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第四十三章:化け物との対峙

 作戦は即実行された。例の化け物が既に王都まで半日の距離に来ているのでトゥルーたちには時間的な余裕がなかったためである。


 作戦の実行場所は街道沿いの山道で見通しが悪く、民家から離れている場所が選ばれた。いざという時に隠れ、逃げ出すためである。




「大丈夫ですよねぇ」


「心配するな。今回は“倒す”んじゃなくて、能力を確かめるだけだ」


「そう……ですよねぇ」


 ヨーゼフは腕にはめている守護天使の腕輪を確かめるように触っていた。王家に伝わる一品なので、いざという時には助けてくれそうではある。


 そうこうしていると例の化け物、古の英雄モードレッドがやってきた。いよいよ作戦開始である。

 まずは通常の遠距離攻撃。長弓や馬に引かせる大型の石弓、そして投石機。まるで城塞を攻めているような攻撃であったが、化け物には一切通じなかった。避けるか切り落とされるかで、時間稼ぎにすらなっていなかった。

 そこに呪文攻撃が加わる。爆炎や幻影、透明化も組み合わせ、化け物が視覚に頼っているかを判断しようとしたが、こちらが化け物から攻撃されない距離を保っているので、見えていないのか無視されているのかの判断が難しかった。そこでヨーゼフの出番である。


 化け物が全力で疾走すれば、ぎりぎりで攻撃が届く距離からヨーゼフが爆裂呪文を唱える。ダメージが通らないのは分かっているし、反撃されるのも覚悟の上だが、爆裂呪文の煙で視界は妨げられた状態。ここでトゥルーがヨーゼフを透明にすれば、化け物は完全にヨーゼフを見失うはず。同時にアデリナがヨーゼフに飛行の呪文をかければ、たとえ相手が視覚以外でヨーゼフを捕捉できたとしても完全に逃げ切れるはず。であった。


 ただここで誤算があった。ヨーゼフが焦って呪文を噛んでしまい、発動のタイミングが遅れてしまったのだ。さらに焦って唱えた爆裂呪文が大きく的を外してしまった。当然タイミングが大きくズレたので、後のトゥルーやアデリナの呪文発動のタイミングもズレてしまった。

 こうなると、目隠しとなるはずの煙もないので化け物の神速の突進は止められない。ヨーゼフの目の前に立ち、斬撃で胴体を真っ二つにしようとしたそのとき。ヨーゼフは反射的に手を上げ、迫る斬撃を受け止めようとした。するとヨーゼフの腕輪から可愛らしい子供の天使が二体現れた。突然の天使の出現に化け物の動きが一瞬止まる。

 その可愛らしい天使は「遊ぼう!遊ぼう!」と言いながら、ヨーゼフにまとわりついてきた。と同時にトゥルーやアデリナの呪文が完成し、ヨーゼフの姿が消え、その気配も消えた。

 化け物は一瞬考えるような素振りを見せたが、すぐに何事もなかったかのように王都に向かって歩き出した。




 そこは白の塔の危機管理局。顔面蒼白のヨーゼフの周りを、可愛らしい二体の天使が飛び回っている。特に害はないが邪魔である。


「これは何だ?」


「分かりません。王に頂いた腕輪から出てきたみたいなのですが……」


 ルートヴィヒ王からの問いにトゥルーが答えるが、本当に何だか分からなかった。ただ腕輪をよく見ると、ふたが開いているように見えたので、それを閉じると可愛らしい天使の姿が消えた。


「王よ、これは一体?」


「……あー、たしかこれは」


 今度はトゥルーが王に聞く。すると少しの間をおいて、今分かったかのように王が答えた。


「余が幼きとき、遊んでいたおもちゃだ。思い出したぞ、懐かしいなぁ」


「……」


 ルートヴィヒ王はしみじみとした表情でヨーゼフに貸し出した腕輪を眺めていた。ただ、“守護天使の腕輪”が主を護る秘宝などではなく、王の幼少期のおもちゃだったと知り、一同は言葉を失った。ただヨーゼフの命を救ったことには違いないので、誰も何も言えないでいた。ヨーゼフ本人も不満はあったが、次の作戦に自分の命を救った腕輪を置いて行こうとは思わなかった。




