第三十八章:騎士モードレッド
神聖幽鬼ドゥルガーはその本をぞんざいにランスロットに手渡すと、手で付いてこいと合図をしながら部屋を出た。
そして大部屋をしばらく歩くと、一つの機械の前で立ち止まった。それは円筒形で前面がガラスのように透明になっている機械で、薄明りで中が良く見えないが、かすかに人のようなものが見えた。ドゥルガーがその円筒形の機械の前にあるテーブルの上に手をかざすと、文字盤のようなものが浮かび上がった。
ドゥルガーがその文字盤の何ヵ所かを軽く触ると、その機械の内側に明かりが灯った。やはり中に立っていたのは人であった。その正面のガラスのようなものが左右に開くと、先ほどと同じように中から人が出てきたかと思うと、ドゥルガーの前にひざまずいた。
胸に紋章を刻んだ白銀の金属鎧をまとった男。手にしている大剣は一流の業物らしく赤く輝いていた。その姿はまるで偉大な王の前にひざまずく勇者のようであった。
しかし、よく目を凝らせば、それはもはや“人”とは呼べない存在であった。人であったものと異界の何者かを融合させた屍。それを何らかの力で動かしているようであった。
「偉大なる騎士モードレッドよ。今から余が主人だ。大義のために働いてもらうぞ」
ドゥルガーはモードレッドを配下に加えると、再び歩き出した。そして大部屋をしばらく歩くと、先ほどと同じような円筒形の機械の前で立ち止まった。薄明りで中は良く見えないが、人のようなものが見える。その機械の前にあるテーブルの上に手をかざし、浮かび上がった文字盤を軽く触る。
その機械に明かりが灯り、その正面のガラスのようなものが左右に開くと、先ほどと同じように中から人が出てきてドゥルガーの前にひざまずいた。
胸に紋章を付けた高貴な革鎧をまとった男。持っている大きな弓は一流の業物らしく白く輝いていた。その姿はまるで偉大な王の前にひざまずく勇者のようであった。
ただやはり残念ながら、よく見るとそれは人ではなかった。人であったものと異界の何者かを融合させた動く屍。それを何らかの力で動かしているようであった。
「偉大なる騎士トリスタンよ。今から余が主人だ。大義のために働いてもらうぞ」
三人の騎士を配下に加えたドゥルガーは奥の部屋に戻り、椅子に深く腰掛け、ひざまずく三人の騎士たちを見て悦に入っていった。
「ふっ、ふふ。どうしてくれよう。まだまだ手駒はある……まずは」
商業都市ローテンブルクはガルーダ帝国による反乱を見事に押さえ込み、キュベレー神の攻撃も受けなかったことから、戦後の好景気を享受していた。
街は活気にあふれ、若干浮き立っているようにも見える。しかし慎重で聡明なロンベルク伯はそんな状況であっても冷静に街の守りを固めていた。
しかしその賞賛すべき行動も、一人の騎士によって蹂躙されようとしていた。その騎士は正門から堂々と歩いて入城してきた。その全身から吹き出す黒いオーラとただならぬ雰囲気に気圧されていた門兵が我に返り、その男を戦斧で止めようとしたが、男に近づくや否や目にも留まらぬ動きで一刀のもとに斬り伏せられていた。鎧ごと袈裟懸けに真っ二つになった上半身がずり落ちる。
それを見ていた他の門兵は恐怖で一旦引いた後、大慌てで詰所に戻り、槍や盾を装備し直してからその騎士に対峙した。さらに後方の者は石弓まで持ち出して攻撃したが、構えた瞬間槍は折られ盾は切り裂かれ、放った矢はすべて叩き落とされた。そしてここまでの間、騎士の剣筋を見られた者はいない。つまり全く戦いになっていなかった。そして足止めにもならず死んでいく門兵には全く目もくれず、騎士は盟主ロンベルク伯の屋敷の方に向かっていった。
「ロンベルク様、火急の件につき失礼します。正体不明の騎士が門兵たちを切り伏せながら、この屋敷に向かってきております」
