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第二十章:覚悟と犠牲

 トゥルーと若輩者のヨーゼフは、ヴィーゼ国随一の軍港ハンブルクに跳んだ。反逆者は海軍大佐フリッツとその一味。停泊している軍艦の艦長だ。居場所が分からないが、地上の基地内か艦の艦橋内のどちらかだと思われた。

 時間がないので二手に分かれる。


「では基地の中には私が行きます。ヨーゼフさんは姿を消して艦の艦橋を外から覗いてください。見えないようであれば、中に潜入をお願いします」


「……すみません、トゥルーさん。私、攻撃呪文は得意なのですが、姿を消すのは……」


「えっ?そんな上級呪文じゃないですよね」


「そっち方面は苦手でして」


「分かりました。時間がないので私が」


「不可視化(インヴィジビリティ!)」


 トゥルーがヨーゼフの肩に手を置き、呪文を唱える。その瞬間、ヨーゼフの姿が消えた。消えたヨーゼフに向かってトゥルーが作戦を伝える。


「標的を見つけた時、対処できそうだったら対処してください。難しそうであれば、派手な呪文を使ってください。どちらにしろ、すぐに合流します。では」


「敵に見つかった場合はどうしましょう?……トゥルーさん?トゥルーさん?」


 トゥルーの姿が消える。この場合、トゥルーは姿が消えただけでなく、基地に向かって高速飛行していた。ヨーゼフの問いに応えることはできない。


 トゥルーはまず基地の外から建物の内外を見て回る。名札を付けてくれるわけではないので、階級章で判断。この規模の港であれば、大佐は十人といない。大佐の階級章を見つけたら後ろから声をかける。


「フリッツ大佐!」


 反応なし。人違いのようだ。神経を使う地味な作業。時間だけが過ぎて行く。いよいよ建物内に潜入して探さなければならないと考え始めた頃、海の方から大きな音が聞こえた。


「ドゴーン!」


「あっちが当たりか!」


 トゥルーは爆炎が見える方、軍艦の艦橋に急行する。派手な攻撃呪文を唱えたせいで、ヨーゼフの姿は丸見えだ。艦橋の方を見ると大騒ぎになっていた。

 ヨーゼフが艦橋に突っ込もうとしている所を見ると、標的を見つけたのだろう。後ろから声をかける。


「ヨーゼフさん、見つけたんですね」


「トゥルーさんですね。艦橋の奥に大佐の階級章を付けた者が。あれがフリッツですよね!」


「……?階級章だけでフリッツだと?」


「えっ違うんですか?」


 ヨーゼフは艦橋の外から大佐の階級章を見つけ、それだけで標的だと判断して爆裂呪文を唱えたらしい。人違いだったら、自国の軍艦を狙ったただのテロリストとなってしまう行為だ。ヨーゼフを見ると、その杖は震えていた。派手な攻撃呪文を人に向けて撃ったのだ、無理もない。

 トゥルーはヨーゼフの次の攻撃を押しとどめると、艦橋の中に入る。


「何が起きた?」、「情報が漏れたのか?」、「フリッツ大佐は無事か!」


 ヨーゼフの考えなしの行動は、どうやら正解を引き当てていたようだ。トゥルーは姿を消したまま艦橋の外に出ると、ヨーゼフに小声で話しかける。


「ヨーゼフさん、あれはフリッツで間違いありません。周りも仲間たちです」


「でしょう!」


「もう一発、同じやつ打てますか?」


「もちろん!」


「紅焔爆裂(プロミネンス・エクスプロージョン!)」


 先ほどの攻撃で魔術障壁を失った艦橋が吹き飛ぶ。生き残っている者もいるだろうが、反乱を起こせる状態だとは思えない。


「攻撃呪文が得意というのは嘘じゃないようですね」


「でしょう。もっと褒めて頂いてもいいんですよ」


「では次に行きましょう。次は北部の要衝リューベックです」


 ヨーゼフはもっと褒めてもらいたい感じであったが、トゥルーは有無を言わさず次の目的地に跳んだ。


 きっと先ほどの攻撃で何人か無関係の者が死んだと思う。しかし、その確認も死者を悼むこともできない。巻き込まれた者やその家族にとっては、自分たちこそが極悪人なんだろう。そう思いながらも自責の念を押し殺し、考えないふりをして次の街に向かう。


