第2部 第4話:『地獄の業火(ホットカーペット)、全魔族をダメにする』
1. 極寒の侵略
「……寒い。この世界の冬というのは、氷結地獄の最下層か何かなのか?」
クロは、さくらのベッドの毛布に潜り込みながら震えていた。
魔力を練って体温を上げようにも、猫の体では燃費が悪すぎるのだ。
「父上……。私の平らな顔が、寒さでさらに強張って……スピースピー……」
ベルゼもクッションの間で丸まり、もはや「高級な毛玉の塊」と化していた。
そこへ、さくらが「福引きで当たったんだよ!」と、平べったい四角い布のようなものを持って現れた。
「みんな寒そうだもんね。はい、ペット用ホットカーペットだよ! スイッチ、オン!」
2. 深淵の熱
クロは疑り深かった。
「ふん、ただの布ではないか。これが地獄の業火を操る魔導具だとでも……。……っ!? 何だ、この足裏から這い上がってくる、抗い難い『ぬくもり』は!」
スイッチが入った瞬間、カーペットが仄かに熱を帯び始めた。
それは太陽の慈悲でもなく、火炎魔法の暴力でもない。
ただひたすらに、生物の生存本能を全肯定する「絶対的な優しさ」であった。
「……あ、あああ……。抗えん。我が魔界のプライドが、この薄い布一枚に吸い取られていく……」
クロは四肢を投げ出し、カーペットの上にベタリと張り付いた。
「父上……。これは……罠です。一度身を委ねたら最後、二度と立ち上がれない……スピースピー(とろけ声)」
隣ではベルゼが、餅が焼ける前のような体勢で完全に虚脱していた。
3. 魔王軍、全滅
そこへ、パトロールから戻った将軍ポチ(シェパード)と、勇者アレク(ゴールデン)がやってきた。
『ヴァルザー! 昼間から何だその無様な姿は! 今こそ合同演習を……。……ほう、これが噂のヒート・パネルか』
ポチは冷徹に観察しようとしたが、さくらに「ポチ君もアレク君も、大きいサイズの方に乗って!」と促され、特大ホットカーペットへ誘導された。
五分後。
そこには、重なり合って「液体」のようになった魔界の重鎮たちの姿があった。
『……ポチよ。法と秩序はどうした』
『……アレク。……今は……「暖」こそが法だ。……動けぬ。肉体が、繊維と一体化してしまった……』
「ゼ、ゼノン……貴様だけでも……散歩へ行く……意思を……」
「ムリ……であります……。我、今はただの……白い……ラグマット……」
4. 女王の視察
そこへ、SNSの撮影を終えたリリスが、優雅にリビングへ入ってきた。
純白の毛並みを揺らし、一瞥で床の惨状を見やる。
「あら……。ずいぶん賑やかね。まるで『魔界のゴミ捨て場に転がった毛布の塊』だわ。ヴァルザー、そこで何を怠けているの?」
リリスが冷たい声でクロの腹を突っつくが、クロは尻尾を力なく一振りするだけだった。
「……リリスよ……。闇よりも……暖炉よりも……この『弱ボタン』の温度が……心地よいのだ……」
リリスは呆れたように溜息をついた。
「……貴方たち、本当に見苦しいわ。……ふん、私には無関係よ。……ただ、少しだけ」
そう言って、リリスは全員とは少し離れた端っこに、優雅に身を横たえた。
「…………っ。……悪くないわね、この温もり。……魔界の玉座よりも、直接的に心に響くわ」
結局、女王までもがその温もりに毒され、さくらの部屋は「全勢力が休戦状態」という奇跡的な平和に包まれた。
5. 堕落の代償
夕方。学校から戻ったさくらが、部屋の惨状を見て笑い出した。
「わあ、みんなでお団子みたいになって寝てる! 写真撮っちゃお!」
パシャリ。
その写真はSNSにアップされ、『魔王軍、ホットカーペットに完敗』というタイトルで、全世界に彼らの「無防備すぎる腹」が晒されることとなった。
「(……おのれ、さくら……。だが今は……撮影料として……もう少しだけ……温度を上げて……くれ……)」
クロの意識は、地獄の業火よりも熱い、幸せな眠りの中へと沈んでいくのであった。
【次回予告】
「地獄の業火の温もりに抱かれ、もはや指一本動かす気力も失った我ら。
だが、安寧の時間は、空からの鋭い一撃によって撃ち砕かれた!
現れたのは、かつて魔界の空を支配した空中機動部隊の指揮官。
――に転生した、真っ白でふわふわの『文鳥』であった!
逃げ場なきリビングで、頭上からの無慈悲な突っつきが開始される!
第二部 第5話:『大空の覇者(文鳥)、頭上からの爆撃』
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