「……騎士?反乱か、敵の数は?」
「詳細は分かりません。数ですが……1人です」
「1人?街の門には数十人の門兵がいたはずだが」
「それが……直接迎え撃った者たちは全員……」
「単騎で数十人を?大規模な魔術ではないのか?」
「はい。見たこともない恐ろしい剣技でした。今、屋敷の方々が戦っている頃かと」
「屋敷にいる騎士は腕利きだが……魔術師もいるから連携すれば……それにしても一体何者なんだ」
ロンベルクが考えを巡らせていた時、第二報が入ってくる。
「ロンベルク様、屋敷の前で戦闘です」
「状況は!」
「騎士の方々が奮闘しておりますが、残念ながら足止めも出来ては……」
「魔術師たちがいたはずだ。魔術師たちはどうした?」
「それが、最初は男を魔法で攻撃していたのです。それが何か理由は分からないのですが、まったく効かないようでして。今は味方の補助に回っておられます」
「呪文が……効かない?」
「何が目的かは分かりませんが、ここも危ないかと。どうか裏門の方へ」
ロンベルクは伝令と従者にせかされるように館の裏門へ向かった。
「お前は誰だ!何が目的だ!」
騎士たちが男を必死に食い止めようとしているが、剣は軽くかわされ、必死に受け止めた盾はボロボロで今にも壊れそうである。ここにいる騎士たちは剣も楯も肉体も一級品。しかも呪文で強化されている状態であったが、勝負になってはいなかった。苦し紛れに会話を試みるが、こちらの言葉が聞こえていないのか、理解できないのか、反応は無かった。無言で剣を振るい、一振りする度に騎士たちの鎧が切り裂かれ、血しぶきが舞っていた。
「魔法砲(マジック・キャノン!)」
「氷槍(アイシクル・ランス!)」
「火球(ファイア・ボール!)」
魔術師たちが男に向かって呪文を浴びせ続けているが、まったく効いているようには見えなかった。よく見ると呪文は男に当たる前にかき消されているようであった。剣も矢も効かない。魔法も届かない。近づけば一刀両断。そこには絶望しかなかった。
「ロンベルク伯、無事に退去。ロンベルク伯、無事に退去。無事です!」
伝令の声が屋敷の玄関に響き渡った。絶望しかなかった戦場に安堵が広がる。
「全員撤退!撤退だ!動けぬ者は隠れていろ。撤退だ!」
指揮官の悲痛な声が響き渡る。戦うことが本職の騎士たちが、戦わずに逃げろという命令を喜んで受け入れる異常事態。
しかし、剣も呪文も通じないのであれば仕方がなかった。
遠くで様子を伺うだけの兵以外は、無人の館となったロンベルクの屋敷をその男が歩いている。持っている赤い剣は血肉を食って、さらに不気味に赤く輝いていた。
男は階段を上がり、ロンベルクの執務室の扉の前まで行くと、扉を剣で十字に切り裂いた。もちろん中には誰も居なかった。
男は一階に降りると、辺りを見渡す。そこで兵たちの気配を感じ取ったのか、館の裏門の方へ歩き出した。
ロンベルクは混乱していた。あんな化け物は見たことも聞いたこともない。自分がどうしたら良いかも分からない。とにかく今は逃げ出すことしかできなかった。
そして走って行く先は国軍の駐屯地ではなく、白の塔の分室であった。あの化け物に対し、国軍では対応できないという判断である。もちろん白の塔の分室でも対応できないことは分かっているが、そこから大魔導を呼んで貰えれば何とか。という目論見であった。
ロンベルクは息も絶え絶えのまま、白の塔の分室へと駆け込んだ。その痛々しく、威厳を欠いた姿に、白の塔の魔術師たちは思わず言葉を失った。
見てくれている方々へ
前回お知らせ致しました通り、本章をもってしばらくお休みを頂きます。
よろしくお願いいたします。




