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第二十八章:キュベレー教の力

 教皇ドゥルガーは焦っていた。皇帝の前で大見えを切った以上、失敗は許されない。将軍カーマを差し置いてことを進める以上、軍の協力は得られない。あくまでキュベレー教とその信徒、民衆の力でことを成し遂げる必要がある。最後の手段として女神さまの力をお借りすることもできるが、教皇としてそれは避けたかった。


 作戦が上手く行き、勝ち筋が見えた戦いになれば皇帝アマドの命のもと正規軍を動かせるだろうが、それはそこまで持っていった後の話である。キュベレー教の被害も少なくない現状では、組織の立て直しこそ急務である。


 まずは直接反乱に加わり組織が崩壊したキュベレー教の拠点の復興。これはヴィーゼ王国から追放された指導者たちを赴任先と名前を変えて送り返すことで補充し、半ば地下に潜るかたちで組織を再興させる。


 また信者と金、両方とも不足しているので、まず信者を増やすため正体を隠して個人に集団で近づき、外部の情報を遮断して入信させ、入信させた信者の恐怖や虚栄心を操ってお布施や奉仕として教団に挺身させる。信者たちは次第に自らの意思を失い、教団の歯車と化していく。その信者を使い同じ手法で信者を増やしていき、次々と金を巻き上げると同時に教団の歯車として活動に従事させる。


 そうして得た金と信者を使い、その地域の貴族や役人などの有力者に取り入り、数々の利権を手に入れると同時に、強引な布教活動や違法行為も黙認してもらう。また、敵対する個人・団体はどんな手を使っても排除する。


 基本的なやり口は今まで通り。ただお国の非常事態ということで、かなり強引にことを進めていた。


 今までであれば、それで良かった。何か問題になりそうになったら、誤解だ差別だと集団で騒げばだいたい何とかなった。


 しかし今回の反乱騒ぎが一般民衆にまで知れ渡った結果、今まで委縮して何も言って来なかった人々まで公然と異を唱えるようになり、ガルーダ人やキュベレー教への監視の目が厳しくなった。強引な勧誘や違法行為に対しても風当たりがきつくなり、集団で騒いでもなかなか思うようにはいかないことが多くなっていった。


 それでも強引な勧誘をやめるわけにはいかず、ヴィーゼ王国内での地元民との摩擦は、時を追うごとに深刻になっていった。


 ついにはしびれを切らせた国王ルートヴィヒがキュベレー教に対し信者名簿の提出や新規施設建築の禁止、布教に関する各種規制を始め、今まで取り締まられることのなかった偽名使用を禁止とする勅命が発せられたことで王国内で十万とも百万ともいわれる信者たちの反抗を招き、王国内はさながら内乱の様相を呈していった。


 彼らは各地で行政府や貴族の館、商館などを襲って占拠したり、火を放ったり、店の物を盗んだりとやりたい放題であった。

 数十人、数百人といった集団で襲撃するため各地の自警団の手には負えず、軍が出動すると素早く解散して一般市民に紛れ込むので、逃げ遅れた数人しか捕縛できず暴動を抑え込むのは難しかった。

 そこで首謀者と思われる各地のキュベレー教の指導者を捕縛していく方針に変えたところ、一時的には効果があったがキュベレー教の本部が新しい指導者を選出したり送り込んだりして各地の組織を維持するようになっていき、しばらくすると再び暴動が起こっていた。


 疑わしき者たちまでまとめて投獄しようにも、すでに牢獄は満員で裁判の日程すらめどが立たない状況であった。


 ガルーダ帝国軍との戦いではないため死傷者などはわずかであったが、治安の悪化は著しく、終わりの見えない戦いに王国民は疲弊していった。街には不安と憎悪が渦巻き、誰もが隣人を疑うようになった。


 この状況において、国王ルートヴィヒが頼ったのがトゥルーであった。国王ルートヴィヒはトゥルーを王宮の執務室に呼びつけ、大魔道への国王からの依頼という名目の勅命を発した。


「トゥルー大魔道よ、久しいな」


「国王様におかれましては、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます」


「そういうのはよい。トゥルーよ、この状況をどうみる?」


「かなりしてやられましたな。予想しなかったわけではありませんが、これほどとは」


「ん~、で、お前ならどう解決する?」


「まず、とても善良とはいえない輩を優遇させすぎましたな。友好貴族連盟とか和平市民連とか。やってる事は、将来に禍根を残す見せかけの善行だと分かっておりましたでしょうに」


「言うな。反省しておる。禍根を残したやつらは今は謹慎しておる。袖の下をもらっていたやつらは牢の中だ。余もこれほどヴィーゼ王国に仇なす輩がいようとは……今さらだがな」


「まぁそれだけでも、やらないよりかは。しかしそれだけでは……」


「ならば、どうする?トゥルー大魔道よ」


「末端だけを相手にしても疲弊するだけでしょう。頭を潰さぬことには、この騒ぎは収まらないでしょう」


「帝国内に赴いてもらうことになるな。キュベレー教の教皇ドゥルガーはキュベレー神の生まれ変わりと称えられ、神の言葉を伝える怖ろしい人物という話だ。余にできることがあれば言ってくれ」


「ありがたきお言葉。ですが路銀はこの称号をいただいた時に十分いただいておりますので」


「それで隣の美しいお嬢さん、お主の親戚の娘を預かっているとのことだが、まさか同行するわけではあるまいな」


「ご心配には及びません。トゥルー大魔道様が私を護っていただけますから」


「……そうか、お主たちがそう決めておるなら余からは何も言うまい」


 トゥルーはナオのその言葉が嬉しくないわけではなかったが、複雑な気持ちであった。国王ルートヴィヒとの話を終え、山里に戻ったトゥルーは、これから敵国ガルーダ帝国に渡り、キュベレー教のトップである教皇を潰す。かなりというか非常に困難な任務について色々と考えたが、今のところ作戦さえも思いつかなかった。

 ただ山里に籠もっていても状況は変わらないので、大きく一息ついて自らの心を落ち着かせた。


 その後、トゥルーは簡単に荷物をまとめると、山里を旅立った。この国の行く末を決める孤高の旅へ。その背には、王国の未来と人々の希望が重くのしかかっていた。


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