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第十五章:偽りの幸せ

 瞼をこすりながら扉を開けたトゥルーの前には、あの口も態度も悪い三男のダミアンがいた。ダミアンが押し入るように部屋に入ってくる。


「ちょっと話があるんだ、聞いてくれ」


「なんですか?こんな夜中に!」


 トゥルーは目一杯不機嫌な声を出した。半分は威嚇だが、半分は本当に怒っていた。


「……こんな時間に来たのは謝る。わけがあるんだ。俺は三男だから上の兄貴が家を継いだ今、ここを追い出される。可哀想だと思わんか?」


「それで?」


「龍の模様が描かれている取っ手が付いた、でかい犬歯のような魔道具がある。それをただのインテリアだと鑑定して欲しい。もちろん謝礼も出す」


「理由は?」


「親父の遺産はほとんど兄貴のもんになる。現金は少ねぇから、俺たちがもらえるのは親父の集めたガラクタが主だ。その中で安物に見せかけたお宝があれば、俺がそのお宝を頂いて、家を出た後に売っ払えば生活の足しになるって寸法だ。お前にも分け前をやる。どうだ、悪い話じゃねぇだろ」


「悪いがそれは難しいな。魔道具屋のじぃさんと一緒に作業してるし、執事のベンヤミンさんも確認に来る。それに依頼主を裏切ったとなれば信頼に関わる」


「けっ白の塔かよ。表立ってないだけで、あそこも結構汚いとこだろうが」


(その通り。その前に俺はもう白の塔の関係者じゃないけどね)


 ダミアンはその後も自分の不幸や長男の悪口を言っていたが、トゥルーにその気がないと分かると不機嫌全開で帰っていった。

 睡眠を邪魔されて不機嫌なトゥルーがようやく寝付いた時、再びトントンと扉をノックする音が聞こえた。トゥルーは来客者をだいたい想像できており、実際その通りであった。


「こんな夜中にすまないが、聞いて欲しい話があるんだ」


 さすが兄弟である。考えること、やることが同じ。トゥルーはうんざりしながら次男ブルーノの話を聞き、その話を断った。

 次の日の朝、寝不足の目をこすりながら運ばれてきた朝飯を頂く。魔道具鑑定のために地下に軟禁状態だが、気を遣っているのか飯は結構良い。このまま何もなければ今日中に終わると思われた。

 鑑定作業中、魔道具屋のゼーゼマンが怪しい動きをしていた。手に持ったメモをチラ見してすぐに隠したり、魔道具を見るなり鑑定を行わずに目録に記入していたりしていた。その数は五つ。そのうちの一つはダミアンが言っていた魔道具だった。

 明らかに次男、三男に買収されていた。ひょっとすると長女からも。

 トゥルーは一計を案じ、ゼーゼマンが他の物を鑑定している間や手洗いに行ってる間に、その五つの再鑑定を行い、別の目録に記録しておいた。

 夕刻前にすべての鑑定が終わり、長男クラウスの私室でトゥルーが鑑定した目録と、ゼーゼマンが鑑定した目録とを合わせてクラウスに手渡す。


「ご苦労様です。こちらがお約束の魔道具と、こちら少ないですが金貨となります。ご確認ください」


 報酬を確認すると、ゼーゼマンは何かから逃げるように帰っていった。トゥルーはゼーゼマンが帰ったのを見届けた後、自分が見たことをクラウスに話し、自分が再鑑定した目録をクラウスに渡した。


「これは……ありがとうございます。そして申し訳ありません。あいつらも昔はあぁじゃなかったんですが」


「そうですか。こちらも勝手にやったことなんで。ではこれで」


「ちょっとお待ちください。えーと、これをお持ち帰りください」


「これは?」


「金貨で謝礼をしたいのですが生憎。これは亡き父親から兄弟仲良くと渡された魔道具で、幸せのハトという名のものなのですが、もう……」


「分かりました。何かあるといけませんのでこちらで鑑定を行わせてください。その上で」


「分かりました。お願いします」


 その魔道具をトゥルーが鑑定した結果、その魔道具は精神を幸せな過去に送り、その幸せな気持ちを持って現在に戻って絆を深める。という珍しい物であった。

 ただし、その過去が偽物の幸せであった場合、その幻想に魂が囚われ、二度と現実に戻れなくなる。という危険な魔道具でもあった。

 そのことをクラウスに伝えた所、やはりお持ち帰りくださいと言われた。もう昔の兄弟には戻れないということだろう。

 はとの形をしたその魔道具は稚拙に見える出来なので、おそらく売ってもそんなに高値は付かない。親の気持ちあってのものだと思われた。

 これでこの依頼は完了だなと思い部屋を出て、屋敷から出て行こうとした時、ブルーノとダミアンとデボラがトゥルーを待ち構えていた。


「おい、お前!自分が何をやったか、分かってんだろうな?」


「その見たことのない魔道具は、兄貴にチクった礼か?なら、俺たちがもらっても構わねぇよな」


「止めといた方が良い。これは危険な物だ」


「そんな危険なものがこの家にあるはずねぇだろ。元々この家のもんだろう。迷惑料としてもらってやるって言ってんだよ」


 三人は魔道具を渡すよう、トゥルーにしつこく迫った。トゥルーは力ずくではねつけても良かったが、面倒くさかったので、その魔道具を三人に渡した。


「これは渡すが、危険なものだということは肝に銘じておいてくれ」


 トゥルーは兄弟が変に魔道具を起動しないか心配ではあったが、元々の報酬は頂いているので、もうそれ以上考えないようにしてナオのいる宿屋に帰った。


「やっと終わったよ。まぁ変な魔道具が色々見られたんで、そこは楽しかったけどね」


「それは良かったですね。その魔道具はお土産ですか?」


「報酬としてね。産まれた女の子が幸せになる願いを込めたブレスレットです。南の国で造られた物なんですが、ナオさんに似合うと思いまして」


「えっ、頂けるんですか?嬉しい」


「良かった。正直不安だったんですよ。いらないって言われたらどうしようかと」


「そんなこと、言うわけないじゃないですか。つけて頂けます?」


「あっはい。えーと、ここを外してから……こうか」


「ありがとうございます。一生大事にしますね」


 ナオは本当に嬉しそうに見えた。超越者オームではなく、ナオという女の子としては嬉しいんだと思われた。プレゼントを渡したトゥルーも嬉しかったが、ふと一生っていつなんだろうと考えた。そんなことをしているとナオが微笑みながら壁の方。あの富豪の屋敷の方角を見てつぶやいた。


「やっぱり愚かだわ」


 その声に感情はなく人の弱さを見透かす響きがあった。それを聞いたトゥルーはあの愚かな兄弟が魔道具を発動させてしまったことを察した。


「偽りの幸せだったってことか。子供のころから元々あぁいう性格だった。仲の良い兄弟というのは幻だった。彼らには、真の絆など初めから存在しなかったってことか」


 トゥルーはさっきまでの幸せな気持ちがちょっと削がれた気がした。幸せは儚く脆いもの。トゥルーはそれを思い出していた。


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