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第四十五章:ドゥルガーの最後、そして日常へ

 トゥルーが唱えた呪文。それは雷系の最上位呪文。雷神憤怒(ゼウス・レイジ!)であった。


 極太の雷撃が四方八方に走り、部屋中を埋め尽くす。見た者の眼を焦がし、触れたものを消し炭に変えていく。離れて宙に浮いていたトゥルーたちでさえ、雷撃の余波に飲まれて感電し、床へと叩き落とされた。呪文発動時には目を閉じ耳を塞いでいたが、それでもしばらくは目が見えず、耳が聞こえない状態であった。


 痺れた体を無理やり動かし、目を擦りながら鉄壁の向こう側を覗いてみると、機械類はすべて黒煙を上げ、所々火花をあげていた。そして水浸しの床には、黒く焦げた人型の残骸が、いくつも床に転がっていた。動く気配はない。水に濡れた場所に立って雷撃系の最上位呪文を受けたのだから、魔法障壁など何の役に立たなかったと思われる。しかし、部屋の一番奥に一人だけふらつきながらも弓を支えにして立っていた者がいた。


 トゥルーが目を凝らしながら慎重に近づく。あの状態では攻撃してくるとは思えないが、もしその素振りを見せたら先に攻撃するつもりである。


 ある程度近づいたとき、トゥルーはその弓の化け物の胸の紋章を見て、その男が王宮で倒した男と同じくアーサー王の臣下。騎士トリスタンであることに気付いた。


 もう一度雷神憤怒の呪文をぶつければ、トリスタンにとどめをさせそうであった。しかし同時に自分たちも感電して動けなくなってしまう可能性が高いので、トゥルーはこの化け物が言葉を理解していることにかけた。


「偉大なるアーサー王の臣下トリスタンよ、お前らの主であるアーサー王はこの愚行を知っているのか?」


 返事はない。トゥルーは再び語りかける。


「この行為はアーサー王のためなのか?これでアーサー王が喜ぶのか?」


 やはり返事はなかった。しかしトリスタンの後ろの部屋の扉が開くと、金属鎧を着込んで背中に大剣を背負った騎士が出てきた。一気に緊張が走る。この距離であれば、こちらが呪文を唱え終わる前に誰か一人は切り捨てられる。その距離である。


 トゥルーは自分が囮になって時間稼ぎをしている間に二人に逃げてもらおうと考えたが、おそらく二人は同意せず、逆に自分たちが囮になると言い出しそうなのでその案は諦めた。しかし全員が助かる方法を色々と考えてみたが思いつかない。


 その騎士はトゥルーの方に歩き出す。それを見たトゥルーたちが後ずさりする。その騎士はトリスタンの横に来ると、腕をつかんで肩を貸し、半分引きずるように奥の部屋に向かって歩を進ませた。そして数歩進んだところで立ち止まり、トゥルーたちの方を振り返った。


「確かにな。我々の幕ではなかったようだ。主に謝罪せねばならんな」


 その騎士は何かを悟ったかのような顔をしてそう言った。言い終わると二人の体が輝き、そのまま光の粒子となって消えていった。


「トゥルーさん、あれは……」


「アーサー王も、アーサー王の臣下も、誇り高き騎士だった。ってことだ」


「悪い奴の仲間じゃなかったんですね……」


「……何があったのか、次会ったときに聞いてみるよ」


 呆気に取られながら二人の消えていく様を見送ったトゥルーたちは痺れた体に鞭打ち、先に進もうとした。すると先ほどの男が出てきた部屋から憤怒の表情をした見知った男が出てきた。すべての元凶、キュベレー教の教皇であった化け物、ドゥルガーが鬼の表情でトゥルーを凝視し、恨み言を言ってきた。


「この化け物め。なぜわしの邪魔をする。お前さえ、お前さえ居なければ。わしが。わしの長年の夢が。努力が。お前さえ!」


 ひどい言い掛かりである。トゥルーは別にドゥルガーの邪魔をしようとした訳ではない。どちらかと言えば巻き込まれた被害者である。しかし、ここで反論しても頭に血が上ったドゥルガーにその声が届くとも思えなかった。


 ドゥルガーの恨み言が途切れることはなかった。恨み言を言いながらその体が黒く崩壊していく。その姿は醜く不快で見る者を恐怖に貶めた。その崩れ落ちた肉体が、禍々しい黒煙へと変じ、そのままトゥルーに襲い掛かってきた。


 本能的な不快感と恐怖に捕らわれていたトゥルーたちであったが、その反応は的確で素早かった。


 アデリナが不死退散を。ヨーゼフが爆裂呪文を唱えたが、黒い煙にはまったく効かなかった。トゥルーは栄光の指輪をはめ大聖破邪の呪文を唱えたが致命傷とはならず、黒い煙はトゥルーの体にまとわりついたかと思うと、そのままトゥルーの体の中に吸い込まれるように入っていった。


 トゥルーの内側で、彼とドゥルガーの精神が互いを喰らい尽くさんと激しくぶつかり合っていた。体が激しく痙攣する。が、それも一瞬。


 痙攣が止まったかと思えば、目の色が青く冷たく光る。アデリナとヨーゼフを見つめると、怪しい呪文を唱えようとした。最悪である。もしドゥルガーがトゥルーの力を吸収したのであれば、この場に対抗できる者はいない。いや、この世界に対抗できる人物はいないだろう。


 まさしく世界に危機がおとずれた。その時、部屋のなかに気持ちのよいそよ風が吹き、トゥルーの隣にナオが現れた。


 ナオはまるで自宅の縁側にいるような感じで、トゥルーに熱々のクラムチャウダースープを差し出した。


「ここは寒いですねぇ。温かいものをお持ちしましたよ」


 その聞き覚えのある暖かい声を、消えゆく意識の中で聞いたトゥルーは覚醒した。トゥルーの中で圧倒的であったドゥルガーの負の精神が大きく揺れた。取り込んで消滅したはずのトゥルーの精神が、今逆にドゥルガーの精神を飲み込んでいく。

 トゥルーはドゥルガーから主導権を取り返し、トゥルーの体からドゥルガーの意識が消えた。青かったトゥルーの目が元に戻る。


 トゥルーはナオからスープを両手で受け取り、笑顔で応えた。


「ありがとう。温まるよ」


 トゥルーはスープに口を付けると、ゆっくりと息をはき、腰掛ける場所を探した。ここが山里の自宅ではないことを思い出したトゥルーは、アデリナとヨーゼフと共に、施設を後にした。そして施設の扉を封印すると、周りの施設攻略の一団に作戦成功を告げた。


 皆が集まり歓声を上げる。


「うぉー!やったぁ!」、「すげぇ、倒したんだ!」、「これで帰れるぞー!」


 熱気冷めやらぬなか、トゥルーたちは白の塔に戻り、王に簡単に状況を話すと、後はアデリナたちに聞いて欲しいと伝えてナオとともに山里に戻った。




 トゥルーは自宅の窓際でナオが淹れてくれたお茶を飲んでいた。


(あの遺跡を調査するのも楽しそうだけど、今はこのお茶の方がいいなぁ)


 トゥルーは日の当たる窓際で目を閉じながら、ロッキングチェアを揺らしていた。


いかがでしたでしょうか。


今回は書き進むにつれ、最初考えていた方向性から少しずつ変わっていったようです。


壮大で空しいバッドエンドの予定が、のんびりと静かなハッピーエンド?になっていました。


しばらくは次回作の構想を練っていきたいと考えています(タッチの異なる派生作かな?)


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


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