第三十九章:大きな収穫
見てくれている方々へ
最終章までの目途がつきましたので再開いたします。ここから最終章までは毎日投稿する予定です。
よろしくお願いいたします。
トゥルーは山里の自分の家でのんびりしていた。教えていた子供たちもそれぞれの家に帰り、昼飯も食べ終わったので、机でゆっくりと本を読んでいた。
窓からの日差しが強く、うっかり昼寝をしてしまいそうな天気であった。最近はナオがお茶の淹れ方を覚え、美味しいお茶が飲める幸せなひと時であった。
「ピーーー!ピーーー!ピーーー!」
突然、甲高い呼び出し音が鳴り響いた。
「何だ何だ?あー、白の塔からの呼び出し?……面倒事でなければよいんだがなぁ……」
居間に飾られている水晶玉は、ただの飾りではなく、非常用の連絡装置である。ここにかけてくるのは王宮か白の塔なので、面倒事なのはほぼ確実。
トゥルーは残りのお茶を素早く胃に流し込むと、足取り重く水晶玉に近づき、おもむろに手をかざした。
「トゥルーさん、大変です!すぐに来てください!」
水晶玉からびっくりするほど騒々しい大声が聞こえてきた。どこかで聞いたような声である。
「ヨーゼフくんか。白の塔での反乱鎮圧以来だったかな」
「その際は色々と……違うんです。今一大事で!」
「少し落ち着こうか。大変なことが起きているというのは分かったから、落ち着いて説明してくれ」
それからトゥルーは現在ローテンブルクで起きていること。ロンベルク伯がなすすべなく逃走中であることを知らされた。
「そんなに強い奴が?強いっていうか……それは本当の話なのか?呪文が効かない剣が効かないって、それは人間なのか?」
「見た目は高貴な感じの騎士だったそうです。ただ目が赤く、全身から黒いオーラを吹き出していて、とても怪しい雰囲気だったと」
「(う〜ん、人間じゃないね。それ)分かった。すぐ行く」
「ナオさん、何か面倒事が起きたみたいで、ちょっと白の塔に行ってきます」
「また面倒事ですか。ようやく落ち着いてお茶が飲めるようになったばかりなのに。大変ですね。後で温かいものをお持ちしますから」
「えっ、あぁ、ありがとうございます」
“後で”というのが、ちょっと気になったが、そこは気にしないことにして白の塔へと向かった。
「あっトゥルーさん、ありがとうございます!」
「ヨーゼフくん、挨拶は後でいい。把握している内容を教えてくれ」
トゥルーに促され、ヨーゼフがローテンブルクの惨状を事細かに説明する。ただ説明を聞く限り、誰が行こうがどうしようもないように聞こえる。
第一、呪文が効かないのであれば、魔術師にできることなど何もないだろう。ただ一点救いがあるとすれば、その騎士は騎士らしく剣で戦いをしており、呪文の類は一切使っていない事。よって移動も徒歩であり、その歩みは遅いという事だろう。
(大雑把な推理になるが、その騎士は元人間で凄腕の剣士であり、今は人間を辞めている。そして発動済の呪文でさえ無効化するという強力な結界に守られているので、本人も呪文が使えない。といったところか。一番分からないのは、その目的だな)
「現地に行ってみる。ロンベルク伯のことも気になるし」
「では、お供します」
「……えっ、来るの?」
「もちろんです。心配ですから!」
「君たしか、姿を消したりはできなかったよね」
「はい。でも火炎呪文は得意ですよ!」
(それ、たぶん役に立たない……)
「今回、ヨーゼフくんはここに――」
「頑張ります!役に立ってみせます!」
ヨーゼフの熱意に圧倒されたトゥルーはヨーゼフの同行を許可したが、それは最初からお荷物をかかえる事となった。同行する以上、出現場所や移動速度に差が出ると面倒なので、必要な各種呪文はすべてトゥルー任せになっていた。
ローテンブルクに跳んだトゥルーたちは、あの騎士を上空から探した。すると騎士は見えないが、人々の逃げ惑う様子が見えたので、すぐにそこに向かって飛んだ。
「いましたね。なんか普通の騎士に見えますが、どうしましょう?」
ヨーゼフがトゥルーにどう対応するか聞いてきたが、ヨーゼフは得意の爆裂呪文を使う機会をうかがっているようだった。たしか前回の活躍が評価されて二段階昇格して部下も結構居たはずであったが、とりあえず一発撃ってやろうという性格は変わっていないようであった。
「ちょっと待ってくれ。まずは話し合いができるかやってみる。だめそうなら撃ってもいいが、そこは慎重に頼む」
「分かりました。任せといてください!」
ヨーゼフが自信満々に答えたが、彼の性格上あまり信用はできないだろう。まぁ高威力呪文の直撃を受けてどうなるかは見ておきたいところではある。その前に目的とか正体とかを話してくれればありがたいのだが。
トゥルーは地上に降りると透明化を解いて姿を現し、少し離れた所から騎士に話しかけた。
「そこの騎士。話がある。私はトゥルー。魔術師だ。お前は誰だ!なぜこんな殺戮を行う。目的は何だ!」
その騎士は一瞬歩みを緩めると、腰の剣に手をかけ腰を落とした。
「まずい!」
トゥルーが異変に気付くと同時に騎士が動いた。神速の縮地。トゥルーとの距離が一瞬で縮まる。切られたらただでは済まない。トゥルーは上空に逃げようとしたが、タイミング的には間に合いそうになかった。
「紅焔爆裂(プロミネンス・エクスプロージョン!)」
トゥルーが上空に逃げる。そのタイミングで、トゥルーの背後から騎士に向かって強力な爆裂呪文が放たれた。姿が見えないヨーゼフからの不意打ちにも関わらず、その呪文は騎士によって真っ二つに切られた。が、切られた瞬間に大爆発を起こした。
それでも騎士の突進は止まらなかったが、トゥルーは既に騎士の剣が届かない上空に移動していた。正確には、自分の意思での移動ではなく爆風で吹き飛ばされた感じだ。
「トゥルーさん!大丈夫ですか!」
「だっ大丈夫だ。もう少し距離があったらありがたかったかな」
トゥルーは自身の防御結界によって大した傷は受けてないが、爆風で吹き飛ばされた経験は初めてなので体裁を保つのに必死であった。
「収穫は無かったみたいですね」
「そうでもないさ。ただ今ここでやれる事はなさそうなんで、一旦分室に寄ってから白の塔に戻ろうか」
上空から騎士を見ると、既にこちらに興味がないのか、元のように歩き出していた。この先は白の塔の分室。
足止めは事実上不可能だ。トゥルーたちは急ぎ白の塔の分室へと向かった。




