木枯らしのラブレター
なろラジ大賞参加作です。
木枯らしは世界を急速に冬色に変えていた。
街路樹の葉はあっという間に色褪せ、風に煽られて地面を這う。私はコートの襟を立てアパートへの帰り道を急いだ。
ふと足元に目をやった。
アスファルトの上に赤いモミジの葉が一枚、鮮やかに舞い降りた。
その赤はあまりにも強烈で、燃えるような色だった。
拾い上げると微かに温かい。
不可思議なことにその葉の表面に、小さな文字が浮かんで見えた。
「ずっと、あの日のままだよ」
見覚えがあった。
十年前、高校生の私が夢中になった初恋の彼の文字。
当時の彼はいつもノートの切れ端に、ふざけたメッセージを書いては私に渡してきた。斜めに傾いた癖のある彼の文字。
「まさか……」
立ち尽くす私を木枯らしが追い越していく。
風の音が、まるで彼の口笛のように聞こえた。
十年前の秋。
彼と出会ったのもこんな木枯らしが吹き始めた日だった。
彼は私にまだ青い銀杏の葉を差し出し、「これが色付いたら本当の気持ちを伝えるよ」と言った。
葉が黄色く色づき始めた頃、二人で裏山にも行った。
二人きりの時間。
燃えるような夕焼けが私たちの顔を赤く染めた。
あの時、勇気を出して言った一言。
「好きです」
彼の返事は少し躊躇いの混じった「俺も」だった。
その時の甘酸っぱくも満たされた心。体の奥が熱くなるような強い衝撃。
今思い出しても胸が締め付けられる。
秘密を分かち合うように校舎の裏で手を繋いだ。私の手は彼の大きな手に包まれ愛を膨らませた。
その燃えるような恋は、木枯らしよりも早く過ぎ去った。
季節が変わる前に彼は親の転勤で遠い街へ越してしまった。残されたのは一枚の銀杏の葉と彼からの短い手紙だけ。
寂しさよりもあの別れの時に泣けなかった自分への後悔が、今もずっと残っていた。
私は手に持った赤いモミジの葉を、宝物のようにそっとポケットにしまった。
その瞬間、再び風が強く吹く。
木々が泣いているかのようにヒューヒューと強く。
「ずっと、今も君を……」
彼の声が風に乗って耳元を掠めた気がした。
涙が一筋、頬を伝った。
甘く、そして少しだけほろ苦く。
十年という時を超え木枯らしが連れてきたのは、もはや会うことも叶わない初恋の残滓だった。
顔を上げると空は既に真冬の色。
それでも、ポケットの中でモミジの葉は微かに熱を放っている。
まるで今もあの日の恋を宿しているかのように。
私にとってこの木枯らしは、燃えるような恋を呼び覚ます、ラブレターなのかもしれない……。
終
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