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第十七章:館での戦闘

 ワイマン家に武装した二百の兵が集まった。五十ほどの兵が館を取り囲み、百五十ほどの兵を館の正面に配置して、大将エルヴィン伯がルートヴィヒ王の書状を読み上げる。

 現場に緊張が走る。読み上げてからしばらく経っても館の門が開くことはなかった。


「トゥルーさん」


「そうですね。地下水路の方に行きますか」


 門の鍵が巨大な戦斧によって轟音と共に破壊された。館になだれ込む兵士たち。トゥルーたちはそれを横目に地下水路へ急ぐ。

 これだけの兵が街に現れたので、ある程度準備されていたのだろう。館の中の扉はすべて閉じられ、物音がしない。窓も閉じられているため、昼間といえど部屋は薄暗い。戦闘の息詰まる空気が辺りを満たしていた。


「カール殿!ことはすべて露呈しておる。今更逃げ隠れしても罪を重ねるだけ。大人しく投降されよ!そしてワイマン家に仕える者たち、お前たちが今投降すれば罪一等を減じよう。元来、お前たちに罪はない。勇気を持って投降されよ!」


 大将エルヴィン伯が大きな声で投降を呼びかける。しかし返事はない。それぞれの扉に複数人を張り付け、主力は階段を駆け上がる。雇われただけの只の使用人だろうか、扉をおずおずと開けて投降する者もいるようだ。

 階段を上がった所にある大きな扉。その向こうは大広間だ。扉を蹴って開けようとするが、蹴る度にわずかに開くだけで中の様子は見えない。ただ、中から金属音や小さな悲鳴が聞こえるので、大広間にはかなりの人数が集まっているのは分かった。

 意を決して重装備の兵が三人、盾を構えて息を合わせ扉に突進した。


「ど――ん!」


 轟音と共に扉が開く。中ではテーブルとそれを押さえていた数人が吹っ飛んでいた。流れ込む兵士たち。迎え撃つワイマン家の男たち。


 迎え撃つ方のワイマン家の男たちは、防具を付けているのは半数に満たない。しかし全員が何かしらの武器を持っており、全員の目が血走っていた。捕まったら死罪もあり得ると分かっているので正に背水の陣といった感じで国王軍に襲い掛かってきた。

 国王軍は充実した装備を誇っていたが、殺害ではなく捕縛を目的としていたため、思い切った戦いができず、思ったような制圧はできずにいた。


 血の匂いと鉄がぶつかりあう音が広間を満たし、双方にけが人が続出して重傷者も現れだした頃、装備が貧弱で回復魔術も期待できないワイマン家の男たちの戦意が次第に失われ、ついには全員が武器を落とし膝をつき、国王軍に降伏した。


 国王軍は息つく暇もなく階段を駆け上がり、三階の執務室に向かう。執務室の扉を蹴り上げ部屋になだれ込む。

 しかしそこには誰もおらず、もぬけの殻であった。国王軍に大きな動揺が走った。


「どこに行った?探せ探せぇ!」、「窓はどうだ?」、「いません!」


「何をしてる!報告があっただろう。この部屋に抜け道があるはずだ。早くしろ!」


 その場の全員で部屋のあらゆる場所を探していた時、本棚の裏側にある抜け道が発見された。

 勇んで最初に入っていった重装備の兵士が狭い通路で引っ掛かり、仲間に引っ張り出されるまでかなりの時間を要することになっていた。




 国王軍が屋敷で手間取っている時、トゥルーはボンデロと共に地下水路にいた。屋敷の抜け道からの出口が見える場所で、当主であるカール子爵が出てくるのを待つ。

 しばらく待っていると、革鎧をまとい細身の剣を持った若い男が辺りを気にしながら抜け道から出てきた。誰もいないことを確認した男は後ろに合図を送る。

 次の男はシックな黒服を着て片手にランタンを持った老人。おそらくは執事だろう。その後に豪華な服を着た初老の男。その態度から当主であるカール子爵と思われた。続けて護衛の魔術師と戦士が二名。戦士は山ほど荷物を抱えて動きにくそうだ。

 六人揃った所で何やら話し始めた。逃げる相談だと思われたが、待ち伏せている方からしたらいいカモでしかない。


「催眠雲召喚(スリープ・クラウド!)」


 ボンデロの掌辺りから何かが光り、灰色の霧が地下水路に立ち込める。抜け道から出てきた六人がその霧に触れ、全員がバタバタと倒れていった。


「まぁこんなものですね。トゥルーさん行きましょう」


 ボンデロがちょっと得意げに六人が寝ている所に近づく。縛る縄がないので、応急措置としてそれぞれが着ている服で縛ろうかと考えていた時、トゥルーがわずかな違和感に気付き、ボンデロに目配せする。


「さて、寝たふりしているそこの魔術師さん。寝てるのに杖を握り直したら、寝てないことがバレますよ。不意打ちすればここの高位魔術師二人に勝てるとでも?」


「とととんでもない。投降します投降します。許してください」


 運が良いのか、呪文耐性が高いのか、この魔術師はボンデロの呪文に耐えていたようだ。ただ、トゥルーたちと一戦交える気概はなかった。

 それから反抗しないように、持っていた武器をすべて水路に投げ入れ、全員を縛り上げる。

 トゥルーが抜け道を逆走した所で、重装備の兵士が通路で引っ掛かっていた。


「エルヴィン伯!いらっしゃいますか?トゥルーです。カール子爵とその一行は身柄を確保しました」


「トゥルー殿か!ご苦労だった。よくやってくれた。すぐにそちらに向かう。待っててくれ」


 声しか聞こえないが、重装備の兵士の向こう側からは安堵の声と称賛の声が聞こえた。

 しばらくして、大将エルヴィン伯と兵士が抜け道から現れた。縛られているカール子爵とその一行を見た大将エルヴィン伯は、満面の笑みでトゥルーの手を握ってきた。抜け道から続けて出てきた兵士たちも、作戦の成功ともう戦闘はなくなったことを大声で喜んでいた。


 後はロスマン家の方が上手くやっていれば、すべての作戦は成功。万々歳である。


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