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第三十四章:国王ルートヴィヒと皇帝アマド

 王は王宮にいた宰相ビスマルクを執務室に呼びつけた。ビスマルクはトゥルーとナオの姿を見て一瞬ぎょっとした表情を見せたが、すぐに王の方に向き直った。


「御用でしょうか?」


「うむ。先ほどの件、兵を殺さずに済むやも知れん」


「まだ続報は入ってきておりませぬが……まさかトゥルー殿か」


「そうだ。ガルーダ軍は動いておらん。次の攻撃ももうない」


「まさか!いくら大魔道殿とはいえ、ガルーダ全軍を退かせるなど……それではまるで古の神のような……」


「ビスマルク殿、さすがにそれは」


「ガルーダ全軍どころか、神をも撃ち滅ぼして来たらしいぞ」


「ルートヴィヒ様、さすがにそれは」


 話が大げさになりそうだったので、トゥルーは宰相ビスマルクにかいつまんで状況を説明した。それでもだいぶ驚かれたが、神様扱いよりは良さそうだ。その後、今後どうするかの本題に入った。


 まず、外交・内政の緊急の課題として、今回の件は明らかにガルーダ帝国からの宣戦布告なき侵略行為である為、まずガルーダ帝国に対する対応。および実行組織としてのキュベレー教に対する対応。さらに国内ガルーダ人やキュベレー教に対する対応を早急に決めなければならない。


 ただ、これを大臣たちはもとより、各地の有力諸侯を集めて会議を行っていては、年を越えても何も決まらないことは目に見えている。そこで王ルートヴィヒは王宮内のごく少数の高位関係者のみで一両日中には方針を決め、国内外に発表すると同時に即行動に移す。

 その後、正式な会議を開いて修正や後始末を行う。ということであった。正しい判断だと思われたので、トゥルーは頷き同意の意を示した。


 ここから先は政治の役目なのでトゥルーは帰ろうとしたが、王ルートヴィヒから止められた。


「なぜ帰ろうとする。重要な話はここからだぞ」


「えっ?先ほど、ごく少数の高位関係者のみと仰いませんでしたか?」


「トゥルーよ、何か勘違いしておらぬか。大魔道は伯爵に準ずる高位であり、今回もっとも功績を挙げた関係者は他ならぬお主だ。王の要請に背くわけにはいくまい」


(やられた!)


 トゥルーは先ほど自分が納得していた王の言葉を思い出し、自分の迂闊さと王族の狡猾さを思い知った。政は面倒なので、白の塔にいた時から避けてきたのだが、こんな国と国との重大案件に自分が口を出さなければならない日が来るとは思っていなかった。とても逃げられそうではないのでトゥルーは諦めて会議に参加することとした。


 まずは状況整理。ガルーダ帝国の状況として、キュベレー教は前回の件で壊滅的な状態。ただしガルーダ帝国の正規軍はほぼ無傷。この状況でガルーダ帝国に攻め入った場合、戦力で勝るうえ、宣戦布告なき侵略行為を受けたという大義名分もこちらにあるので、必ず勝利する。

 ただしその場合、ガルーダ帝国軍の半数――三万ほど――に加え、ガルーダ帝国の民も数十万規模で犠牲が出るだろう。ヴィーゼ王国軍も1万ほどは犠牲になるだろう。戦後の荒廃したガルーダ帝国の扱いも考えなければならない。植民地として二度と立ち上がれないようにするか、ある程度の自治を認める保護国とするか、完全にヴィーゼ王国の一部として併合し復興させるか。単に責任者の処罰と賠償金で済ます方法もある。


 また、こちらの圧倒的な戦力を見せつけることで、戦争自体を回避し、こちらの示す降伏条件に従わせる方法もある。


 次にヴィーゼ王国内においては、キュベレー教を国を破壊した邪教とし、すべての活動を違法としなければならない。ガルーダ人に関しては、全員強制帰国させるか、そこに例外を設けるか。あるいは名簿登録のうえ出入国の厳格化や職業や居住地の制限を課して国内居住を認めるか。


