが、「スピースピー」と、もはや魂の抜けたような音を立てて寝ていた。
【次回予告】
お尻への一撃(注射)から立ち直った我らに、信じがたい知らせが届く。
「クロちゃん、ベルゼちゃん! テレビの生放送に出演決定だよ!」
ついに人類の電波塔すら支配下に置く時が来た。
漆黒のカリスマで全世界を洗脳するはずが……待っていたのは、謎の『カンペ』と、ベルゼの鼻息による放送事故!?
次回:『第八話:魔王、スタジオに降臨す。――カンペを読め!』
お楽しみに!
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決して、おやつが欲しいから媚びているわけではないぞ! クカカカ!




