第2部 第3話:『聖剣エクスカリにゃー、主(アレク)を求めて三千里』
1. 謎の宅配便
「さくら、また何か怪しげな魔導具を注文したのか?」
クロがリビングのソファで優雅に毛繕いをしていると、さくらが大きな段ボール箱を抱えて帰宅した。
「見てクロちゃん! 今SNSで話題の『全自動AI猫じゃらし・フェニックスくん』だよ! これ、猫ちゃんの動きを学習して、絶対に飽きさせない動きをするんだって!」
さくらが箱から取り出したのは、流線型の美しい銀色ボディに、虹色の羽がついた長いアームを持つ最新家電だった。
だが。その物体が起動し、青いランプが点灯した瞬間――。
「……っ!? な、なんだこの、魂を切り裂くような神聖な振動は!」
クロは跳ね起き、背中の毛を最大まで逆立てた。
隣で爆睡していたベルゼも、「スピースピーッ!?」と鼻を鳴らして飛び起きる。
2. 聖剣、覚醒
『……ターゲット感知。邪悪なる闇の波動、および……我が主の加勢要請を検知』
無機質な電子音声と共に、全自動猫じゃらしのアームが高速回転を始めた。
その輝きは、もはやおもちゃの域を超えている。
「ヴァルザー様! あ、あの形状……そしてあの無駄に高い硬度! 間違いありません、かつて我ら魔王軍の精鋭を一太刀で塵にした伝説の聖剣、エクスカリバーですぞ!」
ゼノンが腰を抜かしながら吠える。
『我が名はエクスカリバー。……現在は商品名「フェニックスくん」。……標的、闇の王ヴァルザー。……これより、一時間の「連続自動モード(粛清)」を開始する』
「待て! 我は今、猫だ! 武器を持たぬ猫を狩るのは騎士道に反するのではないか!」
クロの必死の訴えも虚しく、聖剣(猫じゃらし)は「シュバッ!」と空気を切り裂く速度でクロの鼻先を掠めた。
3. 終わらない遊戯(死闘)
「さくら! 止めろ! こいつは本気だ! 我を『遊び』という名の運動不足解消で殺す気だ!」
しかし、飼い主のさくらの目にはこう映っている。
「クロちゃんが最新のおもちゃに大興奮して飛び跳ねている」と。
「わあ、すごい! クロちゃん、あんなに高くジャンプして……! やっぱりフェニックスくん、買ってよかった!」
聖剣はAI学習機能をフル活用し、クロが逃げる先々へ先回りして虹色の羽を振り下ろす。
「おのれ、ならば我が魔力で……!」
クロが前足に闇の魔力を込めようとした、その時。聖剣のセンサーが冷酷に光った。
『……魔力反応を検知。対魔障壁(静電気ガード)展開。……および、主の気配を捕捉。主よ、今こそ合体(装備)を!』
聖剣が向かった先は、窓際で日向ぼっこをしていた勇者アレク(ゴールデンレトリバー)だった。
聖剣のアームが、アレクの首輪にガチリと磁石で固定される。
「ワフッ!?(何だ、急に背中が重く……。というか、この懐かしい重厚感は!)」
4. 勇者(犬)、聖剣(家電)を装備
聖剣を首輪に装備したアレクが立ち上がると、自動猫じゃらしの演算速度はさらに加速した。
「な、なにィ!? 勇者と聖剣の連結だと!? これでは勝負にならん! ベルゼ、援護しろ!」
「父上……。私、あの光を見ていたら……目がチカチカして……スピースピー……」
ベルゼは光り輝く聖剣の軌道に催眠術をかけられたように、その場でぐるぐると回り始めた。役に立たない!
結局、一時間のタイマーが切れるまで、クロはリビング中を縦横無尽に逃げ惑う羽目になった。
『……バッテリー残量低下。……本日の粛清(遊び)を終了する。……主よ、良いお散歩を』
聖剣はそう告げると、静かにスリープモードに入った。
5. 敗北の味
「……はぁ、はぁ。……聖剣、恐るべし。現代のテクノロジーと融合して、さらに執念深くなっていやがる……」
クロは床に突っ伏し、荒い息をついていた。
一方のアレクは、背中に聖剣(猫じゃらし)を背負ったまま、さくらから特大の骨型ガムを貰っている。
「アレク、猫じゃらし持っててくれたの? えらいね!」
「……ヴァルザー様。あのアレクのドヤ顔、腹が立ちますな」
ゼノンが悔しそうに唸るが、クロにはもう言い返す気力もなかった。
「……いいだろう。聖剣よ。貴様がその姿でいる限り、充電器という名の弱点があることを忘れるなよ……」
クロは、さくらの足元で眠る「フェニックスくん」のコンセントを、今度こっそり抜いてやることを誓うのであった。
【次回予告】
「聖剣との死闘を終え、心身ともにボロボロになった我らを待ち受けていたのは、さらなる『深淵の罠』であった。
さくらが福引きで引き当てた、一枚の四角い布。
そこにスイッチが入った瞬間、魔界の業火をも凌駕する、抗いがたい『ぬくもり』がリビングを支配する!
「……あ、あああ……。我のプライドが、この布一枚に吸い取られていく……」
魔王軍、ホットカーペットを前にして全滅の危機!
次回:『地獄の業火、全魔族をダメにする』
お楽しみに!
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