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第二十六章:大魔道トゥルー

 王都での反逆者鎮圧劇から一週間。中小の反乱拠点もトゥルーたちの活躍によって鎮圧され、ヴィーゼ王国はひとときの平穏を取り戻していた。


 国境沿いに集結していたガルーダ帝国の軍は、王国内で一斉蜂起が起こらず連絡も途切れたので、勝ち筋がなくなり国境沿いから軍を引いた。


 軍事的な脅威がなくなった王国であったが、軍やギルド、白の塔の内部にまで帝国の魔の手が及んでいたため、人的な被害は甚大であった。捕縛された者は数千人に及び、特に組織の幹部やトップが反乱に加担していたような場合、その組織は人的な問題が解決するまで機能不全となった。

 ガルーダ帝国と直接つながっていた首謀者やその仲間は死罪になり、直接つながっていなくとも反乱を準備していた者たちはその役割に応じて罪を償うことになり、最低でも年単位で投獄されることとなった。


 問題なのが、具体的な証拠や証人はいないが、状況的に反乱を準備していたであろう者の処遇だ。調査に数千人が投入されたのだが、こういったハッキリしない者は数多く、一旦処分保留で釈放することになり、それは王国内に不穏の種を残してしまうこととなった。


 ガルーダ帝国への対応も問題となった。侵略戦争を企てる敵性国家なのは明らかだが、ガルーダ帝国はそれを認めず、証拠・証人を突き付けても知らぬ存ぜぬで開き直り、逆に王国を非難する始末。そこで国境警備隊や軍全体の強化は当然として、人の往来や貿易の制限から法の整備まで、対ガルーダ帝国の対策が次々にとられていった。


 また王国内のガルーダ人だが、集団でコミュニティを作って地元民と衝突したり、集団で役所や個人宅に押しかけて自分たちの要望を通したりしていたので、ヴィーゼ王国内での評判は悪い。しかし偽名を使用されるとヴィーゼ人と区別が難しいので、心理的に反ガルーダの運動が起こしにくい状況であった。


 しかし今回の戦争騒ぎで状況は一変。罪を犯したガルーダ人は投獄の後、財産を差し押さえられて国外追放。また今回のようなことを防ぐためにガルーダ人が国や重要な組織の要職に就くことは制限された。こういった施策によりヴィーゼ王国内でのガルーダ帝国の影響力はかなり低下していった。

 ただ、数十万はいるといわれるガルーダ人は罪を犯さない限り、好きな所に住み、好きな所に行って、好きな物を売り買いし、好きなことを言える。さらに排他的なガルーダ人コミュニティも健在といった状況なので、まだかなりの影響力を残しており、不安が一掃されたわけではなかった。


 そのような状況のなか、宮廷内ではトゥルーの処遇に困っていた。今回の鎮圧劇での最大の功労者は誰がみても彼である。ただ信じられないことに、個人で白の塔を半壊させたのも彼であった。宮廷内での意見は遅々としてまとまらなかった。曰く、彼がいなければ王国は亡びていた。曰く、個人であのような魔術を行使できる人物は危険すぎる。曰く、彼は白の塔を辞めさせられたただの隠居である。ただ、このまま何も評価しないわけにもいかず、宮廷魔術師長や白の塔の上級顧問といった無難な処遇案が持ち上がっていたが、既に昇格していたアデリナたちからは、失脚して投獄されているグレーゴールの代わりに白の塔の長官にこそふさわしいと強く推していた。


 宮廷からそれらの話をトゥルーに持っていくのだが、トゥルーは評価してもらうのはありがたいが、白の塔にいたときに評価してもらいたかった。今は自由な隠居の身が性に合っているし、気ままに各地を見てまわるのが楽しいので、堅苦しい役職はいらない。と固辞されてしまった。


「トゥルーさん、白の塔に戻ってくださいよ。トゥルーさんに長官になっていただければ白の塔も変わりますよ」


「今さらなぁ。あと数年したらアデリナ君が長官だろ。大丈夫だよ」


「何を言ってるんです。トゥルーさんはこの国を救った英雄ですよ。隠居なんかしている場合じゃないですよ」


「英雄か……あの時の俺は俺じゃないんだよ。山里で好きな研究して、子供たちに字を教えているのが性に合ってるのさ」


 アデリナたちはトゥルーに白の塔の長官になるよう必死に説得したが、トゥルーは首を縦に振らなかった。

 

 最終的に、王の勅命という形で伯爵に準ずる権限を持ち王以外には命令されず、宮廷や白の塔に参集する義務もない、『大魔道』の称号を与えられた。

 大魔道とは、古の英雄であった魔術師が持っていた称号である。大変名誉な称号であるが、それを聞いたトゥルーの第一声は、


「い、いらねぇー」


 であった。

 王国に危機が及んだときは、王様に呼ばれる。それはよいとして、領土も領民も家来も持たない伯爵の権限とは?トゥルーの知る限り、王宮での儀礼の際、王族の近くに座れるくらいである。そんなことより『大魔道』。名前だけ聞くとどこぞのモンスターか、魔王軍の幹部のような響き。聞こえが悪いことこの上ない。しかし、王の勅命とあれば受け入れざるを得ない。


「トゥルーさん、すごいじゃないですか!あっトゥルー大魔道さまですね」


「いや……からかってるのか?こんな大魔道なんて名前」


「えっ、威厳のある素敵な名前ですよね。今のトゥルーさんにピッタリですよ」


「えっ?」


 トゥルーは自分の感覚を疑った。変な名前だと思っているのは自分だけで、世間では威厳のある素敵な名前なのか。


 トゥルーが『大魔道』という称号を頂いたことは、王国内のみならず近隣諸国までもとどろいた。

 漁村サボでは前回の魔物退治の時以上の歓迎を受け、トゥルー大魔道、トゥルー大魔道と連呼され、豪勢なイカ料理と酒で大宴会となった。酒が入ると呂律が回らない者が増え、トゥルー大魔王、トゥルー大魔王と呼ばれていた。

 トゥルーはそう言われるたびに修正していたが、最後は修正するのをあきらめていた。その大雑把な笑いとうるささの中に、トゥルーは人々の温かさを感じていた。


 酔いを醒ましに広場の方に歩くと、前回来た時にはなかった大きな石の台座のようなものが建っており、いつの間にか隣にいた村長が鼻を高くしながらトゥルーに話しかけてきた。


「どうです。立派でしょう。この台座の上にトゥルー様の像が建つ予定です。あっトゥルー大魔道様でしたね。トゥルー大魔道様の偉業は、末代まで伝えさせて頂きますよ!」


 トゥルーが返答に困っていると、子供たちが集まってきて口々にトゥルーを褒めたたえる。


「やっぱトゥルー様はやると思ってたんだよ!」、「バカ、トゥルー大魔王様だぞ」、「大魔王様?」


 トゥルーはサボの村の歓迎をありがたいと思いながらも、『大魔道』だけはどうにかならないかを真剣に考えていた。


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