 全員席に着いたので、進行役のアデリナが状況と作戦の説明を始める。


 「化け物には通常攻撃も呪文攻撃も効果がありません。ただ視覚に頼っていて煙や幻術、透明化を見破ることはできません。気配を探るていどはできそうですが、察知能力は普通の人間と変わらないことが判明しました。そのうえで次の作戦ですが、攻撃手段としてはあのキュベレー神を屠った質量兵器を使います。あれならば呪文ではありませんから無効化されませんし、剣で叩き落される心配もありません。威力も絶大で、直撃すれば耐えられるものなど存在しません」


「しかし、当てられるのですか?相手は動いてますよ」


「そのために王宮の門の前に落とし穴を掘ります。さらに、どんなに身体能力が高くても抜け出せないよう水を張ります。落とし穴は幻術で見えないようにしますから気付かれることはないでしょう。化け物が門に近づくと守備隊や魔術師が総攻撃を行います。効かないことは百も承知ですが、王宮への侵入者に対して何もしないことは変ですからね」


「それとこの作戦に関しまして、王にお願いがあるのですが……」


 作戦は、化け物を落とし穴に落とし、そこに上空から重量物を落として倒すという単純な方法である。その硬くて重い重量物として最適なのが、王宮の中に建てられたばかりのルートヴィヒ王の銅像であった。これは戴冠20周年およびガルーダ国との戦勝記念として先月建立されたばかりの王自慢の銅像であり、先日お披露目されたばかりのものであった。


 王は、国の一大事なので、そんな些細なことを気にするな。と言って懐の広さを感じさせてくれたが、その口元は若干引きつっていた。それに気づいた者も居たのだが、かける言葉が見つからないので、皆黙っていった。




 化け物が王宮に近づいてきた。道に造られた急ごしらえの土壁や王宮の塀の上から矢や石が雨の様に降り注ぐ。炎や氷、雷撃の呪文も化け物に向けられたが、当たる直前でかき消され、まったく効いていない。それでも攻撃の手は緩まなかった。


 そして化け物が王宮の門の前まで来たとき、まったく何の躊躇もなく落とし穴にはまる。瞬間、回避行動をとろうとするが、足場がない空中では手足がバタつくだけである。そのまま落とし穴に張られた水の中に落ちる。


 そのまま剣や鎧の重さで沈んでいこうとするが、化け物は壁面に剣を刺して登ろうとしていた。しかし、魔術師たちが呪文で壁ごと破壊し、化け物の脱出を妨げる。しかしそれも長くは続かない。

 崩れた壁を手掛かりに化け物が落とし穴を登ってくる。そしてその姿が地上に現れたそのとき。




 天空から音速を越え、赫く輝くルートヴィヒ王の銅像が落ちてきた。それは天空に輝く点を人が認識した時には既に地面に到達していた。


 大音響とともに地面が爆ぜる。破片が衝撃波とともに辺りを破壊する。急ごしらえの土壁は隠れていた弓兵とともに吹き飛ばされる。空から攻撃していた魔術師は重ね掛けされた防御結界のお陰で大怪我することはないが、派手に吹き飛ばされ意識を失っていた。


 爆心地というべき落下地点は、落とし穴どころか王宮の門も跡形もなくなり、代わりに大きな窪みができていた。その底には溶岩のように赤く溶けた地面が見える。後片付けは大変そうだが、これで誰も傷一つ付けられなかった古の化け物を倒せたと、その場の全員が安堵した。


 しかしトゥルーは見た。赤く溶けた地面の脇に何か動くものを。


 それは四肢がちぎれ、高温で体全体が鈍く光っている化け物であった。溶岩から這いずり出ようとする姿は見る者を茫然自失とさせていた。


「強酸沼地(アシッド・スワンプ!)」


 まだ動いている化け物に対し、トゥルーは強酸を浴びせかけた。高温に熱せられた強酸はその威力を倍増させる。化け物はそれでも動こうとしていたが、動かすたびに体が溶けていき、やがて消えていった。


「よし!」


 トゥルーは柄にもない大声を出した。その瞬間、周りが歓喜の声であふれ返る。


「やったぁー!」「倒したぞー!」「見たか化け物!」


 こうして古の英雄、騎士モードレッドは文字通り消滅した。トゥルーたちの勝利である。


 そして次は、ドゥルガーの潜む古代魔術王国の施設の攻略。トゥルーは次こそはドゥルガーを倒して帰ってくる。そう心に決めたのであった。


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