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第八章:理不尽な退去勧告

 その後、詐欺や監禁、人身売買の容疑で悪人たちを警備官に引き渡してこの件は一件落着と思われたが、そうはならなかった。


 白の塔、その別棟にある研究室の中では魔術師達が重苦しい空気に包まれていた。


「これはどういうことだ!」


「……それは」


「どう責任を取るんだ?」


「別にその男が何しようと構わぬが、白の塔の関係者があの商会の邪魔をしたということであれば、我々との信頼関係に傷が付くんだぞ!」


 この中で一番偉そうな魔術師が、部下である魔術師を叱責していた。


「確かに協力者は大事ですが、あくどすぎる者たちに協力するのは、神がお許しになりますでしょうか?」


「過程が大事なのではない。大事なのは結果だ。そんなことも分からんのか!」


「我々の仲間になるならそれでよし。邪魔をするようであれば排除する。危機管理としては初歩の話ではないかね?」


「……」


 危機管理局のボンデロは納得いってなかった。管轄違いではあったが、あのような輩は取り締まるべきだと思うし、神キュベレーもそれを望んでいると思っているからだ。しかし、あからさまに反抗するのもためらわれた。

 その後、商館の倉庫を破壊したかどでトゥルーは王都からの退去勧告を受ける。そして悪徳商会側は取り立てが強引だった等の微罪で数人が捕縛されただけだった。そのことをアデリナが申し訳なさそうにトゥルーに知らせる。


「申し訳ありません。私の力不足です」


「いや、いいよ。君の立場で精一杯動いてくれたんだろ。理不尽なことには慣れてるから」


「ホント、申し訳ありません。なんか上の方で話が決まっていて、話が通じないんですよ」


「明日の日が昇るまでにこの街を出ろってことだから、要は今日中ってことか。よっぽど俺が邪魔なんだな……」


「ホント、申し訳ありません。私の力不足で」


 アデリナは平身低頭でトゥルーに謝ってくる。トゥルーはうんざりした諦めの表情でそれを制止した。


(白の塔、何が清廉の白だ。黒の伏魔殿に改称したほうがいいんじゃないか?)


 トゥルーは相も変わらない白の塔のやり口に怒りを覚えたが、組織そのものを敵に回してもどうしようもないことは分かっていた。


(確かにアデリナは良くやってると思う。が、白の塔では浮いた存在だろう。どの組織の中にもクズはいるが、その割合が一定数を超えると、クズがクズを要職に付けるようになってくるので組織全体が腐ってくる。そうなってしまった組織は、クズの論理が幅を利かせてしまうので自浄作用が効かなくなる。それを変えるには人事権を持つトップが変わる必要があるが、クズたちが全力で自己保身に走るのでかなりの血が流れることになる。やり遂げるためには、まともな者たちをまとめ上げる必要があるが、相当困難だろう。これが明確に不要な組織や敵だったら楽なのだが……)


 超越者のナオがいる今であれば、組織を潰すことも変えることも可能。ただ、組織自体は必要なものであるし、自らの力で変わらなければ長続きしないし意味がない。

 本当は組織の理念や目的が一番守らなければならないことで、組織自体を守ることは二番目。個人の利益や保身は最後になるはずなのだが、実際は組織の理念や目的を謳いながら個人の利益や保身を図る輩が組織をダメにしている状態。それが、現在の白の塔である。トゥルーは、その時が来たら力を貸そうと思ってはいたが、それは今ではないと考えていた。


 トゥルーは静かに息を吐いて自分を落ち着かせると、予定外の早い旅立ちをどうするかを考えることにした。


 高位魔術師であるトゥルーと超越者のナオにとって、夜中の移動に問題はない。それ以前に、トゥルーが場所を思い付いた時点でナオが瞬間移動してしまうので制約はほぼないのだが、なるべく騒ぎを起こさないために、明るいうちに普通に街を出ることにした。


「ナオさん、宿に戻って荷物をまとめたら、街を歩いて出ましょう。その前にお茶でも飲んで、落ち着いてから行きましょうか」


「いいですね。前回行けなかったカレットに行きましょう。おいしいと評判なんですよね、トゥルーさん!」


 ナオは上機嫌であった。超越者にとって、店の雰囲気や味に意味があるのか不明である。トゥルーにとっても行ったことがなく、しばらくは行くことのできなくなった有名店なので、少し楽しみでもあった。赤豚料理やチーズケーキが食べられるとのことだが、流行に疎いトゥルーはどちらも食べたことがなかった。


「これ酸味と甘みが本当に美味いな、評判通りだ……これも、しばらくは口にできないのか……」


 ふたりで小さなチーズケーキを食べ終わり、赤豚料理を待っている時、トゥルーは街が少し騒がしくなっているのに気付いた。


「ナオさん、何かされました?」


「もう悪い人たちに食事の邪魔をされないようにしましたよ。何か問題でも?」


(食事の邪魔をされない?……何?)


「食事が済んだらすぐに出かけましょうね」


 トゥルーは悪人がどうなろうと困らないが、面倒事は困るので早めに街を出ることにした。


 その時、白の塔の研究所と悪徳商会では空間が歪曲され、出入りができなくなっていた。どれだけ歩いても中に入れず、どれだけ歩いても外に出られない状態。同じ人が何度も何度も出入口の扉を開けては消えていた。まるで空間そのものが輪を描いているかのように、永遠に扉の外にはたどり着けなかった。これに解除の方法があるかどうかは不明だが、中に閉じ込められた者はそこそこの間不便を強いられると思われる。また、ボンデロが閉じ込められなかったことから、影響を受けるのは悪人だけのようである。


 ナオは食事の邪魔をされないようにと言っているので、この現象はトゥルーたちが街を出るまでだと予想されたが、これからどうなるかは誰にも分からなかった。


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