第2部 第6話:『咆哮する雷火龍(ドライヤー)、魔王の毛並みを蹂躙す』
1. 嵐の前触れ
それは、さくらがクロたちを「定期メンテナンス(お風呂)」に連れて行った後のことだった。
「……おのれさくらよ。我が神聖なる肉体を水に沈めるとは万死に値する。だが、この極上のタオルで包まれる感覚……悪くない……」
濡れて一回り小さくなり、まるで細い海栗のようになったクロは、ソファで丸まっていた。
だが。
さくらが棚から取り出した「それ」を見た瞬間、ゼノンとベルゼが悲鳴を上げた。
「父上……! 来ます……! あの、全てを焼き払い、震わせる禁断の魔導具が! スピースピーッ!!」
「ヴァルザー様、退避を! あれはかつて魔界の深淵に棲まい、咆哮だけで大地を割り、熱風で森を灰に変えた地響きの龍――ヴォルガスの化身にありますぞ!」
2. 轟音の審判
さくらがスイッチを入れた、その瞬間。
「ヴォォォォォォオオオーン!!」
リビングに凄まじい轟音が響き渡り、火竜の吐息(熱風)がクロの顔面を直撃した。
「な、なんだこの地響きは!? 龍の咆哮そのものではないか! この狭いリビングに、これほどの熱量を解き放つとは……! これこそが現代の殲滅兵器か!」
逃げ惑うクロ。だが、さくらの「逃げちゃダメだよ、風邪引くからねー」という優しいホールドからは逃げられない。
(……感知。不浄な水分を検知。これより、紅蓮の息吹をもって、一粒残らず蒸発させる)
クロの脳内では、ドライヤーがそんな冷酷な古龍の意志を発しているように聞こえていた。
3. 勇者と将軍の沈黙
そこへ、換気のために窓を開けに来たポチ(将軍)とアレク(勇者)が通りかかる。
「ポチ! アレク! 助けろ! この古龍を鎮めるのだ!」
だが、ポチはドライヤーの音を聞いた瞬間、耳をペタンと倒して一歩後退した。
『……ヴァルザー。すまん。我ら犬族にとっても、あの「龍の地響き」は天敵なのだ。本能が拒絶する相手は裁けん……』
勇者アレクも、尻尾を股の間に挟んで震えている。
(……聖剣を失った今の我に、あの雷火龍と渡り合う術はない……。達者でな、ヴァルザー……!)
「貴様ら、貴様らぁぁーーッ!!」
4. 逆転のブラッシング
絶望の中、クロは熱風に吹かれながら、あることに気づいた。
(……待てよ。この龍の息吹……熱いが、妙に心地よい場所がある。……首の後ろ、そこだ! そこをもっと……!)
さくらが「はいはい、次はブラシも使うよー」と、丁寧なブラッシングを併用し始めた。
熱風と、心地よいクシの刺激。
それは、魔界の火山地帯で浴びる「極上の癒やし効果がある噴煙」に似ていた。
「……ふっ、ふにゃぁ……。悪くない。いや、むしろ……もっとだ。もっと我をこの龍の加護で満たせ……」
クロはいつの間にか、自分からドライヤーに顔を近づけ、うっとりと目を細めていた。
5. 敗北という名の美学
数十分後。
そこには、驚くほど「ふわっふわ」に膨らんだ黒猫の姿があった。
「わあ、クロちゃん、綿あめみたい! 触り心地最高!」
さくらに抱きしめられ、クロは満足げに喉を鳴らす。
「父上……。悔しいですが……あんなに怖かった雷火龍に、最後は身を委ねてしまいました……スピースピー」
ベルゼもまた、ふわふわの綿菓子のような姿になって隣で転がっている。
それを、部屋の隅からリリスが嫉妬の混じった目で見つめていた。
「……ヴァルザー。貴方、その膨らみすぎた姿、魔王というよりただの『高級な毛玉』ね。……次は、私がその龍を調教してあげるわ(私にもやって)」
結局、魔王軍はまたしても現代家電の「快適さ」という名の軍門に下ったのである。
【次回予告】
「雷火龍との戦いを終え、極上の毛並みを手に入れた我ら。
だが、美しく整えられたその姿は、ある『恐るべき儀式』への準備に過ぎなかった!
『さあ、クロちゃん。今日は一年に一度の「健康診断」の日だよ』
さくらによってプラスチックの檻に閉じ込められ、運び込まれたのは白一色の迷宮。
そこにいたのは、笑顔で我らの『急所(お尻)』に魔導具を突き立てる、非情な白衣の死神であった!
「な、何を……貴様、どこを触って……あ、熱っ!? 我が聖域に何を挿入したぁぁ!!」
魔王の尊厳、崩壊。逃げ場なき診察台の上で、魔王軍が経験したことのない汚辱に塗れる!?
第二部 第7話:『白い死神(獣医)、魔王の急所(お尻)を狙う』
お楽しみに!
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