番外編『世界一のハッピーバースデー』
1. 秘密の作戦会議
「いいか、貴様ら。今日は我らの侍女……もとい、さくらの生誕祭だ。粗相は許されんぞ」
さくらが学校へ出かけた後のリビング。
クロの声が響く。
テーブルの上には、さくらのタブレットが置かれ、リリス、ベルゼ、ゼノン、ガミジン、そして窓の外にはアレクまでが顔を揃えていた。
「ヴァルザー、言われなくても分かっているわ。女王として、最高の祝宴をプロデュースしてあげるから」
リリスは優雅に尻尾を揺らし、既にSNSで「秘密の合図」をフォロワーたちに送っていた。
「ゼノン! 庭の工作はどうなっている!」
「ハッ! すでに近所の犬軍団を招集し、町中の花びらを集めさせております! 文字通り、庭を花絨毯にしてご覧に入れます!」
「私は……私はケーキのデコレーションに、魔力で輝き(物理的なラメ)を付与しますぞ!」
鼻ペチャ王子のベルゼも、かつてないほどやる気に満ちていた。
2. 世界からの祝福
夕暮れ時。さくらが家の門をくぐると、そこには異様な光景が広がっていた。
庭一面に、赤やピンク、白の花びらで描かれた巨大な『HAPPY BIRTHDAY SAKURA』の文字。
「えっ……!? なに、これ……!?」
さくらが呆然としながらリビングのドアを開けると、そこには正装(さくらが以前買った猫用の蝶ネクタイやドレス)をした猫たちが、一列に並んで彼女を迎えた。
「クロちゃん……? みんな、どうしたの?」
クロは無言で、前足でタブレットの再生ボタンを叩いた。
画面に流れたのは、世界中のフォロワーから届いたお祝いメッセージ動画。
『さくらさん、クロちゃんを拾ってくれてありがとう!』
『女王様をいつも綺麗にしてくれて感謝!』
『世界一幸せな飼い主さん、お誕生日おめでとう!』
何千、何万という見知らぬ人たちからの温かい言葉が、動画の中で大きな波となってさくらを包み込んだ。
3. 魔界の至宝と、人間の涙
「……これ、みんながやってくれたの?」
さくらの瞳に、じわりと涙が浮かぶ。
そこへ、リリスがしずしずと歩み寄り、口に咥えていたものをさくらの手のひらに落とした。
それは、リリスが秘蔵していた「魔界の星屑」……に見えるほど美しく磨き上げられた、ヴィンテージのガラス玉だった。
「ふん……。貴女には、安物の宝石よりも、こういう光り物がお似合いよ」
「ありがとう、リリスちゃん……。みんな、本当にありがとう……」
さくらは泣き笑いの表情で、クロをぎゅっと抱きしめた。
クロは「フン、苦しいぞ。我を誰だと思っている、闇の――」と言いかけ、途中で言葉を飲み込んだ。
彼はそっと、柔らかい肉球でさくらの頬の涙を拭った。
「ふにゃ(泣くな。せっかくの化粧が台無しだぞ)」
4. 幸せの1ページ
その夜。さくらが手作りした(猫用)ケーキを囲んで、全員で記念撮影が行われた。
中心には満面の笑みのさくら。
その両脇には、誇らしげなクロとリリス。
足元には、おやつを狙って舌を出しているベルゼとゼノン。
背景の窓には、ひっそりと微笑むアレクと、水槽の中でレタスを掲げるガミジン。
さくらがこの写真をSNSにアップすると、それは瞬く間に「世界で最も幸せな誕生日の風景」として拡散された。
リポストの通知が止まらないスマホを横目に、クロはさくらの膝の上で、今日一番の「ゴロゴロ」を鳴らしていた。




