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第十四章:相続争いと魔道具と

 数日後に起こるであろう大騒ぎを想像しながらアップルパイを食べ終わったトゥルーは、ナオと別れ趣味の魔術に関する本や魔道具を見て回っていた。


(俺もやることが大胆になって来たなぁ……たぶんナオの影響かな?)


 トゥルーはここ最近の出来事を思い出し、ナオに会うまでの人生すべてを合わせても足りないほど濃く、充実していることに今更ながら驚き、また感謝していた。


 ここローテンブルクでは魔術的な本や道具の品揃えは王都には及ばない。が、異国由来の物や変わった物、怪しい物の品揃えは王都より多い。トゥルーはまずは色々見て回ろうと専門店のはしごを楽しんでいた。大きな魔道具専門店で異国の魔道具を見ていた時、後ろから声をかけてくる者がいた。


「トゥルーさん、景気はどうだい?」


 後ろを向くと、そこには胡散臭い盗賊コスイネンが、口元を片方だけ上げたひと癖ある笑顔でこちらを見ていた。


「あー、昨日はどうも」


「他人行儀やな。実はトゥルーさんにえぇ話を持って来たんや」


(胡散臭ぇ~)


「なんや、もっとえぇ顔しぃや。今度の話も実入りはえぇで。俺は手伝えへんけどな」


 ここじゃ何だから。ということで、時間的には早いが酒場に行き、エールを飲みながら話を聞くことになった。

 話としては、ある魔道具収集家の富豪が亡くなって遺産となった魔道具を鑑定しなければならないのだが、魔道具を正確に鑑定できる者を探している。そこで白の塔の宮廷魔術師であったトゥルーに手伝ってほしい。報酬にはその魔道具を当てたいという話であった。

 確かに白の塔の宮廷魔術師であれば、魔道具の鑑定はできる。が、この街にも鑑定ができるやつは五万といるはずで、態々白の塔の宮廷魔術師を頼る意味はない。もちろんある程度魔道具鑑定ができそうな力を持つ知り合いがトゥルーだけだった。という可能性もある。

 胡散臭くはあるが、正体不明の魔道具を時間をかけて見られる。更に交渉次第で珍しい魔道具ももらえるということで、トゥルーはこの依頼を受けることにした。




 その館は古めかしく、当主の趣味なのかちょっと怪しい雰囲気を持つ外観をしていた。コスイネンの後にトゥルーが付いて館の中に入って行くと、執事のような男とコスイネンがしばらく何かを話していた。かと思うと執事がチャラチャラ音のする布袋をコスイネンに渡し、コスイネンが中身を確認し、いつものひと癖ある笑顔を見せていた。


「トゥルーさん、おおきに。後はよろしく!」


 何とそのまま帰っていった。あのチャラチャラ音のする布袋は紹介料だったようだ。


(このやろー、何か腹立つなぁ)


 トゥルーは別に自分が損するわけではないが、自分をネタに小銭稼ぎをされたことにちょっと納得し難さを感じていた。そんなトゥルーに執事が声を掛ける。


「トゥルーさん、執事のベンヤミンです。今回のお話はお聞きでしょうか?」


「えぇ、一応。遺品となった魔道具の鑑定ですよね」


「その通りです。ちょっと数が多いのですが、魔道具の効果と大まかな金額的価値が分かれば。もう一人、魔道具専門店の主人がいりますので、協力して頂いて目録が完成するまでが依頼内容となります。報酬ですが、金銭での支払いも可能なのですが、魔道具の現物で良ければそちらを優先して頂ければ……」


「現物オンリーだろ!これ以上、金を減らすなよ!」


 執事のベンヤミンの説明の途中に下品なヤジが入った。奥をよく見ると上品な格好をしている男が三人、女が一人。ソファーに座っていた。ベンヤミンが男たちを紹介する。


 「一番奥におられるのが長男のクラウス様。次が次男のブルーノ様。手前が三男のダミアン様。右奥の女性が長女のデボラ様です」


 長男のクラウスが立ち上がり、こちらに近づく。


「白の塔のトゥルーさんですね。クラウスです。依頼したい内容は今ベンヤミンが話した通り。これは本日中には終わらないでしょうから、部屋も用意してます。作業は申し訳ないですが地下で。目録が出来上がるまでは外出も控えて頂きたい。あと細かいことはベンヤミンの方から」


