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第六章:疑いの目

 白の塔を出た時にはすでに日は傾いていた。食事はすでに頂いているので今晩の宿屋を探す。健全な生活を送っていたお陰で懐具合は大丈夫。ここでトゥルーは気付く。


(ここで金がないなぁ、困ったなぁなんて思った日には……いやいや)


「ナオさん、今晩はこの近くで宿を取ろうと思います。明日はちょっと心配なので、白の塔に寄ってから街を散策しようと思うのですが、いかがでしょうか?」


「トゥルーさん、そんなに気を遣わなくても大丈夫ですよ。思った通りにして頂いて」


 ナオはそう笑顔で答えた。とても優しい言葉と笑顔であったが、その完璧すぎる笑顔は、逆にトゥルーの胸に微妙な緊張を走らせた。


 通り沿いの大きく小綺麗な宿屋、受付では特にナオとの関係性を聞かれることもなく、ちゃんとベッドが2つある部屋に案内された。通りに面する窓から夕方の喧騒を懐かしく感じながら、明日を楽しみに早めの就寝となった。


 ナオは微かな寝息を立てて眠っていたが、トゥルーはここ数日の出来事を思い出してしまい、全く寝ることができなかった。


(こうして見ると、すごい可愛いんだが、あの魔法大国を一瞬で消滅させた超越者なんだよなぁ。なんで俺なんかに興味を……何か理由があるのか?明日、何もなけりゃ良いんだが……白の塔も余計なことはしないで欲しいんだが、どうだろう)


 そして何事もなく朝を迎える。


「おはようございます、トゥルーさん」


 ナオは相変わらず美しい微笑みでトゥルーに話しかけてくる。中身が超越者でなければトゥルーにとって理想的な状況であったが、国を一瞬で消滅させてしまう実在する神に甘い気持ちなど湧こうはずもなかった。

 宿屋で軽く食事を取り、白の塔へ向かう。


「ナオさん、今日はよろしくお願いします」


 言葉遣いに気を付けながら、精一杯のお願いをする。ナオはそんな気持ちを受け流すような感じで元気に歩いている。




 白の塔に着いたトゥルーは他の魔術師に話しかけられぬよう、少し伏し目がちに、そして少し速足でアデリナの私室に急いだ。扉をノックして中に入ると、アデリナと知らない男が何やら話し合っていた。


「よくいらっしゃいました、トゥルーさん。こちらは危機管理局のボンデロ氏。今回の一連の騒動についてお聞きしたいことがあるそうです」


「私で良ければ。ただ、あまり期待されても困るのですが」


「初めまして、ボンデロです。トゥルーさんは元々こちらに所属されていたとお聞きしたのですが」


 それから色々と事情聴取を受ける形となった。




「いつ頃王都に戻られたんですか?あと、戻られた理由は?」


「ボンデロさん、それさっきお話しましたよね」


「えぇ、そうですが一応本人の口から聞かないことには」


「アデリナ君、大丈夫だ。こちらに着いたのは昨日の朝です。理由としてはナオにせがまれてと申しますか……」


「こちらにいらした時のことですが、非常に優秀な魔術師とお聞きしております。実績もあるようですし。ただ、失礼ですが第三位階に留まっておられる。何か理由が?」


「失礼ですよ。ボンデロさん!」


「いや、大丈夫です。もちろん、私の昇格試験の結果とかも見られてますよね」


「はい。筆記も実技もトップでしたね。それなのに、依頼の達成率や面談で基準に達していない。といった内容でしたね」


「そういうことですね。依頼の内容とかは調査されました?」


「一応。あれが通ってることに驚きましたよ。失敗案件の押し付けや成功案件の無視や横取り。面談内容なんて矛盾だらけ」


「そういうことですね」


「白の塔を恨んでるのでは?」


「ボンデロさん!」


「いや失敬。本件については調べても何も出てこないので、個人の粗探ししかできない状態なんですよ。それで何か分かるわけでもないんですがね」


 こうして一通りの事情聴取を受けた。トゥルーにとって良かったのは、失礼そうな話や個人的な話はアデリナが止めてくれたお陰で、始終穏やかな感じで事情聴取が終わったことである。最悪、ナオの素性や死者が生き返ったことへの追求、事件に関与している疑いありとして拘禁される可能性もなかったわけではないのだから。

 ただ、アデリナがここ白の塔でトゥルーさんより優秀な人はいないと持ち上げてくれたお陰で、多少恥ずかしい事情聴取となった。


「失礼をお許しください。これも職務上のことなので。まぁ今回の件については、我々もホント手探りの状態でして」


「いえいえ、苦労されていることはだいたい分かりますから」


「それにしてもトゥルーさんは博識でいらっしゃる。空間歪曲にそのような手段が存在しようとは」


「可能性の話ですよ。あくまでも」


 今回、トゥルーはちょっとした失敗を犯した。トゥルーは研究熱心で博識ではあったが、己が知識をひけらかすタイプではなかったので疑われなかったが、今回話した空間歪曲の知識は超越者から流し込まれた知識である。つまり、この世に存在しない知識。ただ周りは尊敬の目で見てくれるので、トゥルーは気分が良かった。


「トゥルーさん、どうですか、改めて危機管理室の顧問というのは?」


「ありがたいお話ですが、今さらちょっと……」


「そうですよ。戻って頂けるのでしたら、うちに来ていただくのが筋というもの!」


「冗談です、冗談。それにしてももったいないですねぇ」


 ボンデロは大笑いしながら会話を楽しんでいるように見えた。が、その目は何度もナオの方を見ていた。その目は美人を眺める目ではなく、何か手がかりを探そうとする鋭い目付きであった。そしてナオは終始微笑みを浮かべていたが、その瞳には人には理解できぬ冷たき光が宿っていた。


 こうして事情聴取という名の会談は、非常に和やかな感じで終わった。しかしそれはトゥルーに対してであって、親戚の娘という正体不明のナオに対しての静かな疑念は、白の塔の奥深くで静かに蠢き始めていた。


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