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第十六章:反逆の芽

 翌日、トゥルーは昨日外泊したお詫びとして、ナオと一緒に街の観光地を回ることにした。

 宿での朝飯後ということで、高級住宅地の近くにある喫茶店のテラスで紅茶を頼み、まずは優雅なモーニングティと洒落込んだ。

 高級住宅地近くとあって、通りを歩く人たちも何となく優雅に見えた。

 そこに、周りと明らかに雰囲気が違う、険しい顔をした四人組の魔術師が速足で歩いていた。

 トゥルーはその中に見知った顔があった。白の塔の危機管理局のボンデロだ。ボンデロはトゥルーを見つけると足早に近づいてきた。


「トゥルーさん、何でこんな所に? あっ、皆さん先に行っててください」


 ボンデロはトゥルーに話しかけると、同行していた魔術師たちを先に行かせた。


「そうですよね。王都を追放されたから……申し訳ありません。私にもっと力があれば」


「その件はもういいよ。ボンデロくんの責任じゃないし、どうにもならなかったんだろ?それより、一体何事だい?」


「実はちょっとここでは話せない内容なんです。ご一緒頂ければ。いや、国の一大事なので何卒!」


 国の一大事と言われても、トゥルーにとってどうでも良いことであったが、山里の子供たちやサボの村の暑苦しい村長の顔を思い出すと、見放すわけにはいかない。それに何が起きているのか心当たりもある。


「ナオさん、すみません。ちょっと行って参ります。先に宿に帰っていてください。後で連絡します」


「えー、またですか。絶対帰ってきてくださいよ」


 ナオはちょっとすねたような表情をしていたが、ちょっとおもしろそうという表情も混ざっているように見えた。暇になったらまた現場にひょっこり現れるだろうし、それは誰にも止められないだろう。

 ボンデロに同行し、他の三人に追いつく。皆顔見知りというわけではないが、面識はあった。トゥルーが王都を追放された身であることを知っている者もいたと思うが、誰も何も言わなかった。おそらく事情を知っているのだろう。

 そのままロンベルク伯爵の屋敷に行く。ここローテンブルクを治める貴族だ。すぐに全員執務室に通される。


「それは本当のことなのか?いや宮廷を疑うわけではないが……」


「ロンベルク伯。それを調査するために我々が来ました。ほぼ間違いないと思ってください」


「ロスマン家にワイマン家。両家とも数百年続く由緒正しい子爵家。まさか隣国と通じていようとは」


「ワイマン家については、以前から噂はありましたからね。宮廷でも密かにマークしてました。ロスマン家は意外でしたが」


「まずは我々が先行して調査を行います。今日。そして明日には重装騎士を含む国王軍三百がこちらに到着する予定です」


「大事だな。先行調査の結果次第だが、我々も軍を出させてもらう」


「ご協力、感謝します。では」


 ロンベルク伯は沈痛な感じであったが、ボンデロはそんなロンベルク伯に最低限の報告をすると他の魔術師と共に部屋を出て行った。そのまま両家の調査に入る。トゥルーはボンデロと共にワイマン家の調査に。他の三人の魔術師はロスマン家の調査に向かうことになった。


「トゥルーさん、ありがとうございます。こんなことに付き合わせてしまって」


「いや、いいよ。国の一大事なんだろ(そもそも王宮に盟約書送り付けたの俺なんだよなぁ。しかも、いたずら書き付きで)」


 トゥルーとボンデロはワイマン家の屋敷に着くと、姿を消し、気配を消し、宙を飛んだ。そのまま当主の執務室に向かう。


「流石ですね、トゥルーさん。開発部門にいたとお聞きしておりましたが?」


「まぁ長いこと、色々やってましたから」


「我々と遜色ありませんね。やはり我々の部署に」


「その話は、また今度」


「失礼。任務の途中でした。これから執務室に向かいますが当主のカールは外出していて昼過ぎまでは不在です」


 それから二人で手分けして執務室内を家探しする。さすがに先日の誓約書のような決定的な証拠は出てこなかったが、隣国の使いとの交渉内容や条件の考察案など、単体では証拠とまでは言えないが、合わせることで証拠として十分なものとなるものが見つかった。おそらく単体では寝返りの証拠と成りえないので油断していたのだろう。それらを押収し、残りはバレないように元に戻す。

