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第三十章:帝都ヴァイクンタ

 馬車に同乗できたおかげで、帝都ヴァイクンタまでは一週間足らずの道のりとなった。商隊の者たちは交渉を行う商隊長と一部の者たちを除いて途中の街では暇になるが、交渉が成立すると荷物の積み下ろしなどの作業が入るので遠出はできず、皆宿の近くをうろついていた。


 トゥルーは帝都に着く間にもある程度はキュベレー教の教皇と上位者たちの情報を仕入れておきたいので、途中の町では教会に立ち寄ってお布施をしながらキュベレー教の現在の組織の状況について情報を集めていた。


「なるほど、捲土重来。教皇のドゥルガー様は考えておられるのですね。ヴィーゼに住むキュベレー教の者たちも安心するでしょう」


「まぁ私も細かいことは知らないのですが、地区の司教様も帝都に行かれるとのことなので、その時は近いと思いますよ」


「前回は我々も何が何だか分からないうちに指導者の方々が捕まって、我々への迫害が始まって大変でした。今は各地で反抗作戦があって私も参加しましたが、それだけじゃどうにも……」


「もう失望はさせませんよ。我らが神キュベレーはすべてを見通されています。これも神が我らに与えた試練です。頑張りましょう」


 トゥルーは指導者と意気投合し、ちょうどお昼時ということで近くの食堂で一緒に食事を取ろうと外に出た。その食堂に入ろうとした時、遠くで騒ぎが起きているのが見て取れた。


「お前らヴィーゼ国から来たんだろ?俺たちはお前らのせいで大変なんだ。ちょっともらっていくぞ」


「ちょっと止めてください。そんなことされたら商売あがったりだ」


「なんだ?俺たちに逆らうのか?誰のおかげでこの国で商売ができると思ってるんだ?」


「戦争になったら手に入らなくなるものを、ガルーダ人に頼まれてこうして運んでるんだ。ここにはガルーダ人もいるんだぞ。仲間じゃないのか?」


「どうせ偽名使ってんだろ。それにあっちの国に行ったんなら、そいつは裏切り者だな。俺たちが苦労してんのに、あっちでのほほんとしてたんだろ。仲間じゃねぇよ」


 商隊はならず者に取り囲まれ、因縁を付けられているようだ。荷馬車の中にまで乗り込まれ、今にも強奪されそうな雰囲気になっていた。


 それはトゥルーが同乗させてもらっていた商隊だった。急いで駆け付けたが、こんな道の往来で呪文を唱えたら、今まで目立たないようにしていたことが台無しになってしまう。

 トゥルーがどう声をかけようか迷っていると、先ほどの教会の指導者が大声を上げた。


「こらー!お前たち何をやっとる!せっかく品物を運んでもらっているのに、この罰当たりめ!」


「ちっ、行こうぜ行こうぜ」


 ならず者もキュベレー教の指導者には逆らえないようで、大声で怒られただけで逃げていってしまった。


「最近はああいった輩が増えてるんですよ。お恥ずかしい話で」


「いえ、お陰で助かりました。お昼はご馳走させてください」


 指導者にお礼を言うと、当事者の商隊の者も集まって口々に礼を言う。指導者は大したことではないと謙遜していたが、できた人だ。こういう人ばかりであれば世の中平和だろうに。トゥルーはそう思いながら食事を振る舞った。


 その後、指導者と別れ商隊の宿に戻ると商隊の皆から口々に礼と賞賛の声をかけられた。


「いやーお陰で助かったよ。あれはキュベレー教の指導者かい?」


「そうです。教会の方で色々とお話を伺って、食事に行く所だったんです。本当に良い人で」


「じゃあ偶然だったんだ。お陰で積荷を盗られずに済んだよ。盗られていたら大変なことになる所だった。いや本当にありがとう」


 思いがけず商隊の者たちに信頼と感謝の念を頂くこととなった。その為に指導者と仲良くなったわけではないが、まぁ同行する者たちに信頼されるというのは悪いことではない。


 お陰様で旅は順調に進み、一週間もかからずに帝都ヴァイクンタに着いた。


 帝都ヴァイクンタは、ガルーダ帝国で最も大きく最も栄華な街である。東西の文化が入り混じっており、その独特な雰囲気は人々を圧倒させる。ただ文明の程度はあまり高くなく、豪華な建物の前の道が未舗装であったり、上下水道が行き届いていない地区があるなど、豪華さと不衛生さが同居する街並みは、帝国の持つ矛盾を象徴していた。

 当然、孤児やならず者といった者たちも多く、治安は悪い。ただ皇帝アマドの強権政治のお陰で、上の者たちに逆らう者は少数である。


 ここでトゥルーは商隊と別れ、自分の目的を果たそうとキュベレー教の大聖堂に向かった。

 旅の途中で得られた情報によれば、潰さなければならない頭、キュベレー教の教皇ドゥルガーはこの大聖堂の裏にある奥の院にいるはず。そしてその奥の院には、今国内各地の司教が集まってきているという話であった。近々何か重要な会議が開かれるはずである。


 その大聖堂を間近で見ると巨大で絢爛豪華。正面には女神キュベレーの黄金像が目を引く。だが、それ以上に建物全体を覆う七色に輝く光のドーム、巨大な結界が目に付き、それは大聖堂のなかでは下手なことができないことを意味していた。


 トゥルーは一般信者に紛れて大聖堂の中に入ってはみたが、一般信者は中央の広間に入れるだけで、端の廊下にさえ入れない。これでは奥の院には行けそうにない。肩を落としながら大聖堂を出る。


 潜入方法が見つからずウロウロしていると、地方の司教が乗っていると思われる豪華な馬車が大聖堂横の門を通過していった。その馬車をよく見ると、その馬車の下に少女アンナが隠れているのが見えた。


 アンナはトゥルーのために教皇の動向を探ろうとしたのだ。馬車はアンナを乗せたまま奥の間の方に消えていった。

 

 アンナは馬車が停まり人が降りると、馬車の下から辺りを伺う。守衛のような男が二人いたが馬車の方は見ていない。隙を見て建物の中に入る。建物の中は人気がなくガランとしていた。どこかの部屋の中に人はいると思われたが、そのまま先に進み一番奥の扉を少し開けて中を覗く。

 そこでアンナは不思議で不気味で巨大な魔法陣を目にしたが、その直後、後ろから肩を叩かれ、守衛に捕まってしまった。その瞬間、それは少女の小さな冒険ではなく、生命の危機へと変わってしまった。


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