 国益だけを考えたとしても、考えられる方法は山ほどある。そしてどの方法を採ったとしても、実行は難しく、弊害も多い。


 最も急がねばならぬことは、ガルーダ帝国にヴィーゼ王国内への宣戦布告なき攻撃に対して、その責任を認めさせること。

 おそらくただ責任を認めろと言っても知らぬ存ぜぬではぐらかされるか、意味不明な逆切れをされるかなので、この場合軍事的圧力をかけるしかない。そのうえでガルーダ帝国内での調査で証拠固め。その後責任者の処罰だ。


 まずは大急ぎで軍を国境に集めなくてはならないが、これは王の勅命という形で、この会議を行う前に大将エルヴィン伯に命令していた。

 しかし、五万以上の兵が国境付近への集結するにはおそらく一週間以上かかる。これでは遅いのでローテンブルクのロンベルク伯に命令し、周辺のすべての軍をかき集め、主力に先行する形で三日以内に国境近くに集結してもらうことになっていた。


 ロンベルク伯の軍が国境に集結する前日、王国はガルーダ帝国へ書簡を送った。トゥルーから得た情報をもとに説明を求め、皇帝アマドに責任を問う内容である。もちろんその書簡には、真摯な回答が無かった場合は軍事的衝突が起きることも記載されていた。さらに書簡の最後には『女神キュベレーを滅ぼしたあの大魔道様がお怒りだ。国ごと地上から消されないような回答をお勧めする』と記載されていた。もちろん皇帝アマドをビビらせるために国王ルートヴィヒが含み笑いを抑えながら書き加えた一文である。




 皇帝アマドは玉座で頭を抱えていた。十年来の計画が失敗しヴィーゼ王国から手を引いたにも関わらず、女神キュベレーの生まれ変わりと称えられていた教皇ドゥルガーが自分たちならやれると主張し、いざやらせてみたら巨大な女神を復活させてヴィーゼ王国を攻撃したあげく、大魔道に女神ごと葬り去られてしまったのだ。とんでもない大失態である。


 しかも教団の指導者たちは皆死んでるか意識不明で、状況を説明できるものが誰もおらず、責任はすべて皇帝である自分にかかってきた。


 主力であるガルーダ帝国軍は確かに無事だが、ヴィーゼ王国軍が国境に向かって集結を開始しているという報告が届いており、どうやらルートヴィヒは本気のようである。いざ戦争となれば帝国軍の勝ち目は薄い。


 それだけでもどうしようもない上、女神を葬り去ったあの大魔道が、ガルーダ帝国を国ごと地上から消すとまで言っているらしい。


 泣きそうである。


 ヴィーゼ王国から書簡が届いたと聞いた時は、なんやかんやと言いがかりを付けたり逆切れしたりしてことをうやむやにしよう。と考えていたが、どうやらそれは難しいようだ。


 実行者である教皇ドゥルガーはもう居ない。ガルーダ帝国軍を率いる将軍カーマは命令があればやると言ってはいるが、やっても国が疲弊するだけだろう。その後のことを考えると、とても得策とは思えない。


 皇帝アマドはどうやって七代続いた皇位を放棄せずに済むかを考えた。とにかく一生懸命考えた。ここから逃げても悲惨な未来しか思い浮かべない。となるとすべての責任をキュベレー教に押し付けた上で相手の言う賠償金を支払い、不利な条約をも飲んで許してもらう。まずはそう考えた。

 

 最低でも保護国として自治を認めてもらい、その上で自らは“皇帝”の座に留まりたい。軍事力を持っている今であれば色々と交渉の余地があり、何とかなりそうであったが、あの大魔道の機嫌を取らなければ、それも絵にかいた餅。皇帝アマドは大魔道には金も名誉も女も出せるものはすべて出して大魔道の歓心を買おうと考えていた。

 ただ、皇帝アマドは知らなかった。今のトゥルーには、金も名誉も女も、何の意味も持たないということを。


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