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第四十二章:一筋の光明

「トゥルーさん、私も爆裂……」


 ヨーゼフがトゥルーに声をかけ、トゥルーが横を向いた瞬間だった。


「パリーン!」


 強固に重ね掛けされたトゥルーの防御結界が一瞬で破壊され、後頭部のフードが引き裂かれた。もし横を向いていなければ、フードではなく頭部が引き裂かれていたはずである。


 瞬間、次の攻撃を避けるためにトゥルーはかがみ込み、扉の裏側に隠れようとした。同時に、


「隠れろ!」


 ヨーゼフに向かって、扉の裏側に隠れるように指示を出す。しかし、ヨーゼフは何が起こったのか理解できず、部屋の奥を覗き込もうとしていた。

 トゥルーは言葉では間に合わないと判断し、ヨーゼフの膝の裏を蹴った。支えを失ったヨーゼフの体がカクンと沈み込む。


「ヒュン!」


 今までヨーゼフの頭のあった所を矢がかすめていく。もしトゥルーの判断が一瞬でも遅れていれば、ヨーゼフの命はなかった。


「扉の後ろへ!」


 トゥルーが再びヨーゼフに隠れるよう指示を出す。今度はすぐに扉の裏側へ転び込んだヨーゼフ。

 矢が当たったはずの石段を見ると、そこに矢はなかった。消えたのではない。矢全体が石段を突き抜け、小さな穴だけを残して見えなくなっていた。


 それは神速の矢。それは高位魔術師がかけた防御結界を紙のように破る破壊の矢。


「撤退だ!扉の中に爆裂呪文を!」


「敵から射たれません?」


「顔を出す必要はない。姿を見せなければ狙われることもない」


「分かりました!」


 ヨーゼフは素早く小声で呪文を唱え、部屋の中を見ずに爆裂呪文を撃ち込む。部屋の中に巨大な閃光が走り、爆音とともに爆風と煙が一気に辺りを覆い尽くした。

 視界が遮られたなかで、トゥルーはヨーゼフに体当たりする形で体を掴み、そのまま瞬間移動の呪文を唱えた。




 白の塔の危機管理局。そこの局長室にトゥルーたちは居た。今や局長になっているボンデロや弟子だったアデリナもいる。その他白の塔の高位魔術師が数名、重苦しい表情で椅子に座っていた。


「皆さん集まっていただけましたね。ではトゥルーさん、判明したことと現状をお話しいただけますでしょうか」


 アデリナは審議官として長官を補佐する立場だが、現在長官が居ないので、こういった場では取りまとめ役となっている。


「まず、推測を含む話になることをどうかご容赦いただきたい。そのうえで、今暴れている化け物ですが、あれは古の英雄モードレッド。キュベレー教の経典に載っているアーサー王の臣下です。今は既に人ではなく、文字通り化け物です。剣の腕は現世に比肩する者は居ないでしょう。さらに呪文の類は一切効きません。発動済の呪文でさえ無効化されます。ただその強力すぎる魔術結界のせいか、本人も呪文の類は一切使えないようです」


「……聞きしに勝る化け物のようですね。それで倒す方法は?」


「今のところ……極大呪文でさえ通用するかどうか」


「……」


「投獄されているキュベレー教の大司教に、モードレッドの復活と教皇ドゥルガーの生存をほのめかせて聞いたところ、キュベレー教の隠された聖地の場所を聞き出すことに成功しました。それはガルーダ国の砂漠の岩山にある遺跡なのですが、そこはキュベレー教の聖地などではなく、神に挑んで滅ぼされたという古代魔術王国の施設でした」


「……つまり?」


「教皇ドゥルガーが古代魔術王国の施設を利用して、古の化け物を蘇らせた。という事です」


「教皇ドゥルガーは死んだのでは?」


「あの状況で生きている人間はいません」


「?」


「今のドゥルガーは人ではないということですよ」


 場が静まり返る。自分たちが相対しているのが、邪教の教皇などではなく、古代魔術王国の力を得た化け物だと分かったからだ。その力は絶大で、たった一体の化け物に対し、王国最強の大魔道が打つ手がないと言っているのだ。


「それともう一つ。ヨーゼフくんを連れてその施設に潜入を試みたのですが……」


 トゥルーの次の言葉を待って、その場が期待と不安で静まり返る。


「殺されかけました。こうして生きているのは運が良かっただけです。そこにいた化け物は遠距離攻撃能力を持っています。おそらくは神話で語られるような弓なのでしょう。これには我々魔術師の防御結界も役に立ちません。姿を見られたらおしまい。離れて監視するのも難しいと思います」


「それでは打つ手がないと?……もう逃げ出すしか……」




「そうは言っておらんよ。のう、トゥルー大魔道よ!」


「王!」


「立ち上がらずともよい。会議を続けよ」


 この重苦しい会議に突然ルートヴィヒ王が現れた。この局面において王の威風堂々とした振る舞いは、この場にいる者たちに安心感と冷静さをもたらした。


「はい、奴らは視覚に頼っているようで、扉や煙の向こうから攻撃されることはありませんでした。また、呪文も使えません。おそらく光学的な幻術や透明化を見破ることはできないと思われます」


「ほう」


「古代魔術王国の力は強大ですが、ドゥルガーは組織を持っておらず、一人ですべてを行っているため、できる事は限られているようです。現状ではただ強い個人が何の策もなく攻めてきているだけですから。例えば何らかの方法で施設から化け物たちを誘い出せば、ドゥルガー一人を倒すのは難しくないかと」


「「おぉ!」」


 トゥルーの言葉に一筋の光明が見えた一同が、分かりやすく感嘆の声を上げた。


「ただ、化け物たちが透明化や幻術を見破れるかどうかは確証がなく、試してみる必要があります。かなり危険ですが……」


「危険というか、見破られたら死にますよね?」


「そうとも限らんさ。幻術は遠くからでもかけられるし、逃げられるぎりぎりの所で攻撃してから姿を消せば、透明化を見破れるかどうかが分かる。化け物は空を飛べないから、簡単なお仕事さ」


 ヨーゼフの素朴な疑問に、トゥルーが楽しそうに軽口で説明する。


「うむ。大丈夫そうだな。では頼むぞヨーゼフくん」


「……えっ、私ですか?」


「そんな顔をするな。王家に伝わる“守護天使の腕輪”を貸し与えよう。心強い代物だ、決して落とすなよ」


 トゥルーの説明に乗っかる形で、ルートヴィヒ王がヨーゼフを指名する。かなり動揺したヨーゼフであったが、王に化け物に対峙した経験を買われたのだと自分に言い聞かせ、王からその腕輪をいただき腕にはめた。その腕輪を見ると、自然に力強さと責任感が湧いてくる。


 ただヨーゼフは攻撃呪文以外は苦手なので、この作戦はタイミングを含めてトゥルーにすべて任せる形になる。


 こうしてトゥルーを主体として、化け物の能力を調べる作戦が実行された。今回は自分の目で確認したいアデリナとボンデロもサポートという形で協力してもらうことになり、ここからようやくトゥルーたちの反抗が幕を開けた。


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