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第二十一章:参事会の奥で

 トゥルーとヨーゼフは王都近くの街道沿いにある小さな丘に現れた。ここでボンデロたちと合流し、各々の情報を交換した後、すぐに王都内の制圧すべき各々の担当拠点に跳ぶ計画だ。

 トゥルーたちが着いてからほとんど待つことなく、目の前にボンデロたちが姿を現す。


「ボンデロさん、無事でしたか?」


「なんとか。といった所です。抵抗が思ったより激しくてアルミンくんが怪我したんですが、二か所とも制圧できました。そちらは?」


「こちらもなんとか。では手はず通りに」


「ちょっと待ってください。結構呪文を唱えてしまったので、みんな精神力が底を突きそうなんです。ポーションを飲んでちょっと休憩させてください」


 ボンデロたちはそう言うと、懐からポーションを取り出しゴクゴクと飲み始めた。よく見ると白いマントには焦げたような跡があり、肩で息をしていた。アルミンに至っては袖が切られており赤く滲んでいる。呪文で回復はしてるだろうが万全ではないだろう。もうひとりの魔術師トビアスくんだけは無事のようだ。


「行けそうですか?」


「連戦はきついですね。多少休んでも万全ではないですし。まぁ万全でも三人で騎士修道会に殴りこむなんて無謀もいいとこですがね。それでもやりますよ」


 そういうボンデロたちの目には覚悟の炎が宿っていた。自分の命より大切なものがそこにあるのだろう。ちょっと目頭が熱くなる。


 ただ、アデリナのチームが白の塔の裏切り者に対する妨害活動が失敗していた場合、拠点に跳んだ時点で全員が捕縛されるか殺されるだろう。そうなっていないことだけを祈る。


 トゥルーのチームは王都の行政組織である参事会の局長ジークムント。ボンデロのチームは宮廷の戦力である騎士修道会の管区長バルドゥル。アデリナのチームは白の塔の危機管理局の局長コンラートが制圧対象だ。そこにいる反逆者たちの制圧に動くことになるが、制圧とはいっても、数百人を一度に相手にしては勝てないので、その場の反乱の首謀者と側近のみを電撃的に無力化する。可能な限り死者は出したくないが、手を抜ける相手ではない。手を抜いた瞬間、死ぬのはこちらだ。


 トゥルーはひとりひとりに目配せし、準備が整ったことを確認すると参事会近くの路地に跳んだ。そこから大通りに出る。




 そこは大通りに面した参事会の巨大な建物。大きさだけなら王宮に近い。華美ではないが威厳のある建物で数多くの人々が出入りしている。反逆者はここの貿易管理局の局長であり大富豪のジークムント。ガルーダ人と噂されているが、その真偽は明らかになっていない。

 貿易品の数量管理や関税をかける部署だけあって、商人ギルドや冒険者ギルドと縁が深く、金があるので宮廷や貴族たちにも顔が効くというやっかいな所だ。ジークムントが商売で大儲けしていることと無関係ではないだろう。


 トゥルーは参事会の受付で貿易管理局の場所を聞き、三階奥のフロアに向かった。そこの受付では数人の局員たちが商人たちの対応をしていた。少し割り込むような形で局員に話しかける。


「火急の用件でジークムントさんに会いたい。危機管理局のコンラートからの使いだと言ってもらえれば分かる」


「えっ白の塔の?はいっ、少々お待ちください」


 受付の女性が慌てた感じで奥に走っていく。しばらくすると怖い目つきの中年男性が現れ、奥の部屋に通された。

 そこはガルーダ風の派手な装飾、金を掛けまくった悪趣味な部屋であった。その一番奥のテーブルに宝石で全身を着飾っている小太りの男、ジークムントがいた。


「今さらコンラートが何の用だ?まさか怖気づいたのか?」


「ちょっとこの話の前に人払いを」


「心配はいらん。ここにいる者は皆関係者だ。お前たちよりよっぽど信用おけると思うぞ」


 トゥルーはその言葉を聞き、安心して睡眠の呪文を唱えようとしたが、ジークムントのテーブルの上には宝飾品に混じって、見覚えのある虹色に光る石があった。

(結界石?前のよりデカイな。さて、どうするか)


「紅焔爆裂(プロミネンス・エクスプロージョン!)」


 隣のヨーゼフがいきなり爆裂呪文を唱えた。結界石に気付かなかったのだろう。止めきれなかったトゥルーの失態である。そしてその爆裂呪文は発動しなかった。ヨーゼフの顔には困惑と恐怖が入り混じり、若さゆえの未熟さが露わになっていた。ヨーゼフの爆裂呪文はかなり高位の呪文であったが、結界石の性能がそれを上回っていたのだろう。


「何をする!」、「敵だ!」、「引っ捕らえろ!」


 一瞬の間の後、部屋の中は大騒ぎとなった。近くにいた屈強な男たちがトゥルーたちに飛びかかってきた。


(えーい、ままよ)「高位恐慌(グレート・フィアー!)」


 トゥルーが両手を前に掲げると、その全身から荒れ狂う黒い影が噴出し、トゥルーの姿が見えなくなった。その影がかき消えると、トゥルーのいた場所に地獄の底から這い出たような巨大な魔神が現れた。それは絶望と死を体現した姿をしており、それを見たものから大切な何かを吸い取っているように見えた。

 その場にいたすべての者は恐怖で身じろぎひとつできず、ジークムントは口をパクパク震わせながらその場に倒れ込んだ。この場の半数ほどは失神しているようだ。

 隣を見ると、ヨーゼフも耐えきれなかったようで、目を見開いてその巨大な悪魔の方を見ていた。トゥルーはヨーゼフを正気に戻し、指示を出す。


「ヨーゼフくん、すまない。結界石が起こす封魔の結界の中では通常の呪文は無効化されるんだ。ジークムントのテーブルの上にあるあの石だ」


「はっ、はぁ~」


「正気に戻ったばっかりですまないが、この部屋にいる者たちを部屋の中央に集めてくれ。抵抗はされないはずだ」


 トゥルーはそう言うとジークムントの方に行き、テーブルの上にある結界石を杖で殴りつける。が、石は多少欠けるだけで割れることはなかった。今度は床に叩きつけたが、そう簡単には割れないようだ。面倒になったトゥルーは窓を開け、下に人がいないことを確かめると、結界石を窓から下の石畳に向けて放り投げた。結界石は普通の石なのでおそらく割れるし、万が一割れなくても三階のこの部屋は封魔の効果範囲から外れるはずと考えたのだ。


 実際は石畳に叩きつけられた結界石は粉々に割れ、封魔の効果は消えた。その間、ヨーゼフはジークムントと二、三十人いるその仲間たちを乱暴に部屋の中央に集めた。トゥルーは部屋の中央に移動すると大きく深呼吸し、呪文を唱えた。


「集団瞬間移動(マス・テレポーテーション!)」


 床に光輝く神秘的な文字が現れ、それらが幾重もの円を描き、大きな魔方陣を形作った。その魔方陣の上に立っていた者たちの姿が消える。

 呪文が無効化されると魔術師は一般人以下の存在になる。それは正しい。実際あの大きさの結界石を打ち破れる呪文は数えるほどしかない。その中で致死性でない呪文はひとつしかない。それをトゥルーが使えたのは幸運であった。もしそれが使えなければ、確実に死人が出ていたのだ。どちらかに。

 

 そしてトゥルーは跳んだ。この幸運がこれからも続くよう願いながら。


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