第2部第2話:『聖女の誘惑、白猫カフェはちゅ〜る禁止!?』
1. 鳴り響く宣戦布告
「……何だ、あの忌々しいまでの『聖なる光』は」
ある日の午後。
ベルゼの営む猫カフェ『パンデモニウム』の向かい側に、一軒の新店舗がオープンした。
店の名は『サンクチュアリ』。
そこから漂う「あまりにも清らかな波動」に、クロは背中の毛を逆立てていた。
「父上……。あちらの店、オープン初日で我が店の3倍の客を吸い込んでいます。しかも、店内から聞こえるのは悲鳴ではなく……賛美歌のような溜息ばかりです……スピースピー」
報告するのは、顔の中央にパーツがギュッと密集したベルゼだ。
興奮のあまり、鼻を鳴らしながらクロにすり寄る。
「ベルゼよ、落ち着け。鼻を鳴らすな、余計に顔が埋まって見えるぞ。……だが確かに、あの輝きには見覚えがある」
クロの脳裏に、不吉な予感が走った。
2. 聖女、降臨
偵察のために向かいの店へ足を踏み入れたクロたちは、衝撃の光景を目にした。
「皆様、ようこそ。この子たちは皆、天界の癒やしを授かった天使たちです」
微笑むオーナーの正体。
それは、かつて魔界でヴァルザーを幾度となく苦しめた「聖女マリア」であった。
「……マリアだと!? 貴様、こんなところで何をしている!」
クロが鋭く威嚇(のつもりでニャーと鳴く)すると、マリアは優雅に微笑んだ。
「あら、可愛い黒猫ちゃん。でもダメですよ? この店は『ちゅ〜る禁止』。聖なるハーブティーとオーガニックな小魚しか認められておりません」
「な……ッ!?」
クロは絶句した。
「ち、ちゅ〜る禁止だと!? 正気か! 人類から最大の娯楽を奪い、味気ない小魚で支配しようというのか! 貴様、それでも聖女か! 悪魔の所業ではないか!!」
クロの魂の絶叫は、店内に流れる清らかな「癒やしのBGM」にかき消された。
3. 禁欲 vs 快楽
聖女の店は、その「健康志向」で瞬く間に人間たちを虜にしていった。
対する『パンデモニウム』は、「ジャンクで背徳的な可愛さ」を売りにしていたため、客層が真っ二つに割れる事態に。
「父上……。このままでは、街の猫たちが全員、無塩の小魚しか食べない『草食系』になってしまいます……スピースピー」
「ベルゼよ、我が息子ながら情けない音を出すな。……よかろう、我らの『魔の魅力』を叩き込んでやる!」
クロの瞳がギラリと光る。
「禁断の『ダブルちゅ〜る・パーティー』を開催するぞ!」
4. 堕落の儀式
その日の夕方。
クロはSNSに一本の動画を投稿した。
タイトルは――『深淵の果実を貪る者たち(※ちゅ〜る食べてるだけ)』。
リリスが優雅に。
ベルゼが豪快に(顔をシワシワにして)。
そしてゼノンが、残像が見えるほどの勢いでちゅ〜るを舐めとる!
重厚なパイプオルガンのBGMに乗せて、その「欲望」が配信された。
『やっぱり猫は、ちゅ〜る食べてる時が一番幸せそうだよね……』
『見て、この鼻ペチャの子、必死すぎて顔がさらに縮んでる! 尊い!』
ネットの民は、再び「本能」へと引き戻された。
さらに追い打ちをかけるように、さくらが持ってきた「最新のまたたび入りクッション」を投入。
マスコットであるクロたちが完全に「ヘロヘロのダメ猫」と化している姿が流れると、客たちは「聖なる癒やし」よりも「ダメ可愛さ」を求めて『パンデモニウム』へ逆流し始めた。
5. 聖女の溜息
結局、その日の売り上げは僅差で勝利。
閉店後、マリアが店の外へ出てきて、クロに向かって溜息をついた。
「……ヴァルザー。相変わらず、貴方の誘惑は強力ですね。毒(添加物)を以て人を制するとは」
「フン、勘違いするなマリア。我はただ、人間が一番見たい姿を見せてやったまでだ」
クロは誇らしげに胸を張る。が、そこで鼻をクンクンと鳴らした。
「……ところで、貴様の店の小魚、少し余っているなら寄越せ。夜食にしてやる」
「……強欲ですね。少しだけですよ?」
聖女から差し出された「オーガニックな小魚」を、クロはポリポリと齧った。
「……っ! 味が薄い……だが、素材の旨味が凝縮されている……。おのれ聖女、これも一種の精神攻撃か……ッ!」
その横で、ベルゼも小魚を貰い、「スピースピー」と満足げに鼻を鳴らすのであった。
【次回予告】
聖女マリアとの戦いを終えた我らを待ち受けていたのは、さくらが買ってきた「銀色の刺客」だった。
最新AIを搭載した猫じゃらし――その正体は、かつて魔界を震撼させた伝説の聖剣!?
「主よ、今こそ装備を!」
勇者アレクと聖剣が、まさかの「家電合体」!
逃げ場を失った魔王、リビングで最大級のピンチを迎える!
次回:『聖剣エクスカリにゃー、主を求めて三千里』
お楽しみに!
ふん、最後まで読み進めた貴様を、我が軍の『読者』に任命してやろう。
貴様の端末の下にある【★評価】と【ブックマーク】のボタンを押すが良い。
それは点数ではない。我が今夜、侍女から「ちゅ〜る」を献上させるための『信仰心』だ!
★を五つ捧げ、我が覇道に貢献せよ。
決して、おやつが欲しいから媚びているわけではないぞ! クカカカ!




