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第二十三章:大広間にて

 トゥルーたちが跳んだ所。そこはついさっき跳んだ元の場所、ロンベルク伯爵の屋敷の大広間だった。


 急に明るくなったので、トゥルーたちは眩しそうに目を細めた。ゆっくりと辺りを見ると大勢の警備兵が先ほど持ち込んだ反乱軍を縛り上げており、そこに血だらけの男たちがいきなり現れたので、皆驚いているようだ。


 だが、現れたのはトゥルーたちだけではなかった。ボンデロたちが瀕死の負傷者として。そして反乱軍に加担していた見知らぬ白の塔の魔術師、あの場所に居てボンデロたちを連れ出そうとしていた魔術師のひとりが、集団瞬間移動に巻き込まれたのだ。これにはトゥルーたちはもちろん、その魔術師も目を白黒させていた。

 しかし、それも一瞬。その場の全員が同時に動き出した。


「飛行(フライ!)」


 その魔術師は、自分が置かれた状況は理解できないが周りを取り囲まれているので形勢不利を察し、とにかく飛んで逃げようとした。


「沈黙(サイレンス!)」


 トゥルーは魔術師を自由にするのが最も危険と判断し、その魔術師の呪文を封じようとした。が、一瞬遅く魔術師の足は床から離れた。


 その魔術師に向かって剣を抜いた警備兵が襲い掛かる。それを器用にかわす魔術師。しかし勝負は既についていた。

 ここは大広間。天井は高いとはいえ、外には出られない。窓を壊せば出られるかも知れないが、既に呪文は封じられている。今は発動済の飛行で飛んでいるだけだ。素手で窓を壊すことはできるかも知れないが、トゥルーたちがそれを黙って見ていてくれるわけもない。


「諦めろ!それとも撃ち落されるまで飛んでいるつもりか!」


 トゥルーは飛んでいる魔術師に警告しながら呪文詠唱のポーズをとる。隣にいたヨーゼフも同様にポーズをとる。こちらは撃つ気満々のようだが、ここで爆裂の呪文を使うと建物への被害が甚大なので、それはやめてほしい所だ。そうこうしている間に石弓を持った警備兵が入ってくる。


「降参!降参!、撃つな!撃たないでくれ!」


 魔術師は石弓を持った警備兵まで現れたのを見て、さすがに観念した様子でゆっくりと降りてきた。


「俺は何もしていない。乱暴はやめてくれ。俺は上からの命令で騎士修道会に加勢に行っただけだ。そいつらにも何もしていない」


 そう言って血まみれのボンデロたちを指さす。


「それは知ってる。だがボンデロたちがこうなってなければ、全員殺すつもりだったんだろ?」


「えっそれは……。そんなことはない。ことが済むまで黙っててもらえれば、こっちはそれでいいんだ」


「上とは局長のコンラートで間違いないか?」


「そうだ。上からの命令には逆らえない。お前も分かるだろう」


 その魔術師は自己弁護を始めたが、それに背を向けボンデロたちの元に駆け寄る。

 ボンデロの目はまだ薄く開いていた。トゥルーはボンデロの顔に手をかざし、その目を閉じる。その時、仲間を失った重みがトゥルーの心にのしかかる。その後、まだ息があるアルミンとトビアスの元に駆け寄り、治療の呪文を唱える。


「高位治療(グレート・ヒール!)」

「高位治療(グレート・ヒール!)」


 トゥルーの手のひらに暖かい聖なる光が集まり、二人の体に染み込んでいく。重症だった二人の傷がゆっくりと塞がっていく。滴り落ちていた血が止まり、青白かった顔に血色が戻っていく。


「はぁ、はぁ、ありがとう……ございます」

「ありがとう……ございます」


「まだしゃべらない方がいい。死んでもおかしくなかったんだ。二人はしばらく休んでてくれ」


「ボンデロさんは?」


 トゥルーはそれには答えず、伏し目がちに首を横に振る。それを見た二人は絶句し目を閉じた。


 トゥルーはいたたまれずにその場を離れ、捕らえた魔術師に向き直り、白の塔の現在の様子。具体的には反乱軍とアデリナたちがどうなっているのかを問いただした。


「まず最初に言っておく。これから反乱軍やアデリナのことについてお前に聞くが、嘘をついたり反抗した場合は、そのたびに目や耳や手足がなくなっていくと思っていてくれ。根性があれば舌を噛み切ってもいいが、それで死ねるとは思わないでくれ」


 トゥルーがどこまで本気なのか分からないが、その目は氷のように冷たく、その言葉だけで魔術師を震えあがらせた。


「白の塔の中に反乱軍は何人いて、誰が指示を出してる?」


「ひゃ、百人以上と聞いている。指示を出しているのは危機管理局の局長コンラートだ。他の部署にも仲間はいるはずだ」


(百人以上か……だいぶ食われたな。危機管理局は半分以上やられてる感じか。よく今までバレなかったな)


「長官はどこまで関わっている?」


「グレーゴールさん?分からない。聞いたことがない」


「ガルーダ国からの蜂起の命令はコンラートに届くのか?」


「ガルーダ国?……神キュベレーの神託があって、それを受けてコンラートさんが私たちに指示を出すんだが?」


(ガルーダ国からの指示ということは隠されていたということか……)


「今、アデリナたちはどこでどうしてる?」


「俺たちの妨害をしてきたんで危機管理局で戦闘になった。結局全員捕まえたよ。そうこうしてたら騎士修道会の方から襲撃されているという連絡があって、俺たちが加勢に行くことになったんだ。だから今どこにいるかは知らない」


「見ていなくとも、予想はつくだろう?」


「戦闘のあった危機管理局の中央センターにそのままか、局長室に連れていかれたか、尋問室という可能性もある。まぁ局長室だろうな」


「局長室の場所は?入るのに必要なものは?」


「中央センター前の廊下の突き当り。通常なら普通にノックして返事があれば入っていいが、今は厳しいだろうなぁ。鍵とか結界のようなものがあるかも?」


「分かった、ありがとう。手足が無事で良かったな」


 白の塔の反乱軍の情報を大まかに聞いたトゥルーは、後の対応を警備兵に任せヨーゼフの方をみた。これがおそらく最後の戦いになると理解したヨーゼフはゆっくりと、しかし力強くうなづいた。トゥルーはそれを頼もしく感じ、微かに口元を緩めると呪文を唱え始めた。最後の戦いの為に。そしてアデリナたちを救うために。


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