第三十七章:古代遺跡
ドゥルガーはもはや人ではなかった。異界からキュベレー神を召喚し、信者たちの生命エネルギーを吸い上げてヴィーゼ王国を攻撃したあの時、彼だけは魔方陣に生命エネルギーを吸い取られておらず、逆に魔方陣から膨大なエネルギーを注ぎ込まれていた。
そしてトゥルーによって魔方陣が破壊された時、その衝撃と高熱で肉体は滅びたが、膨大なエネルギーを吸収したその精神だけは滅ばなかった。偽りの神に対する信仰心を糧として生まれた高位の存在――神聖幽鬼として復活したのだ。
皇帝アマドに話を通したドゥルガーであったが、もはやガルーダ帝国にもその皇位にも興味はなかった。その胸にあるのは大魔道トゥルーと国王ルートヴィヒへの恨みである。その二人を葬り去り、キュベレー教を復活させることこそが彼の望みであった。
昔と違い、神の力あふれる今のこの体であれば単身ヴィーゼ王国に喧嘩を売っても負ける気はしない。が、あの得体が知れない大魔道とは直接やり合いたくはない。
確証があるわけではないが、人を越えた存在となった今の自分には時間は無限にある。ならば急ぐ必要はない。しかし人である奴らに天寿を全うさせる気はない。ここは安全な場所から嫌がらせを繰り返し、使い捨ての配下を何度も送り込んで国を疲弊させればよい。そうして隙をみて大魔道トゥルーと国王ルートヴィヒを地獄に落とす。その後、皇帝アマドにヴィーゼ王国を滅ぼさせ、キュベレー教を元のように、いや今まで以上に布教させ、国教とする。さらには大陸中に布教させ、すべての人々を信者とし、自分がその頂点として永遠に君臨する。今の自分であればそれができる。
ドゥルガーは壮大な野望を抱きながら、キュベレー教の聖地といわれる場所に向かった。
そこは帝都ヴァイクンタから遠く離れた砂漠の、さらにその奥地にある大きな岩山。そこは神代の時代に女神キュベレーが地上に降臨した聖なる山と伝えられている場所。その昔、キュベレー教の神殿があったとされている場所である。しかし、その具体的な場所は一般信者には秘匿されており、現実に存在するのか疑う者も多い場所でもある。
その岩山の頂には小さな遺跡があった。石の柱はほとんど崩れ去っており、半ば岩山に同化していた。もちろん壁や屋根などは影も形も残っていない。風化が著しいのであと千年もすれば、ここが古代の遺跡だと気付く者も居なくなるだろう。
その遺跡の中央付近には大きく窪んだ場所があり、崩れかけた石の階段を下ると、岩や砂で分かりづらいが金属のような光沢を残す扉が現れた。ドゥルガーはその扉の前に立ち、何か呪文のような言葉をつぶやくと、扉が訪問者を歓迎するかのように表面に付いた砂を落としながらゆっくりと開いた。
ドゥルガーは、あたりまえのようにその中に入っていく。
その先は、礼拝所でも執務室でもない。一般信者には決して見せられぬ禁忌の場所――人の手で“神の奇跡”を作り出すための施設であった。
石段をさらに深く降りた先に巨大な扉が現れ、それが見る者を圧倒させていた。扉の上部には古代語で『神に等しき偉大なる王ヴァルターのために』と刻まれている。
ドゥルガーが再び呪文を唱えると、扉は主を迎えるかのように厳かに開いた。
その奥は、帝都の宮殿をも超えるほどの広さの薄暗い空間だった。どこからともなく灯りがともり、現代には存在しない魔術的な機械が無数に並んでいるのが見える。それらはみなスイッチを入れれば今にも動き出しそうなほど保存状態は良かった。
ドゥルガーは迷いなく奥へ進み、黒い板に手をかざした。文字が淡く光り、扉が開く。
そこは落ち着いた応接間のような部屋であった。ただ、本棚や椅子の造りなど部分部分に怪しい装飾が施されており、不思議な違和感を醸し出していた。
ドゥルガーは椅子に座り、机のボタンを押した。すると奥の壁が光り、ショーウィンドウのような空間に人影が浮かび上がった。ただ強い逆光で顔は見えなかった。
正面のガラスが左右に開くと、中から一人の男が現れ、ドゥルガーの前に跪いた。
胸に紋章を刻んだ高貴な金属鎧。持っている大剣は一流の業物らしく漆黒の刀身が怪しく光っている。その姿はまるで王の前にひざまずく勇者のようであった。
ただ残念ながら、それは人ではなかった。人であったものと異界の何者かを融合させた死体。それを何らかの力で動かしている“造られた騎士”であった。
「偉大なる騎士ランスロットよ。今より余が主人だ。大義のために働いてもらうぞ」
「……」
「喋れぬか……まぁよい。これから力ある者たちを目覚めさせねばならぬ。分かっておるな」
その言葉を聞いた騎士ランスロットはゆっくりと立ち上がると本棚の方に向かい、そこで分厚い一冊の本を取り出すと、それをドゥルガーに渡した。
それを受け取ったドゥルガーはしばらく本の内容を確認すると、突然立ち上がった。
「いける……いけるぞ!これであれば」
その声は部屋中に響いたが、誰も聞くものはいなかった。
ただ、片膝立ちで微動だにしない騎士ランスロットの口元が、わずかに緩んでいた。
見てくれている方々へ
多忙となってしまい、10万文字を超えたところでストックの方も切れてしまったため、
次の章をもちまして暫く休載いたします。
展開が早すぎる等のご指摘も頂きましたので、その辺りを含めまして、
1か月ほど執筆はお休みを頂きます。
もし、楽しみにしていた方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。
よろしくお願いいたします。




