第2部 第5話:『大空の覇者(文鳥)、頭上からの爆撃(つつき)』
1. 空からの果たし状
ホットカーペットの誘惑を辛うじて振り切り、クロがベランダで「魔王の黄昏(日向ぼっこ)」を楽しんでいた時のことだ。
「……何だ、あの不穏な羽音は」
遥か上空から、白い弾丸のような影が急降下してきた。
『ヴァルザー様! 発見いたしましたぞ! こんな平和な星で、腹を出して寝ているとは……魔王の威厳も地に堕ちたものですな!』
クロの鼻先をミリ単位で掠めるように飛び去ったのは、一羽の真っ白な文鳥だった。
「……貴様、その小生意気な急旋回……。魔界空中機動部隊の指揮官、蒼穹のスカイラーか!」
2. つつけ、白き爆撃機
『現在は、隣町に住む「文鳥のピピ」として、この空を統べております。ヴァルザー様、貴方に魔界再興の意志がないのであれば、今日からこの街の制空権は我が部隊(文鳥仲間)がいただく!』
「笑わせるな! 焼き鳥にしてくれるわ!」
クロが鋭い「魔王の爪(猫パンチ)」を繰り出す。
だが、相手は空飛ぶ精鋭。ひらりと回避され、逆にクロの頭のてっぺんを「ツン!」と鋭く突つかれた。
「ふぎゃっ!? 痛っ! この……ちょこまかと……!」
『スカイラー様、加勢いたしますぞ!』
どこからともなく、さらに二羽の文鳥(元部下)が集結。クロの周囲を旋回しながら、容赦なき「爆撃」を開始した。
3. 届かぬ牙
「ベルゼ! ゼノン! 迎撃しろ! 対空砲火だ!」
「父上……。あんなに小さいものを狙ったら……目が回って……スピースピー……」
ベルゼは首を左右に振りすぎて、自分の鼻を鳴らすだけで手一杯だ。
「父上、相手は空中戦のプロであります! 我がドッグランで培った瞬発力でも、高度三メートルの壁は厚い……!」
窓辺で冷ややかに見ていたリリスも、ついに巻き込まれる。
「見苦しいわね、ヴァルザー。たかが鳥数羽に弄ばれるなんて。……あら、私の尻尾を止まり木にしようとしたわね? 焼き尽くして――」
『女王リリス様! 貴女の美しい毛並み、巣作りの材料に最適ですな!』
「……なんですってぇえ!? 許さないわよ、この焼き鳥候補生ども!」
女王まで参戦し、リビングはカオスと化した。だが、相手は小回りの利く文鳥だ。
カーテンレールやエアコンの上に避難されると、猫の体では手が出せない。
4. 侍女の仲裁
そこへ、さくらが学校から帰ってきた。
「あら、可愛い文鳥さんがたくさん来てる! クロちゃん、お友達?」
『……フン、さくらよ。我らは友達などではない。こいつは……』
クロが言いかけた瞬間、さくらは手に持っていた「豆苗」をベランダの皿に乗せた。
「はい、お近づきのしるしだよ。食べてね!」
文鳥たちは、さっきまでの殺気(?)をどこへやら、一斉に豆苗に群がった。
『……うむ。この瑞々しさ……魔界の毒草とは比べ物にならん』
『スカイラー様! これが噂に聞く「トウミョウ」ですか! 美味すぎます!』
さらに、さくらに指先を差し出されると、スカイラーはコロッと「手乗り文鳥」モードに切り替わった。
『……ヴァルザー様。今回は……この侍女の献上物に免じて、命までは取らぬでおいてやる』
5. 新たな監視者
「……負けた。手も足も出ないどころか、野菜一房に寝返るとは」
クロは、さくらの指の上で満足げに囀るスカイラーを、苦々しく見上げた。
結局、スカイラーたちは「偵察(という名の遊び)」のために、毎日庭に飛来することになった。
「(……おのれ、上空から我の『ちゅ〜るおねだり』を監視されているようで落ち着かん……)」
闇の王の悩みは、文字通り「空」へと広がっていくのであった。
【次回予告】
文鳥との空中戦を終え、泥だらけになった我らを待ち受けていたのは、さくらが構える「異形の筒」であった。
轟音と共に放たれる熱風のブレス。その正体は、かつて魔界の空を焼き尽くした雷火龍ヴォルガス!?
「やめろさくら! 我の漆黒の毛並みが、熱風で爆発してしまうッ!」
逃げ場なき脱衣所。咆哮するドライヤーの前に、魔王軍、最大の毛玉危機!
次回:『咆哮する雷火龍、魔王の毛並みを蹂躙す』
お楽しみに!
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それは点数ではない。我が今夜、侍女から「ちゅ〜る」を献上させるための『信仰心』だ!
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決して、おやつが欲しいから媚びているわけではないぞ! クカカカ!