 その家探しで本棚を調べていた時、本が本棚の奥に当たった時の音が響きすぎることに気付いた。裏側は石壁でなく空洞になっているようだ。本棚の隙間のロックを外すと、奥に続く階段を見つけた。階段を降り人一人がやっと通れるくらいの細い道を進むと、それは地下水路に続いていた。そこから地上に出られることを確認して屋敷に戻る。


「証拠の品も抜け道も発見できましたし、あとはバレないように片付けて帰りましょう」


「明日はどうするんだい、ボンデロくん」


「ロスマン家に行った方の報告を聞いてからになりますが、国王軍と共に、ワイマン家とロスマン家の当主と家族及び重鎮たちの捕縛に同行します。あっロンベルク伯の軍も同行されるそうです」


「なるほど。明日は大捕り物になるってことだな」


「そうですね。ただあくまで主役は国王軍ですので、遊軍扱いですかね」


 ボンデロはそう言うと、自分たちの役目はほぼ終わったと安堵の表情を見せた。

 ボンデロたちが取っていた宿は大通りに面した高級宿の広い一室で、十人ぐらいは寝泊りできそうな部屋だった。ワイマン家から勝手に押収した資料を広いテーブルで整理していると、ロスマン家に行った方の魔術師たちが帰ってきた。

 ただロスマン家の方は反逆罪の裏付け証拠が見つからなかったそうだ。ただし人身売買や密輸といった犯罪の証拠は山ほど見つかったので、捕縛することに変わりはないとのこと。

 明日は国王軍が朝方着くので、軍の隊長らとここで待ち合わせの後、昼前には捕縛に着手するとのこと。それを聞いたトゥルーは一旦自分たちの宿に戻った。


「戻りました」


「お帰りなさい、トゥルーさん。もう済んだのですか?」


「すみません。本番は明日なんです。明日は朝出かけて昼過ぎにはほぼ終わっていると思ってるんですが」


「では、明日のアフタヌーンティは頂けそうですね」


「そっそうですね」


 トゥルーはナオの返しを聞いた瞬間、しまったと思った。今さら取り返しはつかないので、明日の大捕り物がすぐ終わることを静かに天に祈った。お陰で割と奮発したはずの夕食の味があまりしなかった。


 翌朝、トゥルーは朝飯もそこそこに待ち合わせの高級宿に急いだ。そこには四人の魔術師と四人の軍人がいた。三人は銀色に輝く見事なフルプレートアーマーを着込んでおり、息を切らしていた。この格好で移動してきたようで、大した根性である。後の一人は豪華な白の軍服を着こなしている壮年の男性で、雰囲気からして三人の上官だと思われた。


「では、我々は部隊を二つに分けてそれぞれの館に向かいます。門の所で罪状と王の書状を読み上げます。すぐに門を開けて投降すれば、そのまま捕縛。開けなければ門を破壊して中に入ります。この場合は戦闘になるかも知れませんね」


「エルヴィン伯。我々に期待することは?」


「最初の話の通り、戦闘も捕縛も我々国王軍が行う。ただ、敵方に高位の魔術師がいた場合や逃走されてしまった場合には手を借りたい」


「分かりました。では参りましょう」


 宿を出てロンベルク伯の屋敷に向かう。屋敷には大将エルヴィン伯が指揮する国王軍三百人と盟主ロンベルク伯の軍が百人。計四百の武装した兵が出陣を待っていた。朝日を反射し鈍く光る鎧と、兵たちの重い足音が空気を張り詰めさせる。戦争でもない限りこれだけの兵が集まることはないので非常に壮観であった。

 大将エルヴィン伯の号令により四百の兵が動く。それを脇で見る形のボンデロがトゥルーに目配せし、ワイマン家に向かう。トゥルーはナオとの約束を守るため、ただ早く終わることだけを願っていた。


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