「兄貴!そいつ、信用できるんだろうなぁ」


 三男のダミアンは口も態度も悪い。細身で浅黒、目付きは常に誰かを値踏みしているようで、まるで良い服を着たコスイネンのよう。三十代後半に見えるが、典型的な富豪のドラ息子のようだ。親が死んだ今となっては、長男が家督を継ぎ、いくばくかの金を渡され家を追い出される身分。

 次男のブルーノはダミアンほどではないが、友好的ではない。色白だが見た目はダミアンに似ている。立場としてはダミアンと同じくいくばくかの金を渡され家を追い出される身分。

 長女のデボラは細身で長身。色白で切れ長の目、熟女の色気を出している。おそらく既にどこかの富豪か貴族に輿入れしているはずで、ここで遺産がもらえなくても生活に困ることはないはずだが、もらえるものはもらっておこうということだろう。


「ではトゥルーさん、こちらへ」


 執事のベンヤミンに案内され部屋を出る。廊下の突き当りにある頑丈そうな扉を開け、地下に下る。薄暗い階段を降り、廊下を歩くと左右に部屋が幾つかあり、突き当りには、一階よりも更に頑丈そうな扉があった。

 その扉の鍵を開け中に入ると、明らかにただの品物ではないと分かる、多くの魔道具が綺麗に陳列されていた。


「これはこれは。すごいなぁ」


 トゥルーはその壮観な光景に息を呑む。個人で魔道具をこれほど収集しているのは見たことがない。


「故人はこれらの目録を残してなかったのですか?」


「アルム様は珍しい魔道具を収集して鑑賞されることが趣味で、その実用的効果や整理などにはあまり興味がありませんでした」


「面白そうな物を集めて、見て楽しむだけ。ということですね」


「そうですね。あっもう少ししたら魔道具屋のゼーゼマン様もいらっしゃいますので、それまであちらのお部屋でお待ちください」


 案内された部屋はそれなりに立派であるが、地下の部屋なので何となく暗く湿った感じがする部屋であった。出入口は一か所しかなく、鑑定は見ず知らずの二人で行うから、口裏合わせも難しい。持ち逃げ対策ということである。

 遅れて魔道具屋が現れ、トゥルー同様、魔道具の数に圧倒されていた。


「これはこれは。すごいですなぁ」


(それはさっき俺が言った)


 トゥルーは心の中で突っ込みながら魔道具屋のゼーゼマンと共に鑑定作業に入る。


「ゼーゼマンさん、今回は数が多いので二人で手分けして進めましょう。まずは左側の棚をお願いできますか。私は右側の棚を進めますんで」


「トゥルーさんでしたか。構いませんよ。最後に合わせて目録としましょう。今日中に終わるような量じゃないですからのう」


 それからは二人で魔道具の鑑定を始めたのだが、室内専用の降雨ランプ(使い道が思いつかない……)とか、一発だけ魔法砲を撃てる兜(格好良いが、反動で首が持っていかれそうだな)とか、実用性の怪しい魔道具のオンパレードであった。ゼーゼマンは鑑定中に間違って動く人形を起動させてしまい、背中に張り付かれて大騒ぎしていた。

 どのくらい時間が経ったか分からなくなった頃、執事のベンヤミンが部屋に入ってきた。


「どうです?順調ですか?」


「見ての通りです。半分も終わってません。まぁ予想はしてましたが」


「お疲れ様です。お部屋に食事を運ばせております。今日は終わりにして、また明日お願いします」


「お心遣いありがとうございます。変な……失礼。変わったものが多いので、ちょっと疲れました」


 今日は終わりということで、トゥルーとゼーゼマンは各々の部屋に戻って食事を取り、早めの床についた。


 トゥルーが疲れで完全に就寝した頃、トントンと扉をノックする音が聞こえた。半分寝ぼけているトゥルーは体を起こしながら、それが面倒事ではないことを祈った。


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