 向かった先は要衝リューベックを取り囲む防壁の上。ここから見える商人ギルドの大きな館。そこのギルド副長ゲオルクが反乱の指揮者。制圧すべき敵だ。

 ギルド副長ということは、ギルド長アレクサンダーに隠れてやっているか、ギルド長も仲間か。隠れて反乱を起こすのであればギルド関係者の一部を制圧すれば良いが、ギルド長自身も仲間であればギルド関係者全員とまではいかなくとも、多くの者を制圧しなければならない。

 トゥルーとヨーゼフは姿を消した状態で商人ギルドの最上階、ギルド長がいるであろう所へ飛ぶ。


「トゥルーさん、あの筋肉質の大男は?」


「あれが噂の商人ギルドのギルド長アレクサンダーだ。あの筋肉は交渉事に有利かもしれんが、それで良いんだろうか?」


「で、どうします?」


「中に入って、副長ゲオルグの使いだと言って、反乱の準備ができたと報告し、その反応を見る」


「あーなるほど。話に反応すればゲオルグの仲間。そうでなければ仲間じゃないってことですね」


「そうだ。一体何の話だって返してくれることを祈ろう」


 隣の窓から館に侵入し、廊下に出る。廊下を歩く者がいたが、息を殺してやり過ごす。ギルド長の部屋の前で扉に向かって声を出す。


「ギルド長!ゲオルグの使いで来ました。反乱の準備ができましたので、こちらにお越しください」


「反乱?何の話だ」


「ガルーダとの共闘の話ですよ。お忘れですか?」


「ガルーダ?隣国の?何の話をしている。お前は誰だ?」


 トゥルーとヨーゼフは喜びを噛み殺してハイタッチする。姿を現して扉を開ける。


「失礼しました。私の名はトゥルー。こちらはヨーゼフ。白の塔の魔術師です。火急の用件で参りました」


「火急の用件?白の塔の魔術師が何用で?」


 トゥルーはギルド長アレクサンダーにことの経緯をかいつまんで話し、副長ゲオルグが反乱に加担している証拠を見せる。


「あなた方を疑ってるわけではないのですが、まさか」


「ゲオルグとはどんな人物で?」


「彼はガルーダ人です。たしか祖父の代からここで商売を始め、今ではかなりの大店です。父親もやり手で今の店主ですが、彼は父親以上にやり手であと数年で彼に代替わりすると聞いてます。確かにあまり良い噂は聞きませんが……」


「ここに呼んで頂くことは?」


「できます。少々お待ちください」


 アレクサンダーは扉を開けると使用人を見つけ、ゲオルグを呼んでくるよう言い渡す。しばらくするとゲオルグが武装した男を四人引き連れて入ってきた。


「ゲオルグ。その男たちは?見かけない顔だが」


「ギルド長。しばらく我々と共に来てください。死にたいのなら話は別ですが」


 男たちが剣を抜いてこちらに突き付けてきた。その瞬間、トゥルーが催眠の呪文を唱える。


「催眠雲召喚(スリープ・クラウド!)」


 トゥルーの掌辺りから何かが光り、灰色の霧が部屋中に立ち込める。その霧に触れた男たちの瞳から光が消え、深い眠りにつく。隣を見ると、ヨーゼフが必死に睡魔に耐えていた。曲がりなりにも白の塔の精鋭部隊の一員といった所だろう。ギルド長を起こし、後を任せる。


 ここでの任務は成功した。そしてトゥルーとヨーゼフは最後の戦場となる王都へと跳んだ。黒の伏魔殿が立ちはだかる王都へと。


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