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第二十七章:ガルーダ帝国の憂鬱

 皇帝アマドは玉座で頭を抱えていた。その指は震え、爪が玉座の肘掛けを削っていた。本来であれば今ごろはヴィーゼ王国に勝利し、憎き国王ルートヴィヒの首をはね、奪い取った王宮の宝を愛でていたはずであった。最悪でも王国での残党狩りに手間取るくらいで、勝利自体は疑いようがなかったほど入念に練られた完璧な計画であった。


 実際、十年以上に渡るその計画、貴族、行政、ギルド、知識層から軍に至るまで、国家国民に影響力があるほとんどの組織にキュベレー教、ひいてはガルーダ帝国へのシンパを増やしていった。

 シンパを増やすために金も女も使い、敵対勢力への嫌がらせから詐欺、人さらいから暗殺まで何でもやった結果、王国内の防衛を一時的に麻痺させるほどの力を手に入れるに至り、今回の王国侵攻が実行された。


 それなのに実際は、ヴィーゼ王国に百か所以上作った反乱拠点のどこからも火の手が上がらず、連絡さえもなし。王国内の間者からの話をまとめると、国境近くに軍を集結させ反乱拠点に活動開始の指示を送る。その前に大魔道が現れ、すべての反乱拠点を潰してしまったとのこと。


 そのことを受け、皇帝アマドは国軍の最高責任者である将軍カーマと、キュベレー教の最高責任者である教皇ドゥルガーを皇帝執務室に呼び、重々しい会議を開いた。


「将軍カーマよ、その大魔道というのは何者だ?」


「突然現れた、古の英雄の生まれ変わりという話です」


「そいつが反乱拠点をすべて見つけ、すべて潰してまわったと?たった数日で?そんなバケモノが王国にいるという話は聞いてないぞ。我々を混乱させるためのデマではないのか?」


「私も最初はそう思ったのですが、巨大な古代魔法一発で白の塔を文字通り崩壊させ、さらには何百人の死んだ人間まで生き返らせたとか。大勢の人間が実際に目にしているので、これはもう間違いはないかと」


「そ奴は本当に人間なのか?まるで神ではないか。そんな奴がどこから?」


「皇帝、滅多なことを口にするものではございません」


「教皇ドゥルガーよ、そうであったな。神はキュベレーのみ。ではその者は?」


「間者からの情報によると、その者は白の塔の魔術師だったという話です」


「そんな奴が今まで秘匿されていたのか?……将軍カーマよ、すぐに調べてこい。今すぐにだ」


 将軍カーマもキュベレー教の教皇ドゥルガーも皇帝と同じ心情であった。そんな人間がいるはずがない。将軍カーマは心を揺らしながらも配下に大魔道調査の指示をだした。


 しかし調査は思うようにはいかなかった。王国内の信頼できる手駒は、ほとんどが行方不明か投獄されており、組織立っての調査ができない状態に陥っていたのだ。仕方なく王国内のガルーダ人コミュニティに調査命令を出したが、素人が調査を行ったためにことごとく失敗。今回の反乱の件も合わせて投獄、強制送還、コミュニティの崩壊を招いただけであった。


 将軍カーマは、ガルーダ人は見た目はヴィーゼ人と変わらず、長期に渡って滞在している者が偽名を使った場合はヴィーゼ人と見分けることはほぼ不可能で、例え調査に失敗しても排斥などは難しいと考えていた。


 しかし実際はすぐに素性が見破られ、協力していたコミュニティごと排斥させられた。確かにガルーダ人の見た目はヴィーゼ人と変わらない。しかしその言動や雰囲気、匂いが異なるので見る人が見ればすぐに分かってしまうのだ。

 そこまでして分かったことといえば、大魔王と呼ばれているらしい。スルーという名前らしい。白の塔をくびになったらしい。年は60代らしい。スイーツが好きらしい。愛人を連れまわしているらしい。大魔法で戦艦を撃沈させたらしい。貴族を目の敵にしているらしい。といった噂話にしても酷いものであった。

 かなり躊躇したが、将軍カーマはその調査結果を皇帝アマドに報告する。


「大魔王と呼ばれている白の塔をクビになった、貴族嫌いでスイーツ好きのスルーというじじいが、愛人連れまわして戦艦を撃沈させたと?」


「いや、それはですね……情報の確度は低いと申しますか……」


「低すぎるだろう。これでは酒場の与太話と変わらぬではないか。カーマよ、自慢の諜報組織は何をやっているんだ?」


「申し訳ございません。今回の作戦でほとんど行方不明か投獄の憂き目にあっておりまして、王国内のガルーダ人たちに調査を命じたのですが……」


「で、出てきたのがこれか」


「申し訳ございません。もう少しお時間を頂ければ」


「もうよい。ここから多少まともになったとしても使えんことに変わりはない」


「……」


「もうやめじゃやめじゃ。勝ち筋がまったく見えぬわ。王国からは手を引く。お前たちは今後王国内での我が国の影響力低下を避けるように」


「皇帝、それは早計というもの。まだ諦めてはなりませぬ」


「ほう、ドゥルガーよ。お前に良案があると?」


「良案というわけではありませんが、今回投獄等の憂き目に遭っているのは将軍配下の者たち。我がキュベレー教の勢いは衰えておりません」

 

「何を言う。王国内で反乱を起こす予定だった信心深い教徒たちも投獄・送還されていると聞いておるぞ」


「それは一部。あくまで個人。キュベレー教は無傷です。まだまだ打つ手はあります」


「まぁよい。キュベレー神の生まれ変わりといわれるお主がそこまで言うのだ。やれるというならやってみるがよい」


「ありがたき。必ずや吉報をお持ちいたします」


 教皇ドゥルガーは皇帝にキュベレー教ならやれると大見えを切った。将軍カーマはそんなことできるものかと苦虫を噛み潰したような顔でドゥルガーをにらみつけるが、ドゥルガーは皇帝の許しが出たことで意欲を燃やしていた。そしてそれはヴィーゼ王国にさらなる災いを引き起こすことを意味していた。


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