第四十一章:扉の先
トゥルーはキュベレー帝国南方の砂漠に跳んだ。ただ、キュベレー教の大司教から仕入れた情報では正確な位置までは分からない。砂漠の中を歩いて探していては遭難してしまうので、空を飛んで探すことになる。しかし広大な砂漠では時間がかかりすぎてしまう。そこでトゥルーは空気が薄くなるまで高度を上げ、そこから地上の岩山を探すことにした。
「はぁ、はぁ、トゥルーさん、あれ……ではないでしょうか?」
ヨーゼフが苦しそうに息をしながら、下を指さす。そこはわずかに色が周りと異なり、その中心付近には何か構造物のようなものが見えた。急いで下に降りる。
降りるにつれ、次第にその構造物が見えてきた。そこは半ば岩山に同化していたが、間違いなく人の手で造られた石の柱や石畳が残っていた。注意深く辺りを調べる。
遺跡の中央付近には大きく窪んだ場所があった。近くには崩れかけた石の階段があり、ヨーゼフが先行して階段を降りようとした。
「ヨーゼフ!」
トゥルーが突然大声を出し、ヨーゼフが固まる。
「トゥルーさん、脅かさないでくださいよ~」
「ヨーゼフくん、ちょっと動かないでくれ」
トゥルーはそう言うと、石の階段に近づき、腰をかがめる。
「やはり……ここを見てくれ」
「足跡?……ですね」
「そう、最近ここを通った者がいる。入った足跡と出て行った足跡。大きさが違う。どちらかがドゥルガーの可能性もあるな」
「この先には何もないように見える。だが、どこかに隠された扉か床があるはずだ。ヨーゼフくん、ここから先は慎重に」
薄っすらと残っている足跡を注意深く追いかける。それは岩壁の中に続いているように見えた。岩や砂で分かりづらいが金属のような光沢を残す扉があるのが分かる。トゥルーは注意深くその扉に近づくと、手で砂を払いのける。
「ここで間違いなさそうだが……どうやって開けるんだ?」
最近開いたような形跡はある。外側に開く扉で、地面にその跡があるのだが、扉には取っ手も鍵穴もないので開ける方法が分からない。もう一度周囲を調査する。すると、扉の上部に金属の銘板のようなものがあった。
そこには古代語で『神に等しき偉大なる王ヴァルターのために』と刻まれていた。
「ヴァルター……たしか古代魔術王国の最後の王。その強大な力で『神』を滅ぼそうとして神の怒りにふれ、王国ごとこの世から消え去ったはずだが……こんなところに残していたのか」
トゥルーが小さな山里で魔術の研究をしていたとき、最後の研究対象としていたのがこの古代魔術王国の悲劇である。ただ、隣のヨーゼフはトゥルーが何を言っているのかよく分からなかった。
トゥルーは扉の正面に立つと、何か呪文のような言葉をつぶやいた。すると、扉が表面に付いた砂を落としながらゆっくりと開いた。
「えっ、トゥルーさん。どうやって開けたんですか?」
「えーとだな。ここはキュベレー教の昔の神殿じゃなくて、古代の魔術王国の施設だったってことだ」
「?」
「『神』に滅ぼされた古代の魔術王国の王の名が刻まれていたからな。以前、その悲劇を研究していたから、その時代によく使われていた扉を開ける呪文を古代語で唱えたのさ。確証はなかったがね」
「トゥルーさん、凄いですね。さぁ入りましょう!」
「分かっているとは思うが、この中は『神』を魔術でほふろうとした古代王国の施設だ。とんでもない化け物が待ち構えているかも知れんぞ」
「……私はしんがりを務めましょうか」
さっきまで勢いの良かったヨーゼフの声が小さくなり、心配そうにトゥルーの顔を見る。その口元が固くこわばっているようだ。
「そうしよう。頼りにしてるぞ!」
「ハイ!」
トゥルーはヨーゼフを励ましながら施設の扉をくぐった。研究者として自分の知識が役立ったことは嬉しいが、その自分の知識が『ここは危険!今すぐ撤退すべし』と言ってくる。昔の自分であれば間違いなくここから逃げ出していたが、今は守りたいものが出来てしまったため、そうもいかなくなっていた。
「……まだ死にたくはないんだがなぁ」
「えっ、何か言いました?」
「ただのひとり言だよ。それより周りを警戒してくれよ」
「もちろんです。でもこの階段、どこまで続くんだろう」
何もない綺麗な石の階段を下り続けると、そこに巨大な扉が現れた。扉の上部には入口の扉と同じく、古代語で『神に等しき偉大なる王ヴァルターのために』と刻まれている銘板があった。おそらくは入口と同じ呪文で開くだろう。そしてこの扉の先が施設の核心部分。
「扉が開いた瞬間に極大呪文を叩き込んで撤退する……それでけりがつきそうなら、それも一つの手か。古代魔術王国の遺産は惜しいが、仕方ない」
「極大呪文とは、白の塔を壊滅させたあの呪文を使うんですか?」
(壊滅はしてなかったんじゃ……まぁ似たようなもんか)
「それが一番安全で手っ取り早いからな。そこにドゥルガーが居れば言うことなしって感じかな。扉を開ける前に防御呪文。物理と魔術、両方かけておくから大丈夫だとは思うが、不意打ちには気を付けるように」
ヨーゼフに警戒態勢をとるよう指示した後、扉を開ける呪文を唱えた。ゆっくりと開いた扉から現れたものに、トゥルーは――先ほどまでの自分の甘さを、心の底から悔いることになる。




