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第四十四章:古代遺跡、再び

 一体目を屠った後、トゥルーたちは間を置かずに砂漠の岩山に跳んだ。既に一体倒してしまっている以上、ドゥルガーが何か対策をしてくる時間を与えたくないためである。

 今回の作戦も多くの兵と魔術師が駆り出されることになるが、先ほどの戦闘で負傷した者は連れていけないので、予備役の兵も急遽参加させられることになった。それでも皆戦意は高かったのでトゥルーは安心すると同時に、その意気込みに感謝していた。


「これで最後だな。よろしく頼むぞ、トゥルー!」


「大魔道、ではないんですね。少し肩の力が抜けましたよ。もちろん、これだけの人が命をかけてくれるんです。やってやりますよ」


 王の言葉に拳を握って強気の返事をしたトゥルーは、自分らしくないかなぁと思いながら、今はこんな感じでやった方がよいんだと自嘲気味に笑いながら最後の地へ跳んだ。




 砂漠の岩山を囲むように兵が配置される。空を飛べる魔術師たちは空で待機しているが、敵に神速の弓使いがいることが分かっているので、皆透明化しており姿は見えない。姿が消せない地上部隊は敵に撃ち抜かれないよう、中腹の岩陰に隠れた状態で待機である。そしてそれは放たれた。


「隕石召喚(メテオ・ストライク!)」


 空を飛んでいた高位魔術師三人が空の一ヵ所に集まると、精神を同調し召喚系の最上位呪文を唱えた。術者から天空に向けて薄い光が真っすぐに伸び、その中を白い光の玉がゆっくりと登っていく。やがて天空に巨大な岩塊が姿を現し、重々しく落下を始めた。それを見ていた者たちの緊張が極限に高まったとき、天空の岩石が岩山の頂上に落ちた。


 その瞬間、閃光が走り、山が震えた。次に待機していた者たちの鼓膜を破りそうな衝撃波が襲ってきたかと思うと、岩山の麓にまで赤い破片が降り注いだ。これこそが、召喚系最上位呪文“メテオ・ストライク”の威力だった。


 もし岩山の山頂から見ることができたなら、その者はこの世の終わりというものをその身で感じることができる。次の瞬間にはその身は消え去ってしまうのだが。


 “メテオ・ストライク”の直撃であっても、地下深くにある施設は破壊されることはない。ただその地盤には被害は出ているはずである。この強烈な奇襲に対し、すぐにあの弓の化け物が出てくるかと思われたが、しばらく待っても何の反応もなかった。計画通り、再び隕石召喚の呪文が唱えられた。


 再び山が震え、一撃目でかろうじて保っていた頂上の形が変わった。


 三撃目もやむなしという所でトゥルーがそれを止めた。これ以上やると入口の扉からの侵入が不可能になってしまう為である。次の作戦として、入口のある窪みに向けて魔術師たちが豪雨招来の呪文をかけ続けた。先ほどの隕石召喚によってひび割れた地盤に水が吸い込まれていく。砂漠の岩山にある施設に排水装置があるとも思えないので、施設は間違いなく水浸しになっている。


 しばらくするとこの攻撃に耐えかねたのか、頂上の扉から高貴な革鎧をまとい白く輝く大きな弓を持つ騎士が現れた。おそらく前回トゥルーたちに神速の矢を放った男。いや化け物であろう。


 魔術師たちは爆炎で見通しを悪くすると同時に自分たちの分身を作り出す。その様子を見た地上部隊も全力で攻撃をしつつ化け物から距離を取る。弓の化け物に視認された瞬間命はないので、兵たちは必死に煙幕を張り続けた。それでも隙間は生じるが、煙幕の隙間から射貫かれたものはすべて幻術で作られた分身で、被害はなかった。


 弓の化け物は、その場に留まっていては煙が晴れないと判断したのか、攻撃を続けながら風上の方に移動していた。それに合わせて攻撃部隊も距離を取りながら風上に移動し、弓の化け物を誘導しようとしていた。しかし、弓の化け物は岩山の頂上からは離れず、攻撃が有効でないと判断したのか、また扉の中に戻ってしまった。




 本来の計画では弓の化け物がすぐには戻れないところにまで引き離す予定であったが、それが難しいことを感じたトゥルーは仕方なく次の作戦に移った。施設への侵入である。トゥルーとヨーゼフが山頂の扉の前に行ったところ、空中で警戒していたはずのアデリナが付いてきていた。


「あれっ、アデリナさんも来るんでしたっけ?」


「やはり心配ですから。私も付いて行きます。いいですよね、トゥルーさん」


「ん、うん。アデリナくんがそう言うなら」


 最初の作戦にはなかったが、急遽アデリナが付いてくることになった。今は扉の外を警戒する必要はないし、火力を除けばヨーゼフより心強かったので、特に不満はなかった。


(アデリナくんは昔からすごかったが、改めてすごいと感じる。才能だけじゃなくて判断力も行動力も。自慢の弟子だな)


 扉の周りの岩は隕石召喚により崩れ去っており、かなり危険に見えた。扉を開ける古代語はトゥルーしか唱えられないので、扉が開いた時に無防備になるトゥルーのために警戒と陽動はこの二人に任せることになる。


 トゥルーが呪文を唱えると、扉が異音をあげガタつきながら開いた。そこで待ち伏せはなかったが、施設に続く下りの石段はひび割れ、かなりの勢いで水が流れ落ちていた。先に進んでいたヨーゼフが足を取られそうになったので、危険と判断しトゥルーたちは宙に浮いた状態で階段を下りた。ただ浮いた状態では天井が低く、けっこうな雨漏りもあったので、気は焦るが頭上が気になり進みづらい状況が続いた。それでもしばらく降りると一番奥の施設の前の扉に着いた。


 ここから先が施設の中核である。


 前回は扉を開けた途端、弓の化け物の奇襲を受けて命からがら逃げかえった場所でもある。今回は二の轍を踏まないよう、おとりとなる魔術師の幻影を多数用意したうえで分厚い鉄の壁を生成した。幻影が通用するのは、先ほどの攻防戦で確認済みであるが、鉄の壁であの化け物の矢が防げるかどうかは分からない。ただ無いよりかはましだと思われた。


 トゥルーが扉を開く呪文を唱える。前回と同様、扉が厳かに開いた。


 扉が開け切る前に立て続けに数十本の矢が飛んできて、幻影が次々に撃ち抜かれ消えていった。鉄壁に当たった矢ははじき返されていたが、何回か同一方向からと思われる矢が分厚い鉄壁を貫通し、トゥルーたちに襲い掛かっていた。


 この状況から強力な弓の化け物が一体と、弓を武器としているがそこまで強力ではない何かが数十体いることが推測された。


 これだけ間断ない攻撃をされると部屋に入るどころか身動きすらとれない。もう撤退しかないと思われたが、トゥルーの目は諦めてはいなかった。


 しばらく考えていたトゥルーが呪文を唱え始めた。聞き覚えのない珍しい呪文のようで、詠唱が終わらない。


 敵が鉄壁を越えてこちらに侵入する前に呪文が完成した。それは見た者の眼を焦がす起死回生の呪文であった。


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