第十九章:電撃戦前夜
トゥルーはロンベルク伯に進言した手前、国内の反乱分子を叩く方法も示したかったが、今今でアイデアはない。ただそれでは格好付かないので、敵軍の動きや自国の現状を色々と聞いている間に頭を働かせる。
「ワイマン家で押収した資料の分析はこれからですが、簡単に読んだ所ではガルーダ国から連絡が来たら行動を開始するという手はずになっていました。分析を進めれば連絡の方法とか誰が仲間なのかが判明すると思います。そうすれば先手が打てるようになると思いますので、少々時間をください」
「……わ、分かった。お願いする」
「それと、伯爵のお名前で王に状況を伝えてもらっていいですか?敵がどこにいるか分かりませんので、できれば直接」
「分かった。どこまでできるか分からんが、力を尽くそう」
「では急ぎますので。ボンデロさん。他の方も一緒に」
「集団瞬間移動(マス・テレポーテーション!)」
トゥルーはロンベルク伯に対し精一杯格好つけると、呪文を唱えた。すると床に光輝く神秘的な文字が現れ、それらが幾重もの円を描き、大きな魔方陣を形作った。その魔方陣の上に立っていた魔術師仲間全員の姿が消え、次の瞬間魔術師たちは大通りの高級宿に現れた、その役目を終えた魔方陣は崩れ、淡く消えていった。普通は町中で瞬間移動などご法度なのだが、一分一秒が惜しい事態なので、皆何も言わなかった。魔術師たちは大急ぎでまとめていた資料をテーブルに戻すと、全員で押収した資料を読みあさる。
全員で読み漁った結果、日が暮れ始めた頃には資料の解析がほぼほぼ終わる。
「前代未聞ですね。ここだけでなく王都でも」
「全部合わせると百か所以上。しかもこの資料だけでは詳細は分かりませんね」
「だが、直接指示を受ける重要拠点は十に満たない。そこを潰せば二次三次の反乱拠点は行動を起こせない。速攻で重要拠点を潰した後に小さい所を潰して行けば良い」
「トゥルーさん、時間的猶予を考えると国王軍が対応するのは難しいかと。今回のように白の塔との合同作戦になりますでしょうか」
「本来はな。しかし、白の塔が動かないことを前提とした反乱計画があるということは、間接的にでも白の塔内部に反乱に加担する者たちがいるということだ。しかも高位の者たちの中にな。今回、君たちが出動する時に変な動きはなかったか?」
「今回は宮廷にいた時に緊急案件として直接依頼を受けたので、上長とか組織的な許可はもらってないんですよ。その辺りを含めて報告書を書いて事後承認してもらうことを想定していました」
「なるほど。となると国王軍とロンベルク伯の軍には動いてもらうが、白の塔に協力は頼めない。それどころか、白の塔内部の反乱分子が妨害に回ることも考えられる。王都での鎮圧作戦は我々でも命がけになるな」
「そんなぁ……」
「白の塔には頼めないが、白の塔に所属していても信頼できる魔術師には頼める。まぁそれでも力があって信頼できる者というのは少ないな。アデリナ君ぐらいか」
「トゥルーさん、あと一人二人力があって信頼できる者に心当たりがあります。戦力になるかと」
「なるほど。ここローテンブルクの重要拠点はあと一か所。ここは現在の国王軍とロンベルク伯の軍に任せて大丈夫でしょう。後は我々五人とアデリナ君たちで手分けして潰せるかどうか。そちらのお三方の力はボンデロさんに劣らない精鋭部隊と考えても?」
四人が顔を見合わせる。一人が弱々しく何かを言おうとしていたが、ボンデロが力強く返事をする。
「もちろんです。そう見積もって頂いて構いません。トゥルーさん、計画を立てましょう」
それから五人で地図をにらめながら作戦を立てる。同時にアデリナの方に念話を飛ばし、力があって信頼できる者の話をした所、挙がった人物はボンデロの言っていた人物と同じであった。まぁそんなものだろう。
「びっくりしましたよ。信じられない話ですが……分かりました、時間がないんですよね。すぐ動きます。ボンデロさんが仰ったそのお二方とは面識がありますから何とかなるかと。この後、ボンデロさんの方から話を通してもらってよろしいですか」
「アデリナ君、すまない。おそらく一番大変な役割を押し付けることになる」
「気にしないでください。本来現役の私たちの役目ですから。それにトゥルーさんを王都から追放するのを止められなかった責任もありますし」
「それはもう気にしなくていいよ。ただそのお陰で、白の塔にいる裏切り者を押さえる役目を君にお願いしなくては……」
結局、ここローテンブルクは現在の国王軍とロンベルク伯の軍に任せる。他の四都市の拠点と王都にある三つの拠点を同時に潰すのは戦力不足なので、トゥルーと経験が浅そうな魔術師ヨーゼフが組み、ボンデロと残り二人がそれぞれ別のチームを組む。この二チームで四都市の拠点を潰す。
その間、王都の三拠点及び白の塔に発覚しないようにアデリナのチームが妨害活動を行う。ただ長時間妨害するのは無理なので、四拠点は一時間以内に制圧。その後、王都の三拠点を三チームで同時に急襲するという作戦だ。
「できますかね?」
ボンデロが不安そうに尋ねる。
「普通に考えれば無理だろうな」
トゥルーが正直に答える。
「えっ?」
「できるか?じゃなくて、やるんだよ。俺たちがやらなければこの国は亡びる。国なんてどうでもいいが、大切な故郷や家族の運命がこの戦いにかかってるんだ。その上で、第一に任務の遂行。第二に自分の命。第三に仲間の命だ。制圧が無理となったら、例え市民に巻き添えが出ようと拠点を破壊して逃げ出すんだ」
「えっ、そんな……」
「躊躇している暇はない。俺たちが失敗すれば、数万の人が殺され、大切な故郷や家族は蹂躙される。すべてを救う力は俺たちにはないんだ」
場が静まり返る。自分たちが失敗すれば、戦争が起こり国が亡ぶのだから当然の反応かもしれない。
そこまで言ってトゥルーは考える。すべてを救う力。ナオにお願いすれば……いや駄目だ。あの力は人が使って良いものではない。一度頼ってしまえば、もう引き返せなくなる。人の運命は人が造っていかねば。
「時間がありません。皆さん、用意は済みましたね。行きましょう」
皆の目の色が変わった。嘆きの色ではない、腹が座ったのだろう。そして全員の姿が消えた。――この国の命運をかけた無謀な戦い。運命の針は、静かに大きく振れ始めていた。




