第十二章:足手まといと依頼の達成と
その屋敷は豪華ではあったが、それほど大きくはなかった。ここ五年十年は手入れをされていないようで、かなり荒れていた。ただ、塀は高く門は頑丈な造りとなっており、防犯意識は高そうに見えた。
コスイネンが門の所で何か作業をしているようだが上手くいってないようだ。
「サリバンさん!これ開かねぇよ!」
コスイネンがイライラした声でサリバンに文句を言っていた。手には重厚な鍵を持っていたので、サリバンからもらった鍵で開かなくてイライラしているのだろう。
「おかしいですね。鍵は合っているはずなのですが……」
「鍵は合ってるかも知れんけど、こりゃ壊されてるで。この街で人のいない屋敷なんて、泥棒に入ってくださいっていってるようなもんや。素人が開けようとして失敗したんだろうぜ。で、どうするんや?」
「どうしましょうね……」
二人はしばらく話し合った後、こちらに協力を求めてきた。
「皆さんすみません。鍵が壊れていて中に入れません。このままですと出直すことになりますが、皆さんの中で中に入る方法をご存じの方はいらっしゃいませんか?」
男たちは顔を見合わせていた。誰も入れないようだ。
「塀をよじ登れば?」
男たちの一人が壁をよじ登ることを提案するが、それはあまりに稚拙なので、トゥルーは思わず口にする。
「止めた方が良い。出入口じゃないから罠のかけ放題だ。死人が出てもおかしくない。開きっぱなしになってもよければ私がやっても良いが?」
視線を向けられたサリバンがちょっと驚いたような顔をして返事した。
「そうですね。お願いします。他に方法はないようですし」
「では」
トゥルーはわざとちょっと不機嫌な態度で門の前に歩み寄り、呪文を唱えた。
「局所破壊(タイニー・デストラクション!)」
トゥルーの指先が瞬間的に光ったと思うと、それに呼応するように門の鍵穴から甲高い音が鳴った。
「ガキッ!」
「開いたよ。入ろうか」
トゥルーは先頭をコスイネンに譲り、依頼者のサリバンを残して屋敷の中に入る。屋敷に入る扉はコスイネンが開けた。面目躍如といった所だ。
屋敷に入ると、コスイネンはこの屋敷の見取り図を取り出し順調に進むかと思いきや、そうではなかった。
「落ちる落ちる!」と叫びながら床板を踏み外す者、「この扉、どうなってんだ!」と見え透いた罠を発動させる者、「そこ、触るな!」と叫んだ直後に結界に閉じ込められる者。
室内探索が専門ではないトゥルーの目からしても、素人としか思えない迂闊な行動の数々で、おもしろいほど罠や魔術結界を発動させまくる冒険者たち。
トゥルーはそんな冒険者たちをサポートしまくるが、全く追い付かず、罠に引っかかった者を引き上げたり傷を治したりと大忙しとなった。
あらゆる寄り道をした冒険者たちは、ほうほうの体で地下二階の目的の場所に着いた。
「ようやくやな。見取り図の通りなら、お宝はこの向こう側や。当然魔物もいるはず。みんな気合い入れろよ!トゥルーさん、お願いします」
コスイネンが息を整えながら皆に発破をかける。慎重に扉を開け、全員が部屋の中に入る。
そこは豪勢な造りの大広間で、奥が一段高くなっていた。そこには家の主人が座るであろう豪華な椅子があり、そこに何かが座っていた。
元は豪華であったであろう、高貴な雰囲気を持つボロボロの服をまとい、王冠のようなものを戴いた骸骨。その存在は怪しく揺らぎ、半透明。そしてその目は青白く光り、敵意に満ちていた。その視線は氷の刃のように鋭く、見る者の魂を削るかのようだった。
冒険者がその骸骨を認識し、動き出すと同時にその骸骨も動き出す。
「魔物ってこいつかぁ!」、「無理だ無理だ、引き返せ!」、「誰かぁ!」
皆パニックを起こしバラバラな行動をとる。とても冒険者とは思えない。
「こいつは不死貴族だ。不用意に近づくな。皆で離れて攻撃してくれ。その間に俺が何とかする」
トゥルーが冒険者たちに指示を出す。しかし、我先に逃げ出そうとした者が扉が開かないと悲鳴をあげる。恐怖からトゥルーにしがみついて邪魔をする者までいる。そんな中、コスイネンが気配を消して奥の戸棚を漁り、何かを見つけたかと思うと、奥の扉から自分だけ逃げだそうとしていた。
急遽使う呪文を変える。
「催眠雲召喚(スリープ・クラウド!)」
トゥルーの掌辺りから何かが光り、灰色の霧が部屋中に立ち込める。その霧に触れた男たちの瞳から光が消える。この部屋にいる冒険者たち全員がバタバタと倒れていった。
「よし!」
冒険者たち全員が寝たことを確認すると、トゥルーは急いで栄光の指輪をはめ、破邪の呪文を唱えた。
「大聖破邪(アーク・ホーリー!)」
両の腕を大きく広げたトゥルーの体が眩しいほど光り輝き、部屋の中が聖なる光で満ちる。その光を浴びた不死貴族の動きが鈍り、体が崩れ、光の中に消えていった。
「やれやれ。一体どんな宝を盗ってトンズラしようとしてたのかな?」
トゥルーはコスイネンのそばに寄り、足元に落ちているものを拾う。
「巻物か?宝物じゃない。何が書かれてるんだ?」
トゥルーは巻物を開き、中を読んだ。そこにはワイマン家が隣国ガルーダと戦略的互恵、つまりいざという時には国を裏切るという盟約書であった。それはこの国の未来を揺るがす爆弾のようなもの。
「……なんだこりゃ?……こんなもの……さてどうするか?」
一考したトゥルーは盟約書に追跡の呪文をかけ、コスイネンを一発殴った後、幻影の呪文を唱えた。
「幻影創造(クリエイト・イリュージョン!)」
部屋の真ん中の空間が微妙に揺らいだかと思うと、先ほどの不死貴族がまるで復活したかのようにその場に現れた。もちろんただの幻影である。
その後、巻物をコスイネンの手元に戻し、催眠の呪文を解く。
皆ふらつきながら起き、コスイネンは急いで巻物を手に取ると、再び奥の扉から逃げ出そうとする。
トゥルーはそんなコスイネンの進路に被さるように移動し、わざとぶつかって巻物を叩き落した。
その巻物を拾い上げ、全員に大声で伝える。
「宝は取ったぞー、みんな逃げろー」
「やったぁー、逃げろ逃げろ!」
大声を上げながら全員で逃げ出す。屋敷を飛び出した所で、皆思い思いに依頼成功の雄叫びを上げていた。




